第18話 食堂での出会い
昼休憩。
昼食を持っていないので学食に行こう……として、大事な事を思い出す。
ちょうどクレンが居たので聞いてみる。
「そういや先生、この世界の通貨って……?」
「あー、言ってなかったな。単位はルーンだ。昔はコインや紙幣もあったんだが、今は全部ギルドカードだな」
説明を聞けば、ギルドカードには現実世界でいうデビッドカードのような機能もあるらしい。
「冒険者は普通、討伐依頼をされた魔物を倒して、得た素材をギルドで売る事で生計を立てるんだ。この学校でも、週に一回の魔物討伐実習の時間に実際に魔物を倒して、金稼ぎが出来る」
「授業でバイトをするって感じですね」
「バイトという言葉がよくわからんが……」
ここまでの説明を聞いて、ふと思ったことがある。
「先生……私が倒した、フランマ……ドラゴン? って、売れたんですか?」
それを聞いたクレンは……目を見開いた。
目が飛び出そうなほど目を開け、顎が外れそうなほど口をあんぐりと開け、しばし静止。
次の瞬間。
「すまん! 本当に申し訳ない!! フランマ・ドラークだ。すっかり忘れてた!!」
「……え?」
「売れた! それも破格で! それで俺が預かってたのに……!」
「あっ……」
私はのほほんと、言ってみるものだなぁ……と思った。
一方、相手はかなり焦っているようだった。
「今払う! ギルドカード同士をかざして念じたら送金できるようになってる。あと売った時の証明書も、多分今あるはず……」
クレンはあちこちポケットやら財布やらを探り始める。
「あった! 50万ルーンだ。思い出して良かった……ギルドカード、今持ってるか?」
「えっ、あ、はい!」
私もつられて慌ててしまう。急いで胸ポケットからギルドカードを取り出し、クレンに差し出す。
彼が2枚のカードを重ね、念じる素ぶりをすると、一瞬、それらが光を帯びた。
「ありがとうな! こればっかりは忘れてはまずかった!」
「そんなに……? えっと、50万ルーンがどういうものか、分からないんですけど……」
「まあ、ここで生活していればすぐ分かるだろう。ドラゴン系はAランク冒険者でも数人まとまって倒すものだから、どうしても高値になるんだ」
「ほー……あ、ありがとうございます」
これで、昼食にありつける。
……と、思ったのだが。
「神様……学食って、どこだっけ?」
ただでさえ方向音痴なのに、朝は余りに急いでいたため、購買の場所を少しも覚えていないのだ。
《朝行きしところはいと遠し。より近き店を探すべし》
「でも、朝のパンのツケも払わなきゃ……」
《……やむなし。風の精霊よ、ハルカを導け》
神様がそう言うと、私の周りに風が流れた。
風向きで、道案内をしてくれるらしい。
間違った道を少しでも行こうとすると、突然大きな風圧に阻まれる。精霊の道案内は、かなり確かなもののようだ。
「何度も何度も、ごめんね……」
そう言うと、精霊たちは体を震わす。その様子は、人間が首を横に振るのと似ているように思えた。なんだか、いつものことながら、彼らの動きは微笑ましい。
だが、風が吹くとき――彼らの周りの空間が、何というか……揺らいで、見えた、気がした――
そうこうしているうち、購買に着いた。
朝会った、メイド服の職員さんと目が合う。
「あら、ハルカさん。いらっしゃいませ」
「どうも。えっと、ツケを払いに来ました」
「早いわね。かしこまりました。じゃあ、ギルドカードをここにかざして下さい」
言われるがまま、カウンターの石のようなものにカードをかざす。
また、光を帯びた。
「ありがとうございます。これで清算は完了になります」
よし。これでオッケー……。そう思って、改めて店内を見回す。
パン、おにぎりといった軽食や、シュークリームのようなお菓子……の、ようなものが所狭しと並んで、日本のコンビニみたいだ。どうやら、食べ物は現実世界と大差ないようだ。別のコーナーに、アーティファクトが豊富に並んであるけれど。
……値札を見ると、何にも違和感を感じない。つまり、物価が日本と一緒……
……あれ? ここのお金の単位は「ルーン」のはず。と、いうことは、1円と1ルーンの価値は似通っているのだろうか? だとしたら、今の私の所持金って……
そう思うとちょっと嬉しいとともに怖くなった。そうこうしているうちに昼休憩の時間は過ぎていく。
今日はここまであれほど頭を使ったのだ。ガッツリ食べたい。脳に養分が欲しい。
「あの、今日の昼食も買いたいんですけど……」
「そうですか。ここで軽食も買えますが、隣に食堂がありますよ」
「隣ですか! ありがとうございます」
食堂と購買はかなり近かったらしい。教えてくれたおかげで、迷わずに済みそう。
外に出て、横を見る……と、確かにそれっぽい建物があった。
オシャレで高級なレストラン……というイメージを受ける外観だが、中は生徒で賑わっている。
みんな、多種多様な服装をしている。
食べ物は、どんなのがあるんだろう? ……
「ねえ、君!」
……メニューを眺めていると、後ろから声がした。
「えっと……?」
「あっ、あたしはステラ。第二学年です。君は? 見慣れない顔だけど」
「ハルカです。同じ第二学年よ。よろしくね!」
「よろしく! ……で、何であたしが呼び止めたかっていうとね……」
可愛らしく、見るからに明るい少女が、突然話しかけたかと思えば突然本題に入った。
完全に彼女のペースだ。
「ハルカちゃんの職業って、もしかして精霊術師? だとしたら私と一緒だなーって」
「えっと……職業なら、巫女だけど……」
「巫女? えっと、二つ名じゃなくて職業が?」
「うん。というか、精霊術師が何なのか分かんなくて……」
巫女もよくわからないけど、とは言わないでおいた。
「んー、精霊を操るのを専門とする職業だよ。えっとね、精霊って、人間なんかよりずっとたくさん魔力があって、それをうまく使うの。結構マイナーなんだけど、ハルカちゃんの周りにいるのって精霊だよね? だから同士かなーって思ったんだけどなー」
「ここにいるのは精霊だ、けど……操ったことは無いかな……」
「へえー……精霊術師と巫女? って似てるかもね!」
「じゃあさ」と、彼女は突然口を止める。そして、一瞬考えるような素振りを見せる。
「ここで会ったのも何かの縁だと思うし、ハルカって呼んでいい? あたしのこともステラって呼んでもらえると嬉しいな!」
「え、と……うん、いいよ! ステラ、よろしくね!」
女子同士とはいえ、会って数分で呼び捨てし合える仲になれる、そのコミュ力が羨ましかった。
そんな眩しい少女と……早速、友達になれたのだった。





