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第34話 初めての考査

 あれから、1週間は一瞬で過ぎた。もうテストだ。


 1日目。呪文学と基礎算術。つまり古典と数学。前者は読解がなくて文法ばかり。後者も日本のより簡単。いや、こちらの先生が分かりやすくてちゃんと理解できているということかな? 多分、ミスさえなければ大丈夫……だと、思う。


 2日目。魔物学と王国史。暗記教科が同じ日に並ぶのはやめて欲しかった。それでも、なんとか1週間で暗記した内容を絞り出す。記憶力には、それなりの自信があるのだ。


 少なくとも、日本にいた時は、記憶力だけでいろんなテストを乗り切ってきた気がする。理系科目で丸暗記をするのは良くないと、たまに先生に言われたけれど、高1の時はそれでもそこそこの点は取れていたのだ。受験を考えれば駄目なことだと思うが。


 3日目、4日目……と続く。長い筆記試験も終わり、とうとう最終日がやってきた。


 実技試験だ。


 これは全くの未知の世界。


 クラスメイト全員が、待機部屋であるホームルーム教室で音ひとつ立てずに座っている。この賑やかなA組で、この光景はあまりにも珍しい。私語するとカンニングとして失格になるので、当たり前と言えば当たり前だが。


 そうしているうち、出席番号順に名前が呼ばれていく。例の特別な部屋に案内されるのだろう。



「ハルカ・カミタニ!」


「は、はいっ!」



 この世界に来て初めてフルネームで呼ばれた気がする。あと、下の名前から先に呼ばれたのは人生で初めてだ。


 案内された場所に行けば、たしかに部屋があった。やはり絢爛豪華だ。そして……今の私にはわかる。周りを、見たことのない雰囲気を持った魔力が取り巻いているのが。



「失礼いたします」



 ドアを2回ノックし、挨拶して入る。礼儀が肝心。……いや、この世界では敬語さえ一般的でないんだった。


 試験官として中にいたのは、他でもない、クレンだった。



「では、改めて説明する。まず、ブザーが鳴ったら戦闘……試験が始まる。魔術、剣術それぞれ3分間だ。魔術の試験中は、武器を置いてもらう。剣術の試験中は、魔力のあるものは全て、一時的に魔力を失う。精霊は……一旦退室してもらうことになる。……それと、【神の光】は強大すぎて、魔法知識や剣の技能を測ることが難しくなる可能性があるから、今回は極力避けてもらいたい。魔法陣を描く場合は、部屋の隅にある清書用紙、備え付けの魔墨とペンを使うこと。自分のものは使えないので注意すること。――では、早速始めようか」


「はい!」



 ピー、とブザーが鳴る。先に詠唱を始めたのは、クレンだった。



「火よ。剣となりて、我と戦え」



 そう言うと、彼の手にはすぐに真っ赤な剣が現れた。武器を持つのは禁じられているが、魔法でできた実体を持たぬ剣ならセーフらしい。……彼は自分のことを剣術バカだと言っていたが、ここまでとは。



「ヤバッ!」



 考え事をする余裕はない。この剣で斬られては、かなりの減点となるだろう。


 精霊使役は、かなりの時間がかかる。反撃はしたい。間合いは死守しなければ。まして、【神の光】が使えないなら。



「火よ。壁となりて、敵の行手を阻め」


「ひっ……」



 相手の追撃。このままでは、逃げ道がなくなってしまう。


 ――そうだ。



「水の精霊らよ! 大気なる水をして、我を囲ましめ、火より我を護れ!」



 口早に、しかし大声で唱える。


 すぐに、私の体の周りに水の層……シャボン玉の薄皮のようでありながら、押しても割れない丈夫な壁が出来た。


 相手の剣が私に届く直前だった。彼の剣に炙られた壁は、一部はジュッと音を立てる。しかし、すぐに復活する。


 そのまま、彼から目を離さず、後ろ向きに歩いた。



「あつっ!」



 いくら水の精霊といえど、火の壁の業火までは耐えきれなかったらしい。手に、一瞬痛みを感じる。


 火傷はすぐに癒えた。代わりに、部屋のブザーが短く鳴った。受けた傷がひとつ、記録されたのだ。


 それでも、なんとか相手と距離をとった。背後を取られないよう細心の注意を払いつつ、部屋の隅に向かう。清書用紙とペンを両手に握る。



「火よ。球となりてかの紙を焦がせ」



 そんなこともあるのか。


 攻撃を避けるのはきつい。だが魔法陣を描くのにはだいぶ慣れた。魔法陣数学はかなり練習したのだ。


 でも……やばい、間に合わない。



「水の精霊らよ! 水をして我が前に盾を作らしめよ!」



 水の盾が守ってくれる間に、何とか描ききる。


 そして……



「水の精霊らよ、我が作りし道を流れよ!!」



 あとは発動を待つだけ。急いで、急いで。そう言いながら魔法の発動を待つ。本当に急いでくれているみたいだった。


 10秒後。



「うわ、ちょ、待って!」



 魔法陣を描いた紙を手に持っていたのは失敗だった。


 魔法は魔法陣から生まれる。


 私は、この部屋のあらゆる火を全て消せるよう、噴水を作ったつもりだった。そして、それは成功した。だが、紙を持っていた手がその水圧に持っていかれそうになったのだ。


 そこで体勢を崩したのを、相手は見逃さない。



「うわっ!」


 ピッ。



 何とか避けたつもりだった。が、肩に剣を受けた。やらかした。


 次の瞬間、噴水の勢いがさらに増し、火の壁、火の剣、火の球、全てをしっかり消してくれた。


 私の服もすっかり濡れてしまった。と――



「氷よ。かの衣をして、凍らしめよ」


「駄目っ! 火の精霊らよ! 我が衣を温めよ! 違う、火をして我が衣を乾かしめよっ」



 私の周りを、さっきの彼のものより細かい火の球が沢山取り巻いた。


 大丈夫、水が凍るほどの温度にはならない。そのうち水も乾くだろう。



「……ふう……。あっ、そうだ。氷の精霊らよ、彼の衣なる水をして氷の矢ならしめ……」


 ピー。



 試験終了の合図。


 とりあえず、魔法の実技が終了した。……既に疲れてしまったが。

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