第44話 このパーティで
ダンジョンの前に着いた。
それも、普段授業で行くのとは違う場所。ギルドのすぐ近くだった。
「一応、ここの付近にいる魔物だけで達成出来る依頼ばかり集めてる」
「さすがユーリだな。魔物の種類と……発生しやすい場所がちゃんとリンクしてんだな」
「おい、オットー。遠くから来たばかりのハルカが言うならともかく、お前は去年のテストで覚えたはずだろ?!」
「丸暗記だったからなぁ……」
「お前なぁっ!」
男同士が再びあれやこれや言い合う。
「……無視しましょ。いつものことよ」
「う、うん……」
アイリスが呆れたように、そう私に声をかける。彼女も大変だ。
ユーリたちがこっちに来た。
「それじゃあ、いつも通り、オットーが引きつけて、俺が攻撃する。アイリスにオットーの治癒を任せる。ハルカは、オットーが引きつけるのと同じタイミングで、あのスキル……【神楽舞】を始めてくれ」
「「「了解!」」」
ついに、ダンジョンに足を踏み入れた。
「じゃあ、まずはこの辺でアクア・ミドルウルフだな。オットー、ハルカ、準備は良いか?」
「おっす!」
「うん!」
オットーが魔道具を操作する。
それと同時に……私は、扇を取り出し、はらりと開く。
体が、舞に導かれていく――
☆
ハルカが舞を始めてから程なくして。
「グルルル……」
アクア・ミドル・ウルフの群れが、姿を現した。
ミドル・ウルフが成長したスタンダード・ウルフは基本的に単独行動だ。インファント・ウルフは、そもそも巣穴から出ることがない。しかし、ミドル・ウルフは群れをつくる。だからタチが悪い。1匹はスタンダード・ウルフに比べれば弱いが、群れとなれば話が違う。
だが、各々は弱い。特に頭脳は。だから少し戦いに慣れた者にとっては、アリの大群のようなものだ。
オットーは、範囲指定をして挑発魔法を使った。すると、見事なまでに、指定した範囲に全てのウルフが集まった。オットーの目の前、盾の正面に、ほとんど列をなしている。
それらを、ユーリは……
「氷よ! 我が前に針山を為し、かの獣らを穿て!」
彼がそう唱えれば、地面からは無数の針が生え、ウルフらをまとめて突き刺した。
まさに一網打尽。
汚れなき無色透明の針は、脆そうに見えて強靭で、彼らの心臓を寸分違わず貫く。
そうして、氷は中で爆発する。彼らは氷漬けになったのだ。
ふと、ユーリがハルカを見やる。まだ舞っている。
「ハルカ、もう良いぞ」
しかし、彼女が気付く様子はない。
☆
何も見えずに舞い続けていたとき。
《ハルカ! ユーリが呼びたる。舞を止めよ!》
「う、ん、はいっ」
……待った。ユーリが呼んでるって?
そうか。舞を舞っている時の私は、神様の声以外に反応することが出来ないんだ。
「ご、ごめん、気付けなくって」
「いい」
短く返事して、彼はみんなの方を向く。
「何か、普段との違いを感じたか?」
「俺は……多分だが、いつも上手いこと使えねえ魔法が使えた……こととか?」
「私は……そうね、そうかも」
みんな微妙な反応。……そっか、そうだよね。
おそらく、ドラゴンの討伐ではみんな魔力を膨大に使った。その分だけ私の舞が役立ったのだろう。だが、ウルフは、私にとっては強いけれど、みんなからすれば弱い方だろう。だから、もともと充分足りている魔力を更に補充したところで、特に意味はないのだ。
まして、ユーリがあんなにハードルを上げてしまったから。
とりあえず、どこかで役に立とうと思って。
「えっと、このパーティ、サポーターって居ないの? 討伐証明部位とか採取する人って居た方が良いって、戦術基礎で言ってたよね?!」
「あー、それは、ユーリの魔法で一括回収できるから……」
「あ……」
失敗。つい肩を落とす。
改めて思う。私、このパーティで貢献できるのだろうか。足手まといにならなければいいけど。
その後も、何度か戦った。
ウルフにドードー、トロール……それはもう沢山の魔物を狩った。
「あれ? 俺ら、いつもこんなにやってたっけか?」
「確かに……そうね」
その言葉に、ユーリが微笑む。
「そう。ハルカが居れば、魔力不足が永遠に起こりえないんだ。したがって体力も無限に回復出来る。これなら、1日あたりの討伐数が飛躍的に上がるだろう」
「なるほど! そういうことか!」
「ハルカは大丈夫なの? 私達の魔力を補ってくれるって言っても、ハルカ自身の魔力は……」
「それなら問題ない。あのドラゴン討伐の時、ハルカはこのスキルを使っていたが……最初から最後まで、変わった様子は無かった」
「それは凄いわ!」
「影の実力者……ってえやつだな」
「そういうことだ」
3人が、それぞれに私を持ち上げてくれる。
私は、面映い気持ちになる。
ようやく、このパーティでもやっていけそうな気がしてきた。
――この後だった。私のギルドカードに、新たなスキルが書き込まれる出来事が起こったのは。





