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第30話 だいぶ慣れてきたみたい!

 それからは、特にどうということもなく走り去る日々。もう、ここの生活にはすっかり慣れてしまったということだ。


 魔物討伐実習も、もう何度目になるだろう。


 あれから、しばらくドラゴンを見ていない。それもあって、このユニークな実習さえ、もはや私の「日常」の一つになっていた。


 未だに、自分の所属するべきパーティが見つかっておらず、単独で動いている。ステラの所かユーリの所かで迷っている上、いざ私の心を決めたところで彼らが受け入れてくれるかはわからないからだ。パーティには、バランスというものがある――これは、戦術基礎の、基礎の基礎。


 それでも、私ひとりの力でも、一回の授業で数匹の魔物を狩れるまでになったのだ。


 だが、それは、主に【精霊使役】によってだ。


 巫女にあって精霊術師にないスキル――【神楽舞】を覚えたあの日知ったあの三つのスキル――で、戦ってみたい。


 だって、私の「職業」は「巫女」なのだから――。



「よーし、今日は一学期最後の魔物討伐実習だ。来週からテスト週間で、テスト終わったらすぐ夏休みだからな。だから怪我するなよ! じゃあ、早々に転移!」



 ぼんやり考え事をしていたら、気づけば転移魔法が展開されていた。


 いつも通りのダンジョンへ――



「火の精霊らよ! 火を生み、(たま)ならしめ、かの魔物を撃て!」



 そう言うと、すぐに緋色の光が集まってきて、数発の火の玉が生まれる。


 狙う先には、グラス・プレデター。植物属性の魔物だ。


 勢いのついた弾丸は、コントロールはまだまだだが、一つでも当たれば充分倒せるだけの力を持っている。……プレデター類が下級魔物の中でも弱いからだけど。


 二発当たった。そのうちひとつは急所。


 よし、これで一匹。討伐証明部位と素材を拾う……あれ、どこだっけ……あ、あったあった……。


 さて、次は……



「風の精霊らよ! 大気をして矢ならしめ、かの獣を穿て!」



 風の矢は、だいぶコントロールと威力をつけられるようになった。狙う先には……属性はよくわかんないけど、ワイルド・ウルフだ。どの属性だろうと、風だったらある程度ダメージは……



「グルルゥ?!」


「えっ、やばっ!!」



 すんでのところで身をかわされた。その上こっちに気づかれた。まずい。


 突進してくる。まだ距離はあるけど時間はない。私は、近距離戦はからっきしダメなのに……!



「風の精霊よ! 防壁となりて、私を……じゃない、我を護れ!」



 そう言っても、光の粒は体を揺らすばかりで何もしない。


 しまった、呪文を間違えたんだ。



「風の精霊よっ! 大気をして壁ならしめ、我を護れっ!!」



 そう言うと、体の前に風圧を感じるようになる。


 ウルフはそこから進めないから、立ち去っていく……



「ふう、危ないところだった。ありがとうね、みんな」



 ステラが「飼って」いるニンフは、実体化が出来る、形のある精霊だ。だから、自分自身が波動に変わる事も、矢になる事も出来るという。その代わり、風属性だけらしい。


 だが、精霊は十人十色。私の側に居る子達は、あらゆる属性が居るが、みんな魔力をたくさん持っているだけで実体がない。だから、矢や弾丸を生み出すことは出来ても、自分自身が実体あるものに変化することは出来ないのだ。



 《……ハルカよ……我に、頼まざるか?》


「……ごめんね。実習の時は【精霊使役】の練習をしておきたくって」


 《されどっ……! そなたは、昼に……》


「……それに、神様に頼りすぎるのも申し訳ないし……」



 ……両方、本音だ。だが、それを言うと、彼女は寂しそうな顔をした。



「あの、違うのっ……神様が必要ないとか、そんなのじゃなくて、そのっ……」


 《……いうべからず。ハルカは強くなりたる。されど……我は『パートナー』なれば、いかに頼まれど嬉しき。忘るることなかれ》


「……そう、だね……あの、なんかごめんね? ないがしろにするみたいになっちゃって……全然、そんなつもりないの。ただ、神様に頼りすぎたり、こき使ったり、したくないし……」



 そもそも巫女になれたのは神様のお陰なのだけれど。……いや、もちろんそれだけじゃない。既に神様には色々助けて貰っている。それに……



「そもそも、巫女って神に仕えるものでしょ? いつかは私が神様のお手伝いをするべきなのに、今まであんなに助けてもらってるんだもん。自分で出来ること、ちょっとでも増やして、神様に近づきたいのに……」


《……ことわりなり(もっともね)



 そんな話をしている時だった。



「アクア・ミディアム・ドラークだ! 全員、避難しろ!!」



 久々の、そして突然の龍類の出現。


 私は言われるがままに避難する。


 ……のだが。



「グルルル……」



 ドラークは気性が荒い。そして私が目をつけられたらしい。


 やばい。精霊といえど流石に龍を止めることは出来まい……少なくとも今は。



「神様っ……!」


 《ハルカ! 今こそ札を使うべけれ!》



 言われるがままにお札を握りしめる。


 例によって、燐光の防壁が出来た。


 龍は、ゆっくりと私の側を離れていく。



「本当に……いつもありがとうね」


 《……ハルカ絶えなば(いなくなったら)我も絶えん(死んでしまう)。我がためなれば、礼は要らざる》



 だが、龍にダンジョンを立ち去る気は無いらしく、攻撃的な目を周囲に向けている。



「……ユーリ、ソフィア、そして遠距離のサポートにステラ。この3パーティに任せる。あとリーナもサポートを頼む。それ以外のパーティは近づくな。指揮は俺が執る。あと、ユーリ。この間みたいにでしゃばりすぎるな。慎重に動け」


「……わかっている」



 どうやら、討伐が始まるらしい。


 遠くから、助けられないかな……そう思って、私は扇を握りしめた。

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