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第36話 何で、私が?

「よーし、全員終わったな。お疲れさん。結果は夏休み前に返すからな」


「「「いやだー!」」」


「夏休み前に現実見せないでよー」


「夏休み前だからこそ、だろ。追試のあるやつは夏休みにやるからな」


「「「うわあー!」」」


「言っておくが、俺も『うわあー』だぞ?! 実技試験、毎回何十人も相手に戦うんだからな!」



 教室に笑い声がどっと起こる。さっきの事務的な感じはすっかりなくなり、いつものクレンだ。


 騒ぐ男子たちの中、ひとりクールなユーリ。きっと彼は余裕なのだ。


 私は……あれでどれだけの点が取れたのか分からない。だって初めてだから。故に、手応えも何もない。


 ☆


 それから数週間が過ぎた。



「さあー、待ちに待った成績表だ」


「「「うわああやめろおお」」」


「成績表焼却あくしろよっ」


「おい、ジャックス。お前は総得点から100点減点な」


「うわあ許してください何でもしますから!」



 ……何というか、他の男子も大勢いる中で、ジャックスは特に、「男子っぽい」ノリだ。まあ、私の偏見だけど。



「じゃあ出席番号順に取りに来い」



 そうクレンが言うと、ひとりずつ、紙の束を受け取りに行く。成績表、筆記試験の答案、実技試験の講評らしい。


 私の番が来た。



「よく頑張ったな。……素晴らしい」



 小さな声で、そう言われた。


 自分の席に戻って、成績表を開く。



『成績表

 ハルカ・カミタニ


 [筆記試験]

 基礎算術 80/100

 基礎幾何 75/100

 魔法陣数学 78/100

 呪文学 96/100

 魔法工学 65/100

 魔物学 85/100

 地理 70/100

 魔法史 68/100

 ヴァイリア王国史 78/100

 戦術基礎 57/100

 剣術基礎 60/100


 [実技試験]

 魔術 60/100

 武術(剣術) 58/100


 [総合]

 930点/満点1300点


 [席次]

 46位/465人』



 いや、まじか。私は全くの初心者なのに。みんなの方が遥かに長い時間、この世界のことを学んでいるのに。



 何で、私が――上位10%以内。



 ……どこかの大手予備校のようなことを言ってしまった。だが、言いたくもなる。みんな、勉強どれほどやってないのだろう。私はただ、暗記でやっつけただけ……いや、違う。


 クレンの指導のおかげだ。納得。


 改めて思う。彼は凄い。他の科目の授業もすれば良いのに……と思ったが、既にかなり掛け持ちしてるんだっけ。そしたらオーバーワークになってしまう。なら仕方ない。


 次に、答案を見る。ちゃんと復習しないと。呪文学は……あぁ、現代仮名遣いで書かなければならないところで歴史的仮名遣いになっている。これは反省。4問間違えている全てがこれだ。


 日本にいた時も、模試の古文で減点をくらうとすればこれだった。もしも生きているうちに日本に帰れたら受験がある。こっちの世界でも、どこかで悔しい思いをするだろう。直さないと。


 数学の苦手はここでだいぶ直った。……難易度の差は分からないけれど。でも、物理はまだ苦手らしい。魔法工学になっても、それは現われていた。


 戦術基礎……これは仕方ない。いや、でも、恩人の担当科目なのだ。もう少し頑張ろう。陣形なんかは暗記だし。


 さて……次は実技の講評を見よう。



『状況を的確に判断し、これまでの短い期間で学んだことを忠実に使おうとする態度が認められた』



 おお、嬉しい。


 さらに下にも続いている。各場面における細かいアドバイスだ。B5くらいの紙にビッシリと。ありがたい。夏休みに練習しよう。日本と違って、遊び場所も遊び道具も分からないし。



「まあ、A組はみんな優秀だった。クラス平均もAとBはいつも通りトップ2だ。個人で見ても、トップ2がこの2クラスにいる」



 この学年は1学年で10クラスあることを最近知った。その中で、私のいるA組は上位なのだ。A組の人たちを見慣れていたから、私は下位だと思っていたが、それでも学年全体で見れば上位らしい。なるほど。



「クラス平均さー、どっちが上だったー?」


「……B、だがな」


「ほらー、兄ちゃんまた足引っ張ったんだよー」


「うるせえ! 折角良い雰囲気だったじゃねえか!」



 賑やかな双子だ。何だか微笑ましい。


 ところで……ひとつ、ふと思ったことがあって、ユーリにコソッと聞いてみる。



「ね、もしかしてユーリって、学年首席?」


「……いや、違う。2位だった」



 えっ。……いや2位も凄いけど。



「……いつもなら、俺が首席だった。だが多分今回はソフィアだろう」


「ソフィアさんが……?」


「……今までは、筆記と武術は負けてたのに魔術で稼いで勝ってたようなものだからな。今回から、あいつも魔法が使える。そこで点差が縮んで、全体で見た時にリードを奪い返されたんだろう」


「……!」



 そうだった。ソフィアは、伝説級の知識量と槍術の持ち主なのだ。



「……次は……絶対、勝つからな」



 このふたりがライバルなんて、似合っている。私とは、次元が全然ちがう。1位と2位の争いなんて。



「……凄い……なあ……」


「……そうだ、ハルカはどうだったんだ?」


「え、私?」



 その別次元の人に、急に尋ねられてびっくりしてしまう。



「……俺は答えただろ」


「う、ん。えと、見ての通り伸びしろしかないよっ」



 別に特徴的なものは何もない。まして相手が異次元に居るなら。つまり、自分の成績を形容する言葉がないのだ。半ば投げやりになって、私は彼に成績表を手渡す。相手も「え、良いのか?」とか言って戸惑っているようだったけど。



「……ん、何で魔法の実技でこんなに取れてるんだ?」


「……え?」


「いや、ハルカって魔力回路ないはずだろ」


「ああ……一応、【精霊使役】使えるからね」


「……ハルカは、精霊術師なのか?」


「んー、ちょっと違う、けど。職業は巫女。だから、【精霊使役】以外のスキルは精霊術師と違う……と、思う」


「……そう、か……あっ」



 そこで、ユーリはふと何かを思い出したような素振りをした。



「そうだ。ちょっと確かめたいことがあったんだ! 放課後、少し付き合って貰えるか?」


「えっ……いいけど」



 突然言われて戸惑ってしまう。



「……ところで、ユーリの成績ってどんなだった? あっ、嫌なら良いんだけど」


「そ、そうだな。見せてもらったし、願いを聞いてもらったから」


「いや、ただ、私は……」



 異次元の人たちの風景を垣間見てみたい。ただの好奇心だった。


 紙を受け取り……早速、ひとつおかしいものを見る。



 『[実技試験]

 魔術 110/100』

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