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第110話 出逢う宿命

 魔王の号令とともに、無数の魔族が攻めかかる。


 王城で調教されているからだろうか。不気味なほどに統率のとれた動きで、走り、武器を振りかぶり、魔法を放つ。


 けどこんな奴ら、敵じゃない。さっきのゴーレムがちょっと強くなっただけ。……そう言い聞かせて、震える膝をなんとか鎮める。


 私は【精霊の加護】でメンバーの体に精霊を宿す。続いて【神楽舞】を舞って魔力を()()()()


 ユーリが私の背後を守りながら戦ってくれているので、自分のスキルに集中することができた。私の意識は暗転していく――久しぶりの感覚だ。


 ☆


 最前線ではルイが聖剣を握る。鋭く、邪を払う光の魔力を色濃く剣身に纏うその剣は、魔族の身を音もなく切り裂いていくのだ。


 少し後ろに、ソフィアとミーシャ。彼女たちの力なら、物理的な攻撃だけでも、魔王の側近といえる魔族らをあやめるのに充分だ。まして、ハルカのスキルの加護があれば。剣も槍も、魔力が付与され、普段の数倍はあろう鋭さとともに、眩しく暖かい光を纏っている。その軌跡は視界の中で尾を引く――いつかの流星のように。


 ステラとセレーナは、いつものように風の精霊を操っている。彼女たちが衝撃波を繰り出せば、まだ視界にも入っていなかったほど遠くの魔族さえ打ち倒される。


 遠くまで攻撃を届かせられるという長所をもつ風の衝撃波だが、普通なら、一度で魔族を死に至らしめるほどの威力はない。だが、彼女たちのニンフがハルカの精霊たちと手を取り合うとき、「普通」ではなくなる。追加で動員された魔族たちによる奇襲は、こうして不発に終わったのである。


 ユーリはといえば、背後を討とうとする魔族――いや、彼の後ろに存在する全ての魔族を、まばたきひとつする間に氷漬けにしてしまった。振り返ることもしないまま、小さな氷山を寸分違わず彼らのいる場所に発生させて。魔力消費の激しいスキルも、いまは少しも問題ではなかった。


