第35話 剣術プロとの剣戟は成立するのか
「では、次は剣術の試験だ」
クレンがそう言うと、私の周りから色とりどりの光の粒が消えた。……魔力を持つものは、強制的にこの部屋から出るようになっているのか。上手くできている。
私は、備品の剣を手に握る。
目の前で、クレンが同じ格好で対峙する。
ピー。
「はぁぁっ!」
クレンが、開始の合図と同時に、気合の声とともに間合いを詰めてくる。
分かりやすい動き……なのは、手加減してくれているのだろう。初心者の私が傷つかないように。簡単な分だけ、得点は低くなるけれど。
彼の優しさに応えるべく、私は――
「とっ……」
比較的小さい体を生かして素早く避け、そのまま彼の背後を取る。
「はっ」
私は、そのまま、彼の背に剣を振りかざそうとした。正面で振る、最も基本的な剣法――「一式」。
キンッ。
硬いものに当たって阻まれる。
もちろん、黙って当てさせていては、試験が成り立たないから。
……と、振り返った彼の顔が見えた。少し口元が緩んでいる。何の笑み?
「えっ、きゃぁっ!」
一体どうやったのか、何も見えなかった。ただ分かったのは、彼の剣が一瞬で消え、気づけば私の目の前に来ていたということ。
とりあえず後ろに飛び退き、間合いを取る。
多分躱せた……はず。
そのまま、戦術基礎、剣術基礎で得た技術と知識を総動員して戦った。
相手が進めば私は退く。柔よく剛を制す。
相手に攻撃の隙を与えてはならない。戦術基礎で言われた一番大事なものをすっかり忘れていた。さっきの瞬間、攻撃に出るべきではなかったのだ。下手に攻撃して体勢を崩すのは駄目だ。勢力均衡の状態を保ち続けなければ。――魔法の試験の時に思い出していれば、色々と変わっていたのだろうか。
なるべく動かない。相手の動きをじっくりと見ながら。間合いを一定に保ちながら。
相手も同じことをしている。多分、これが正しいのだ。
と――突然、目の前にいるはずの相手の姿がぼやけ始める。
魔法……は使えないはず。とすると、これは……?
「いたっ!」
ピッ。
背中に痛みが走る。
いつの間にか背後を取られていた。
よくわからないけれど、敵の目を眩ませる剣術だろうか。剣術基礎の試験範囲にはなかった……と、思う。
だが、フェイントに対応しやすい剣法――「三式」を使えば何とかなるかもしれない。
「……」
「はぁっ!」
使い慣れていない剣法。技術不足の分はフィーリングで補う。
相手の瞬間移動は私の目には見えない。それでも、何とか気配を感じ取って対応し、奇襲を防ぐ。
ピッ、ピッ、ピッ。
……奇襲を防ごうとしているだけで、上手くいっていないのだが。
そうしているうち、さらに彼の動きが変わった。
横から一気に間合いを詰められる。今度は目に見える。私は――「二式」で横からの攻撃をなぎ払う。……実際腕力がなくて払い切れないのだが、何とか躱す。
そのまま、正面に向かい合う。今度は正面から間合いを詰められる。勢力均衡が崩れた……のかもしれない。ならば、私も怯まず攻撃しなければ。
近距離戦に適しているのは――「四式」だっけ。
小競り合いが始まる。ふたり、腕を伸ばせば届くような距離の場所でしのぎを削る。西洋式の剣なので文字通りの「しのぎ」はないけれど。しばらく拮抗していた。
「ふんっ!」
「うわっ」
突然、彼が剣を押しかえす力が強くなった。
剣を手から離せば、敗北は必至。それだけは絶対駄目だと言われた。だからといって、剣を握り続けていては、体が吹き飛ばされそうだった。
ここは――
「よっ」
剣を滑らせ、弾くようにして、押し合いで溜めた力を真正面に向け直す。
コントロールを犠牲にして、勢いのついたふた振りの剣が交差する。
次の瞬間。
私は、ビギナーズラックにこれでもかというほど恵まれた。
「うわっ、馬鹿だ」
「えっ……あ!」
あのクレンが痛恨のミス。彼の剣は私の頭のすぐ上を通り過ぎていく。
一方、私の剣は偶然にも彼の首筋をわずかに掠めた。
私は、つい呆然としていた。
もちろん――
「はぁっ!」
「……やばっ!」
相手はベテランだ。戦いの中で呆然とするなど、そんな愚かな真似をする筈がない。彼の剣の閃きを見て、私は少し遅れて我に返る。既に体勢が崩れており、這うように逃げた。
急いで距離を取り、剣を構え……ようとしたが、もう遅い。相手は既に、かなり近くまで迫っていた。
私がすべきは……躱して間合いを保つか……低身長を活かし彼の死角に入って攻撃するか。
後者にしよう。うまくいけば加点もあり得る――
「いたっ!」
ピッ。
――そうだった。戦場で、考え事をする時間などないんだ。
気を引き締め直した時。
ピー。
試験終了の合図。長いように思われたが、そのくせ後悔が残る。
「お疲れさん。これで試験は終了だ。全員が終わるまで、待機部屋に戻って静かに待っていること」
「はい。ありがとうございました」
クレンの、珍しく事務的な声に促され、不本意な気持ちで部屋を出る。
何はともあれ……これで初めての考査は終了。あとは成績返却と夏休みを待つのみ!
戦いのシーン……難しい!!
皆さんどうやって書いてるのでしょう……?
 





