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第26話 神の力が輝くとき

 クレンを呼ぶ声が聞こえる。確か……ジャックスとか言ったっけ。



「また呼ばれた……すぐ戻ってくる」



 クレンがそう言って、声のあった方を向いた直後……すぐに、彼が顔を強張らせたのが分かった。



「どうかしま……あっ!!」



 その方向を見れば、私もすぐに状況が分かった。


 またしても、竜がいたのだ。


 いや、今なら分かる。水属性。ドラークではなく、正統なドラゴン。しかし幼体に特有の紋様。……アクア・インファント・ドラゴン……で、合ってるかな。



「インファント・ドラゴンだ! とりあえず……ジャックス! お前らは退け! ……ユーリ、ソフィア! この2パーティに任せる。それ以外は離れろ!」



 クレンは、風魔法を使って拡声し、慌てながらも迅速に指示する。



「えっ、俺らが?」


「……!」



 ユーリは少し緊張した顔をする。対してソフィアは……驚いた顔の中に、喜びが混ざっているようだ。



「まだインファントだ。お前らだけで足りるだろう」


「クレンだけで倒せるんじゃないのか?!」


「流石にひとりはキツい。それ以上に、俺が戦線に行ったら、いざという時に対応出来ないだろ!」


「……そっちか」


「ユーリ、早く行くわよ」



 ソフィアがユーリを促す。かくして、合計8人の上位生徒によるドラゴン討伐が始まった。



「オットー、アイリス。盾を頼む。しっかり引きつけておいてくれ。ヘレナは魔法でそのアシストをする。火魔法が得意だったよな? 相手は水だから、注意しろ」


「わかりました。盾の補助でしょう? なら、わたくしは防御に徹するわ」


「あぁ。出来れば遠距離からも攻撃して、ちょっとでもダメージを稼いで欲しいけどな。それで、ソフィアとフランツと俺が近距離から攻撃する。出来れば、魔法であれを氷漬けにするぐらいのことはしたいな」


「無茶言わないで」



 ユーリが、仲間に突っ込まれながらも作戦を立てているのが聞こえた。


 普段はクールで真面目で、ボケやツッコミとは無縁だと思っていたのに。冷静で寡黙で、饒舌とは無縁だと思っていたのに。何だか、新たな一面が見られた気がする。


 そこからさらに、他のメンバーの動きも決まったところで――オットーが、何やらアーティファクトを操作した。



「グアアア!」



 突如、竜が怒り出す。そうか、相手を挑発する道具なのか。


 あの時のフランマ・ドラークに比べれば、幼げな声。しかし、激しい。地響きが起こる。



「行くぞっ!」


「えぇ!」



 ユーリの声で、ソフィアが駆け出す。フランツ……と呼ばれた少年もだ。


 ソフィアは竜の体を的確に突き刺す。体のバランスが崩れることはない。安定したフォームで、あらゆる槍を駆使し、自在に操りながら、全身の力を刃に込める。


 フランツは、剣を振るっていた。いや、ただの剣ではない。妖しく光っている。こちらもまた、私にはよく分からないけれど、華麗だ。


 対するユーリは、竜の背後に回る。



「氷よ……鋭く強き矢となりて、かの竜を穿て!」



 刹那。言葉通り、透明の矢が現れた。


 いや……その矢尻の鋭さ、身の太さからすれば、もはや薙刀だ。


 それが一直線に竜の心臓部を狙う。



「氷の矢よ! かの竜から熱を奪い、凍らしめよ!」



 彼が慌てるように付け加える。それに応じ、矢の周りの空間には氷の粒が生まれ始める。


 一気に、その一帯がカーンと冴え渡るように見えた。


 対するソフィアも、フランツも、着実に竜の体に傷を付けていく。



「一気に心臓を刺すのは無理だけど、矢の周りからこいつの体が凍っていく予定だ! 硬くなるから避けて攻撃してくれ!」


「分かったわ!」



 彼らがどんなに攻撃しても、竜の注意は常にオットーに向いている。



「光よ……壁となりて、彼らを守れ!」



 ヘレナと呼ばれた少女もまた、光の粒が集まったような壁を作り出し、オットーをしっかりサポートしていた。濃い紫色の艶やかなローブに身を包んでいる。紋章のようなものが金色の糸で緻密に刺繍されていて、それが小さいながら存在感を放っている。いかにも高貴な魔法使いという感じだ。


 もちろんアイリスは、オットーに寄り添い、彼が受けた傷を、丁寧に、確実に治している。


 対する竜は、二つの刃を数え切れないほど受け、氷魔法も効いて、明らかに弱りつつあった。


 全てが順調である……ように、見えた。


 見えたのに。



「ガアアアアアア!!!!」



 痛みに怒る竜は、まれに予想だにせぬ強さを見せるらしい。


 暴れる竜は、突然オットーから視線を外す。


 いや、もはや焦点も定まらぬ目で……いきなり狂い始めた。



「……! ヤバイ! オットー……いや、全員離れろ! 遠距離から攻めるんだ!」


「「「了解!!」」」



 こんな状況でも、ユーリは的確に指示した。それに仲間は従った。……そう、私はこの時はまだ傍観できていた。


 しかし。



「……えぇっ?!」



 竜は、私に向かって突進してきたのだ。



「グアアアァァァ!!!」


「……っ!」



 私は、無意識のうちに――



 《ハルカ! 我に任せるべし!》



 ――あのお札を、握りしめていた。


 刹那。



「……グガ?」


「……え?」



 私の目の前には、竜がいた。


 困惑した竜は、そこから先に進めなかった。


 私と竜を、まばゆい燐光が隔てていた。


 私は……ただ、目を見開いて、その美しい壁を見ていた。



「あっ……神様!」


 《ハルカ。札だにあらば、我はそなたを守るなり》



 壁に向かって手を述べていた少女――神様が、そう言った。


 彼女は、あの壁と全く同じ燐光を、全身に纏っていた。いつもよりも輝かせて。


 そうか。この壁は、彼女が作ったものなのだ。


 それは、荒れ狂う竜を食い止める力があった。


 ……あの日、フランマ・ドラークを倒したぐらいの力が。



「やっ!」


「はっ!」



 戦っていた子達の、気合の声。


 この直後、竜は倒れた。



 ――この日、ユーリは知ることになる。ハルカが何者で、自分にどんな関係があって、なぜこの学校に入ったのか。彼は誰よりも早く、全てを了解したのだった――

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