表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/119

第25話 才能の宝石と原石

 なんとか適当にその場をやり過ごして、戦っているクラスメートを再び眺める。


 しかし、どうしても、さっきの少女に目がいってしまう。


 栗色の長い髪の毛を一つに束ねている。手入れされているとは言いがたく、毛先もザクザクと切られた感じで、ワイルドな印象を受ける。つり目、つり眉のキリッとした顔。肌は、健康的な小麦色だ。



「あの子が気になるのか?」


「……はい」



 さっき叱られたので、とは言わないでおこう。



「あの子は、ソフィアだ。……あ、編入したばかりの頃、お前に話さなかったか?」


「……ソ……フィア?」


「名前は出さなかったか。ほら、生まれつき魔力を持たないにも関わらず、その類稀なる才能を評価されて我が校に入学した子だ」


「……あぁ!」



 その子か。なんか思い出した。



「どんな子なんですか?」



 さっきの一件で、気が強くて怖いという第一印象を持ってしまった。真実やいかに。



「まあ、俺もあんま喋らないし、担任も持ったことないから詳しくは分からないんだがな。ただ、超人的なやつだとは知ってる。というか、この学校の教師は全員知ってる」


「超人……的……」


「この国の高等学校では、入試は筆記と実技だ。筆記は、魔法理論とかの知識を問うもので、実技は武術や魔術を実際にやるわけだな。ソフィアは魔力を持たないから、魔法の実技じゃ当然0点だ」


「……そう、ですね」



 魔法を使えない。その上職業が精霊術師じゃないなら、さっきの私のように精霊の魔力を利用することも出来ない。



「だから、多くの名門校で不合格だったらしい。だがな……筆記で100点満点の105点、武術の実技で100点満点の120点を取るような逸材を、なぜそう簡単に捨てる?」


「いや満点の定義って」



 これは……ソフィアさんが凄いというより、この学校の採点システムがバグっている。



「一種の伝説のようなものだから、真偽は分からんがな。まあそういうことだ。お前がフランマ・ドラークを単独討伐したのも、同じくらいの伝説として既に職員の間で広まっているけどな」


「へえ……」


「あいつなら、この学校で座って学ぶことなんてもはやないだろう。……ただ、冒険者として成長してくれるなら教師として嬉しいし、ここはそのための場所だからな」


「……」



 ここは、冒険者を育成する場所……


 私が居ていいのだろうかと、ふと思う。


 魔物を怖いと思ってしまう。生き物を殺す感覚に耐えられない。ソフィアは、今思えば優しかったのだ。私はこの場違いな場所でただ突っ立っていて、彼女の言葉通り「目障り」だっただろう。自分の戦っていた場所から離れたとしたら、確かに迷惑だっただろう。それでも彼女は助けてくれたのだ。助けてくれなければ、私は今ここに居ない。けれど、私はここに居ていいのだろうか。また迷惑をかけるだろうし、また助けてもらうだろうし。


 要するに、冒険者として自分で生きていける自信がないのだ。


 マイナス思考が頭を巡る。


 だが、クレンはそれをも見透かしていたのだろうか。



「あの子に槍があるのと一緒で、お前にも……あの、おかしいほどの強いスキルがある。【神の光】だったか?」


「……」


「あの子は既にその才能を開花させているが、それを磨いた後の宝石としよう。お前は原石……磨けば光ると、俺の直感が言ってる。まだこの学校に、いや、この世界に来て間もないから、何も出来なくて当然だ。これから磨けばいい」



 クレンの言葉は、私の中で回っていた思考を良い意味で止めてくれた。


 何か霧のようなものが晴れる感覚があった。雲間から見える光を、私はただ目を見開いて見ていた。



「お前だけじゃなくて、ここにいる全員が成長途上だからな、もちろん。ソフィアだってそうだ。ギルドカードの感じからすれば、まだ磨ける。スタートラインは全く違うかもしれんが、それをサポートするのが俺ら教師だ」


「……はい!」



 クレンが、いや、ここにいる人みんな、助けてくれるのだ。


 私に出来ることは少なくても、一つ一つ増やしていこう。学べるものは、何でも学ぼう。


 現実世界に帰れるかは分からない。今、冒険者に向かうこの道をそれたら、それこそこの世界で生きていく術がない。


 ドラークを倒して、クレンに助けられて、その時に運命は決まっていた。


 ここで、学べば良いのだ。


 そうして私は、きっと、冒険者となるのだろう。


 ここに居る、神様と一緒に。



「神様。それでも、良いかな?」


 《我はハルカとともに行く。我はこの世界の客人なり。郷に入っては郷に従え。――生きたる物を殺すは恐ろしかれど、致し方なし。ともに『冒険者』ならんや》


「……!」


 《されば……ハルカよ。その札を忘るべからず》


「えっ……あ、ほんとだ」



 さっきのトロールの時と違って落ち着いているから、懐を探せばすぐにお札が見つかった。


 これから、神様と一緒に戦っていくのだ。もう二度と、忘れるものか。



 ――そう誓った直後だった。


 神様が再び、その力を発揮したのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