第33話 テストは戦いで戦いはテスト
昼休みになった。
食堂に行く前に、朝言われたように、クレンのもとへ行く。……えっと……職員室は……あ、あったあった。
「失礼します。クレン……先生」
「おお、来たか! まあ、そこに掛けてくれ」
「失礼します」
言われたまま、クレンの隣の席に座る。……やっぱりクッションはフカフカで、周りには金ピカで緻密な装飾。
「まずは……来週からテストだが、どうだ、上手くやれそうか?」
「……今朝範囲を見て、多さに驚いたところです。あと、実技もあるんですね……」
「聞いたのか。なら話は早い。形式は入試と同じだ……あっ、ハルカは入試を受けてないんだったな」
「はい」
「まず、実技試験は考査の最終日だ。武術……ハルカなら剣術だな。武術と魔術で、試験官と戦ってもらう」
「えっ、対人戦……ですか?」
対人戦なんて初めてだ。相手はきっとベテランだろう。死ぬ自信しかない。
だが、怪我の心配はないとクレンは言った。彼が言うには、試験は専用の試験室で行われるのだという。そこは特殊な魔法がかけられていて、あらゆる種類・場所・深さの傷を即座に癒すのだという。ただ、それらの傷は全て、正確かつ詳細に記録される。また、試験官と受験者の体の動きも記録されるという。
試験官の動きによる難易度の差を考慮しながら、受験者の行動の適切さを客観的に採点し、試験官が受けた傷の分だけ加点、また受験者が受けた傷に応じて減点する。その中で、一定時間戦うのだ。
ちなみに、武術の試験では魔法が使えず、魔法の試験では基本的に武術が使えないという。ただし、体術に関してはいずれの試験でも許可する――と言われても、体術が何かよく分かっていないが。素手で行う武術らしい。柔道とか合気道みたいなものだろうか。
「これで一通り伝わったか?」
「多分、はい……すごいハイテクですね」
「ハイテクが何か分からんが……ハルカは初めてだから、多少の配慮はするつもりだ。といっても、もう魔術も武術もかなり上達してるから、ひょっとすると要らんかもしれんがな」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、勉強頑張ってくれ。期待している。一応、全教科合計で3割に満たない者は追試になる。これはすまんが変えられない」
「わかりました」
すると、クレンは何か考えるような素振りをした。「あともう一つ話があったんだが……」と呟きながら。
「……あぁ、そうだ。昨日の魔物討伐実習、お疲れ様。だいぶ倒せるようになってるじゃないか」
「まあ、精霊たちがだいぶ頑張ってくれてますからね」
そう言うと、私の周りの光の粒たちは喜ぶみたいに体を揺らした。
いつ見ても可愛い。
「それで……昨日、また新しいスキルを使ったんじゃないのか?」
「あぁ、これですね!」
私は、嬉々としてギルドカードを取り出す。
【神楽舞=2】の文字が、しっかりと見える。
「他者に魔力を分け与えるスキルみたいです。これの発動してる間は、自分自身が戦うことは出来ないんですけど……」
「初めて見るスキルだな……しかし、どのパーティでも重宝されるだろう。実際、昨日は、ユーリが初めて高位魔法と無詠唱魔法を使い、ソフィアが初めて魔法を使った」
「……えっ」
ユーリの無詠唱魔法の話は、さっき立ち聞きしたから知ってる。高位魔法は……確か授業でやった。扱いが難しくて、魔力消費が激しいんだっけ。
しかし、問題はソフィアさんの話だ。彼女は、確か、生まれつき魔力を持たないはず。
「遠くから見ていたが、ソフィアは体にお前の出した魔力を大量に取り込んでるうち、魔力回路の生まれつきの欠陥がどういうわけか直されたみたいだ。今はまだ回路の損傷が大きいが、回復すればじきに自力で魔法を使えるようになるだろう」
「そんなことが……」
ひょっとして、これが……神様の予言?
―― ハルカ、我が予見正しからば……この後、おなごの、そなたの力に助けらるるあらん。さらば、かれはハルカの友とならん。
あれは梓弓の説明の時だった。
でも、ひょっとすると……私が、この弱い私が、あの強くて輝かしいソフィアさんの力になることだってあるのかもしれない。
「何はともあれ、実習をうまく使えてるようで何よりだ」
「……と、言いますと……?」
「あの授業は、自分が学んだものを実際に使ってみるっていう意味がある。新しいスキル……神楽舞だったか? そういうのをちゃんと積極的に使ってるな、と思ったんだ」
「あー、なるほど……」
魔物討伐実習は、新たに学んだものを試験的に使ってみる場……って訳か。
「とにかく、今回の討伐もハルカがいてこその成功だった。それも数重の意味でな。ありがとう。次の活躍、期待している。……その前に考査だな。頑張ってくれ」
「ありがとうございます!」
職員室を出る。昼休憩はもう半分ほどになっている。今日はパンで済まそうか。
「……頑張ろ」
そう、小さく独り言を言った私だった。