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第38話 強くなりたい

「えっ……そんな、私なんか……」



 突然の懇願に、私は目を見開く。



「急にわがままなお願いをしてすまない。でも、俺は強くなりたいんだ。それにはハルカが必要なんだ」


「そんな、でも、私、全然戦力にならないよ?」


「確かに、ハルカ自身は戦えないかもしれない。だが、ハルカのスキルによって、全員の戦力が上がるのはわかるだろう」


「そう……なの?」


「ああ。さっき見てもらった通りな」



 学年トップ層の中でもとりわけ優等生のユーリ。彼に比べれば、いや比べなくともかもしれない、私など落ちこぼれのようなものだ。そんな彼が率いるパーティに入っても、きっと足手まといだろう。だが、彼が頭を下げてまで願ってくれているのをむげに断るのは、それはそれでおこがましいかもしれない。


 彼なりの、考えがあるはずだから。



「じゃあ……よろしく、お願いします」



 私がそう言うと、彼は目を輝かせて手を差し出した。


 私は、その手を握る。冷たい手だった。



「じゃあ、手続きをしよう。一緒に来て貰えるか?」


「う、うん!」



 職員室に向かう道の両脇には、七色に咲き誇る薔薇が見えた。


 ☆


 一方、その頃。


 物陰から、ふたりの会話を立ち聞きする少女がいた。――ソフィアだ。



「なるほど……そういうことだったのね……」



 彼女は、たまたまそこを通りかかっただけだった。いや、正確にいえば、()()()()()()そこに向かっただけだった。


 学校の中庭は、生徒がよく魔法や武術の練習をする場として利用する。尤も、テスト前でもない限り、あまり人は居ないのだが。


 ソフィアは、そこに毎朝毎晩通って鍛錬する常連のひとりだ。


 朝はいつも、槍術の基本の型をひと通りさらってから授業に臨む。剣に比べれば型はずっと多い。おまけに、彼女のように何種類もの槍を使いこなす者にとっては、その数は数倍になる。


 放課後、備品の剣を手に取り、剣術の練習をする。その後、別の生徒――多くはユーリ――を巻き添えにし、剣と槍で1回ずつ、戦いを交わす。


 そして、最近は、魔法も使えるようになった。


 今までにも、魔力を供給する魔道具を使って魔法を使おうと試みたことはあった。しかし、魔力回路そのものに障害のあった彼女には、それさえも不可能だった。……しかし、今は違う。回復した、自分自身の魔力回路から産生される魔力で、自分で魔法を操ることが可能になったのだ。


 普段なら、人の助けを借りることを毛嫌いする彼女だった。だが、初めて扱うものを独学することの危険性は知っている。自分より上の技術を持つ者から教えを乞う大切さも。そこで、放課後は毎日、ヘレナに頼んで魔法の特訓の相手をしてもらっていたのだ。



「ごめんなさいね、今日は先に行って、少し待っていてくださる?」


「分かったわ」



 そんな会話を交わし、ひとりで中庭に向かい……見れば、見慣れぬ少女――ハルカが先に居て、ユーリと大事そうな話をしていた。


 ハルカが、舞を舞った時。



「――っ!!」



 また、体に異変を感じる。


 あの日――自分の運命を変えたあの時のような。


 あの時ほど激しい痛みではない。少し深呼吸すれば耐えられる。それでも……全身に痛みが走る。


 同時に、ブレスレットの光が強くなる。


 ハルカが舞を止めると同時に、痛みは消えた。そうしてふたりの方を見ると、一面に氷の山脈が出来ていた。



 ――あの子、何者なの……?



 そう思うと同時に、ユーリが話し始めた。


 ハルカの舞は、人に魔力を与える。そうして、人の魔力回路を改良する……そう言った。


 それらの言葉は、ソフィアの頭の中で繋がっていく。彼女の目は、少しずつ見開かれていく。



 ――そうだ、リーナ先生から聞いたんだった。あの子の舞のことは言ってなかったけれど、私の体に大量の魔力が流れたから、私は魔法を使える体になったんだ……って。



 普段なら、人の助けを借りることを毛嫌いする彼女だった。ひとりで立ちたい、人に頼りたくない、と思っていた。だが、自分の気づかないところで、ハルカの助けを借りていた。いや、多大な恩を。それも、自分が願ってやまなかったものを。


 かつて、魔物討伐実習でなす術なく立ちすくんでいた、あの編入生の少女から。


 弱いと思っていた人物に助けられたことが悔しい。そう思っては、自分の狭量さと弱さを恥じる。



 ――もっと、もっと強くなりたい。強くなって、この借りは、必ず……



 そう、強く誓ったソフィア。


 ハルカとユーリが、パーティの編成手続きのために歩き出した。立ち聞きしていたことを気づかれたくなくて、静かに物陰に身を隠す。これも身のこなしの鍛錬だ。――いや、あの子から逃げているだけと言われればそれまでだ。やっぱり自分は弱い。


 ヘレナは今どこに居るだろう。あのふたりはもう職員室に着いただろうか。そろそろいいかな、そう思って物陰から出る。



「あぁ、ソフィア! 良いところに居たわ」


「リーナ先生。どうなさったんですか」


「そんな堅い言葉使わなくって良いのに。えっとね、ご家族からお手紙を預かってるのよ」


「……そう、ですか。ありがとうございます」



 ソフィアはリーナから、厳封された手紙を受け取る。


 そうして、リーナが去ってから、首を傾げて中を見……そのまま、青い顔で立ち尽くしてしまった。

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