第15話 上手くやっていけるかな……
クレンの後ろについていき、ある教室の前まで来た。
2年A組。今日から私は、ここのクラスメートなのだ。
「それじゃ、合図したら入ってくれ」
「わかりま……わかった!」
そう言い残し、クレンはチャイムと共に中に入っていく。
「おはようございまーす!」
「おう、おはよう!」
起立や礼なしに、クレンは切り出した。
「突然だが、今日からクラスメートが1人増えることになった」
「「うおお?!」」
「「「誰だ?!」」」
「そいつ強えーの?」
「そりゃあな。というか、既にお前らに関係無い子じゃないぞ」
「「「ええー?!」」」
どうやらこのクラスはかなり賑やからしい。
面白くなりそうだ、とちょっと期待。
「それじゃあ、ハルカ。入ってくれ」
クレンが手招きしたので、教室のドアを開ける。
開けた瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。一瞬それが止まり、色んなところで「えっ?」という困惑の声。しかしすぐに、さっきの二倍くらいの拍手に包まれたのだ。
彼らが一瞬どよめいたとき、私も私で驚いていた。
教壇に立ち、一度深呼吸しながら……もう一度、クラスを見回す。
「初めまして。神谷晴華と言います。ハルカと呼んでください」
またもや拍手に包まれる。拍手の音に混じって、小声で「やった、女の子だ」と言うのがあちこちで聞こえた。
何度も見直したから間違いない。
このクラス、男ばっかだ。
男大勢に、女が一人。
いわゆる逆ハーレムだ。
自分の高校は共学だったが、だからって男子と頻繁に喋ったわけではない。
「じゃあ、ハルカの席は、一番後ろの……ユーリの隣だ。一年間その席だが、視力とかは大丈夫か?」
「……はい」
指された席に座る。
この一年、上手くやっていけるだろうか。
今更不安になってくる。
「ハルカ、だったか? よろしくな」
隣の席から声がし、慌てて振り向く。
顔を見て、ちょっと怖気付いてしまった。相手は一瞬冷たい目をした……ように見えたからだ。が、私と目が合うと、すぐに彼は口角をほんの少し上げた。
「う、ん。よろしく……ね。えっと、ユーリ君?」
「『君』は要らない。ユーリって呼べ」
「わ、わかった……ユー……リ、一年間よろしくね」
「ああ」
男子を呼び捨て、しかも下の名前で呼ぶなんて慣れていない。
だから思いっきりどもってしまい、顔も自然と火照ってくる。
素っ気なく返され、さらにすぐに真顔に戻って視線を黒板に戻されたのは、ある意味救いだったかも知れない。
私もならって前を向いた。
クレンが連絡事項を話している。一つの単語に対しどこかでリアクションがあるといっても過言ではなく、静かになる瞬間がない。
私には、分からない単語ばかりだったが。
「まあ今日は剣術基礎の実習のある日だからな。ハルカにも見学してもらう。お前ら手本になれよ!」
「「「「しゃー任せろ!!」」」」
「「「うぃーす!!」」」
その言葉と共にホームルームが終わる。
クレンが教室を出て職員室に戻ろうとする。
私は急いで席を立ち、駆け足で追いかける。
「うぉっ、ハルカか!」
「先生!!」
いきなり彼の袖を掴んだのでびっくりされた。だが今はそれどころではない。
なるべく小声で、しかし切実な訴えをせねばならない。
「ここのクラス、男子しか居ないじゃないですか!!」
「……それが、どうした?」
キョトンとした顔で返された。
私も言葉を続けられない。
すると、彼は突然笑いながら言った。
「男子校ってわけじゃないぞ。というか、性別なんざこだわる必要ないんじゃねえか?」
「……」
「この学校では、自分が担任するクラスの生徒をクジで決めるんだがな。たまたま男が集中して、たまたま俺のクラスにお前が来ただけだ。他のクラスでは半々だったり女子が多かったりするしな」
「いやそれどんな確率ですか……」
「まー、このクラスはひときわ個性の強い奴らが揃ってるから、賑やかで良いんじゃねえか? 男だろうが女だろうが人間だし、気にしてたらバランスの良いパーティが組めないしな」
「……いや、それも、正論ですけど……」
でも!
違うの!
こんなに男子に囲まれたりした試しがないのに!
これじゃ私のコミュ力が足りない!
心が保たない!!
懸念がぐるぐると回っていた時、思考はクレンの言葉に遮られた。
「ああ、ハルカに呼び止められたお陰で、大事なことを言い忘れないで済んだよ」
「……何ですか?」
「これから1時限目が始まる。1時限目は魔法理論で、次が呪文学だ。……魔法を使ったことがないなら、授業を聞いても分からんだろ」
「……そう、ですね」
「だから、この2時間……正確には180分だが……授業を抜けて、俺が補習をしようかと思う」
「えっ! 良いんですか?!」
「良いも何も、これからここで学ぶには基礎がなってないとな。他の奴が初等、中等学校と、この学校の第一学年で学んだことのうち一番大事な部分を凝縮して教えようと思う」
「ありがとうございます……!」
「で、3時限目は戦術基礎で俺の授業だから、それなりに配慮はする。4、5時限目は剣術基礎で実技だから、まあその時説明するよ」
「……!」
クレンのこれでもかと言うほどの補助が嬉しかった。彼が居なければ、すぐに私は奈落の底へと落ちこぼれていただろう。いや、彼なしでは、そもそも入学すら叶わなかったのだ。
しかし、感謝する間もなく補習が始まり……
「えっ、えっ……これってどういう……?!」
「だから……そうだな……実際見た方が早いか。……ほら、何か流れているのが見えるだろう?」
「えっと……見え、ません」
「えぇ……」
私、魔法を習得する日が来るのでしょうか?
 





