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第43話 いっぱしの冒険者!

 夏休みも後半になった。


 あれから、みんなの帰省期間が終わるまでは、毎日ソフィアと練習に励んだ。武術のこと、魔法のこと、たくさん教えてもらい、やっぱりソフィアは凄いなあと思う日々だった。でも、怖いと思う気持ちはすっかり消えていた。


 やがて、帰省が終わり、ユーリたちが戻ってきた。ソフィアのパーティメンバーも大方が戻ってきたらしい。それからは、ふたりは別々に、自分のパーティで活動し始めた。


 今まで、私は授業でみんなと一緒にダンジョンに転移して、魔物を討伐していただけだった。でも、授業外での冒険者活動は、自分たちでギルドで手続きをして依頼を受けて行う。みんなは休暇だけでなく放課後にもよくやっているらしいが、私は初めてだ。ギルドにさえ足を踏み入れたことがなかった。


 場所を知らないので、ユーリたちについていく。学校の敷地外に出たのは、巫女装束を買ってもらったあの日以来だ。改めて街並みを見る。いかにも中世ヨーロッパを思わせる、おしゃれな石畳の街並みを。羽根のついた馬が颯爽と車を引き、空には飛行船が浮かぶ。


 酒場、宿屋、洋服屋。あの日お世話になった、老舗の装備屋も見えた。レストランに、競技場、貴族の屋敷、そういった建物を、次々に通り過ぎていく。どれもこれも、石造りにレンガ造。おしゃれ。



「着いた。ここだ」


「えっ……ここが?」



 ユーリに促され、彼が指し示す建物を見る。いつの間に。


 石造りの壁で厳重に囲まれた場所。目の前には、石造りの門。それをくぐれば、石造りの広い道が続いている。道から外れれば花畑。私の精霊たちに負けないほど、色とりどりで鮮やかだ。


 荘厳な、ツタの生えた、古い石造りの建物が、その先に見える。石の道を通り抜けた先だから、結構遠いはず……なのだが。



「デカい……」



 思わず、そう声が漏れる。


 一体何階建てだ、と思ってしまうほど高いのに、なんと1階建てだという。つまり天井が異常に高いのだ。しかも、横にも広い。その荘重な雰囲気も助けて、ここは宮殿かと疑ってしまう。


 近づいてみると、何箇所かに鉄の扉があった。くすんだ黒色の厚い扉をユーリが押すと、ギイ、と重苦しい音が鳴った。


 そうして、中に入る。


 そこは、冒険者たちで賑わっていた。むさ苦しい大男も、可憐な少女も、装備を身につけてカウンターに並んだり、掲示板を見てあれこれ騒いだり。


 暑い夏にこの光景を見ると余計に暑く感じる。しかし実際は全然暑くない。氷魔法による空調設備が充実しているからだ。



「やっぱり夏休みだから混んでるな」


「そうねえ」


「ユーリ、頼んだ」


「任せろ」



 私が人波に圧倒され放心している間に、私以外のメンバーが何やら言葉を交わしている。


 次の瞬間。


 ユーリの姿が消えた。


 かと思えば、また次の瞬間には目の前に現れた。


 しかし手には紙を何枚か握っている。



「Cレベルの依頼をいくつか持ってきた」


「おう、サンキューな。……なあ、俺らそろそろBにレベルアップして良いんじゃねえのか?」


「俺はAでも良いんだがお前が問題なんだよ! アイリスが頑張ってるんだからお前も本気出せよ!」


「……反論できねえ」



 ユーリとオットーの口論が何だか面白い。



「まあ、それに、今回からハルカも加わるからな。ちょっと少なめかつ簡単めにしておいた」


「えっ、そんな……ごめん」



 ……私のこと、気遣ってくれてたのか。何だか面目ない。


 そう思った矢先。



「なあ、ハルカってそんな強いのか?」



 オットーがそう言う。どきりとするが、ごもっとも。私も、自分なんかがここにいて良いとは思わない。だが。



「まあ、こういう少人数で戦うときにそばにいれば、ハルカの凄さが分かるさ」


「ふーん、そうか。ユーリが言うんならそうなんだろ」


「期待しておくわ」



 ユーリの力は凄まじい。



「そのっ、戦力にはならないけど、全力で頑張りますのでっ」


「あはは、そんな固くなんなよ。仲間だかんな、よろしくな」


「よろしくね、ハルカ!」


「よ、よろしくっ、みんな!」



 あっさり受け入れてもらった。



「ハルカのスキルは凄まじくて貴重だ。ただ、確かに敵にダメージを直接与えることが難しい。だから、戦うときは後ろの方にいてもらおうと思う」


「そうか……了解」


「わかったわ!」


「じゃあ、オットー。この依頼、申請してこい。ゆっくりで良いぞ」


「おっす!」



 オットーは、ユーリから渡された紙を手に、長蛇の列の最後尾に並んだ。何本か列があって、先にはカウンターがある。各カウンターで、女性が対応している。忙しそうだ。彼女たちは、ギルドの受付嬢という。美人が登用されるので、男の冒険者たちにモテるのだとか。



 ……ユーリは、そんな美しい人たちに興味あるのかな?



 ギルドの後部に巨大な掲示板がある。横にも縦にもすごく長い壁にびっしりと、依頼の書かれた紙が貼られてある。ある魔物を定められた数討伐してほしいとか、何か病気を治してほしいとか、薬草を採取してほしいとか。依頼の難易度に応じて、S、A、B、……Fとレベルが定められている。冒険者のランクと対応している。


 自分に合った依頼を選び、受付嬢のところに持っていって申請すると、依頼を受けたことになる。達成し、魔物討伐の依頼なら討伐証明部位――文字のままの意味――を、ものの採取なら実物を、治療などの仕事の依頼なら依頼主のサインを得て、受付嬢に納めると、成績がギルドカードに記録され、報酬を貰える。


 依頼がなくても、何か強い魔物を倒したりレアな素材を得たりすれば、売ってお金を得ることが出来る。


 と、以上のような説明をユーリから受けている間に、オットーが戻ってきた。



「じゃ、今日はこの3つをやるか」


「ラジャーッ!」


「怪我のないように!」


「おうっ!」


「はいっ!」



 いよいよ、本格的な冒険者活動が始まる。

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