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第16話 クレンの補習

 二時限目が終わろうとしている。



「ふぅ、これで一通りは伝えたと思う。……理解したか?」


「まだ、ちょっと頭が混乱しているけれど……多分、用語は全部、何のことか分かるようになったと思います」


「なら大きな進歩だ。それに、言葉さえ分かれば、授業でなんのことかさっぱりわからん、なんて事にはならんだろう」


「はい! ありがとうございます……しっかり復習します!」



 まだ敬語は治らない。でも、だいぶこの世界の事が分かってきた。



 この世界の住人は、体内に「魔法回路」という器官を持っている。ちょうど血管に血が流れるのと同じように、ここには魔力(マナ)が流れるという。慣れればすぐに、この流れを目で見たり感じたり出来るようになるらしい。


 体内のどこかで作られ、流れる魔力は、持ち主が操る事で魔法という形になる。これを「魔力操作」という。


 クレンは、実際に魔力の流れを見せてくれた。初めは何にも見えず困惑したが、彼が更に念じるような素振りをした時、指先に()()()()のようなものが見えたのだ。


 そして次の瞬間、その指先でゆらめくものは火花へと変わり始め……やがて、彼の手先に小さな火の玉が浮かんだ。


 魔力を操り、火として具現化させたのだ。


 魔力操作は使用者が意識して行うもので、そのやり方によって魔法はいくらかの種類に分けられる。


 この時クレンが使った魔法は「無詠唱魔法」という。使い手が念じることによって、魔力の流れ方をコントロールするのだ。速く威力の強い魔法を繰り出せるという利点を持つ。


 体内の魔力回路の中で魔力操作をし、ある程度「練られた」魔力を魔法に変える、というわけだ。


 しかし、この魔力のコントロールは容易に出来るものではない。魔力操作の未熟なうちは使いこなせず、暴走の危険もはらむ。操作を誤って魔力が体内で暴走すれば、魔法回路が損傷し、最悪死に至るという。それゆえ、この学校でも第三学年で初めて、無詠唱魔法の使用許可が下りるという。


 第二学年である私たちが使える魔法は2種類ある。「呪文詠唱」と「魔法陣構築」である。


 声で言葉を発したり、魔墨という魔力を通す特殊なインクを用い規則に従って図形を描いたりする事により、魔力の流れるレールを作る。そうして強制的に魔力を操作するのだ。


 先に体外に魔力を出しておいて、それから魔法の形にねじ曲げるイメージだという。


 極めれば無詠唱魔法と同等またはそれ以上の威力を出すことは出来るが、どうしても魔力の効率が悪くなる。同じ量の魔力を使った場合で比べれば、遥かに威力が小さいのだ。さらに自由度も低い。おまけに発動に時間もかかるが、無詠唱魔法に慣れるまではこちらの方がずっと安全に魔法を繰り出せるという。


 また、もう一つの魔力操作の方法として「アーティファクト」、または「魔法具」と呼ばれる装置を用いたものもある。中に魔力の込められた鉱石である「魔法石」が備わっていたり、魔法陣が組み込まれていたりとさまざまだ。自分でも作れるらしい。


 そういえば、千早と緋袴を買った時、アーティファクトの入った箱もつけられていた。と、いうことは……私も、魔法を使えるのだろうか?


 さらに、魔法は、魔力操作の方法以外でも分類される。「属性」だ。その種類は、火、水、風……と、さまざまだ。魔法を使う事で、火が球となったり、水が矢となったりする。魔法の属性は、それが何を操るものなのかを示すものだ。


 そして、魔法を使う人によって、その人にとって扱いやすい魔法の属性は異なる。これを「適性」と言い、ギルドカードに示されている。クレンなら火だし、私には――無い。



 ここまでのことを、みんな中等学校までで学ぶらしい。それからリヒトスタインのような高等学校で、呪文の文法、魔法陣で用いる図形の種類や配置――術式、というらしい――の意味を学び、実際に魔力操作が「ちゃんと」出来るようになるという。



「もう次の授業が始まるな。本当なら、第一学年の内容まで行きたかったんだが……そうだな、毎日放課後、ここに来てくれるか? そしたら、授業に追いつけるよう、かいつまんで続きを説明するよ」


「良いんですか?」


「ああ、もちろん」


「ありがとうございます! ……えっと、この教室ってどこですか?」


「あぁ、多目的室1だな。……ところで」



 クレンはいきなり怪訝な顔をした。


 そして……



「ハルカ、その……周りにいくつも飛んでるのは何だ?」


「えっ?! ……あっ、みんな!」



 気づけば、私は色とりどりの光の粒に取り囲まれていたのである。


 現実世界の、見慣れた……私の友達。



「えっと、精霊たちですっ。みんな私の生まれた世界の出身です!」


「精霊? ハルカの世界にも精霊は存在するのか」


「はい……この世界にも居るんですか?」


「形は違うが……確かに居る。精霊を操るのを専門とする職業もあるぞ」


「へえ……」


「それで、その親玉みたいなのは?」


「え?」



 指さされた方を見る。


 離れたところに立っていた、全身に燐光を纏った少女と目が合い……次の瞬間、彼女は私のすぐ横にいた。



「わっ、神様?! ち、近い近いちかい!!」


 《ハルカ、何をか学びたる(何を勉強してたの)。我にも教えん(教えて)!》


「えっ、いつから居たの?」


 《ハルカがここに入りし時より……》


「じゃあ補習聞いてるでしょ!」


「……えーと……俺の質問に答えてくれるか?」



 クレンの困惑した声。



「あー、この子は神さm……」



 答えようとした声はチャイムにかき消される。



「うわ、まずい。急ぐぞ!」


「あ、はい!」



 三時限目が始まろうとしている。

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