 こうして、ついに魔王のそばに控えていた魔族たちは全滅した。紫色の靄が揺蕩う。


 仲間を支えるべく、その扇を一心に閃かせていた少女は、はたと動きを止め、うっすらとそのまぶたを開けた。


 ☆


 《ハルカ、舞をやめよ!》


「ん……うん……ありがと、リン様」



 目を開くと、さっきまでそこにいた魔族たちが跡形もなく消え去っていた。


 ……いや、跡形もないわけではない。視界がかなり青っぽい。かなりの数の魔族が倒されたのだろう。


 私は、祓い串を取り出した。意識を集中させれば、ほんの僅かな時間の舞でもしっかり効果がある。


 周りの景色が明瞭になったのを確認して前を向く。ルイが驚いたような顔をしてこちらを見ていた。ああ、私のスキルを実際に見たことがなかったんだっけ。


 わずかな時間、沈黙が流れる。しかしそれは、鈴のような声に破られた。



「これはこれは、悲しいですこと。わたくしの側近たちを、こんなに簡単に」



 言葉では悲しいと言っているものの、その声はどこか楽しげだ。魔王の顔は、なおも見えない。高く、それでいて奇妙に暗い玉座の上方から、コロコロと笑い声がするばかりだ。



「明日からは、また護衛の子達の鍛錬をしなきゃいけないわねえ」


「――お前に『明日』などない。俺たちは、お前の『明日』を奪いに来たのだからな」



 ユーリの反論が聞こえなかったというふうに、魔王はさらに続ける。少し強めに、「明日からは」と言い直して。



()()()()()――警備も見直さなきゃならないわね。拾ってあげた恩も忘れて人間に寝返ってしまう、間抜けな番人さんを雇ったのは愚かだったわ」


「何が『拾ってあげた』よ! 騙したくせに!」



 ルイの代わりにそう声を荒げるのはミーシャだ。それも、魔王は無視。



「まさか、こんな早くやってくるなんてね?」



 不自然に闇に塗りつぶされたような顔から、チラリと魔王の目が覗いた。


 妖しく青白い光を放つその瞳が、ぎろりとルイを睨みつける。


 その時――私の心臓が、どくんと跳ね上がる。



「あ……」



 その眼光には……見覚えがあった。


 彼女の声を聞いたときに感じたのと同じ胸騒ぎが、私の心を締め付ける。


 いや、見覚えがあるなんてものじゃない。


 聞き覚えなんて、そんな生やさしいものではない。


 今までその気づきが頭の中に浮かび上がらなかったのは、ただ肯定したくなかった、認めたくなかっただけだろう。


 だが、もはやそうも言っていられない。



「……あら。ずうっと闇魔法で顔を隠してたけど、そうもいかないみたいねえ……わたくしのことを知ってる人間が()()()()()()となると」



 彼女がそう言うや否や、玉座の上が突然明るくなった。


 その姿がよく見える。


 白磁の肌。黒々とした幾何学模様。そして、青白く輝く黒白眼を、三日月の形に細めている。



「……ルナ……」


「ふふ。お久しぶりですわ。人間に信じてもらえなかった、哀れな巫女さん」



 ルナ・ヴァン・イヴルス。


 あの日々――王宮の者たちを踊らせて私を陥れた、宿敵。


 ここでまた出逢うとは、運命の悪戯なのだろうか。



「わたくしにとっても、あなたが一番邪魔だった。……ああ、手強いって意味の、褒め言葉ですわ――とにかく、ここでまたお会いできて、光栄ですこと」


「……それは、どうも」



 浄化の時にちらと見た、美しいながら少し幼なげな顔つきも、小柄な体格も、全く変わっていない。玉座の物々しさと不釣り合いに()()()()と座っている。だが、か弱げな見た目さえ、可愛らしいと思えるはずがない。「あの時と同じ」であることが何よりも重要だった。


 尤も、あの頃のように仮面をつけてはいないし、あの頃と違って頭に角を生やしているけれど。



「ハルカ。ルナってことは……」


「……うん……そうだよ。あの時の……魔族」



 ユーリの問いに、押しつぶされそうな声をなんとか絞り出して答えれば、彼はその美しい顔を驚きに染めた。驚愕の色は、やがて悔しさと恨みに変わる。


 彼は私を庇うようにして一歩進み出て、玉座に座る者を睨みつけた。



「ああ……俺たちにとっても光栄だよ。ハルカを――俺にとって誰よりも愛おしい女性を傷つけておきながら雲隠れしたお前と、こうして正面から向かい合えるのだからな」



 ユーリの宣戦布告とともに、他の仲間たちも臨戦態勢をとる。私の周りを取り囲むような格好で。


 そうだ。今の私は、あの時とは違う。私の周りにいるのは、私のことを何も知らぬまま搾取する狡猾な大人たちではない。心をひとつに幾多もの戦いを共にしてきた、かけがえのない仲間たちだ。


 私たちの力があれば――あの日々は過去でしかないのだ。



「――なら、せめて誠意を尽くして真っ向から勝負しましょうか。手加減するなんて、無礼な真似はしませんわ?」



 応えるように、魔王――否、()()は、一層鋭い光をその眼に宿す。


 それから、彼女はストンと玉座から降りた。ゆっくり、ゆっくりと、こちらに歩み寄ってくる。


 同じ高さの地に立って、ルナと私たちが対峙した。


 ――大丈夫。ここにいるみんなとなら、何だってやれる。



「――おらぁっ!」



 気合いの声とともに間合いを詰め、初めに聖剣を振ったルイ。


 宿命とも言える闘いの火蓋が、まさにこの瞬間、切って落とされた――

いよいよクライマックス。魔王との戦いが始まりました。しかし、戦闘シーンはかなり苦手なので、ここからまた筆の進みが遅くなるかもしれませんが……気長にお待ちいただけますと幸いです。ご指摘などあれば遠慮なく感想欄に書いていただけると助かります。

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