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第10話 正式に住人になれた

「この学校に入れば、学生という身分が得られるし、卒業してから一流の冒険者として食っていけるようにカリキュラムが組まれてある。全寮制だから住居の提供も出来るしな。あと、年齢は……」


「16歳です。今年で17になります」


「なら第二学年に編入出来るだろう」



 この学校は、ちょうど日本の高校のように三つの学年があるという。



「……でも、魔法は一切使えませんよ?」


「それなんだが……」



 そう言って、先生は腕にはめていたブレスレットを外した。真っ赤な光を放っていたそれは、彼の手を離れるとともに光を失った。



「一回、これに触ってみてくれ」


「え、と……?」



 そう言われるまま、指先をその宝石のようなものにおずおずと当てる。


 何も変化は無い。



「なるほど。今ので確かめられた。本当に魔法が使えない体なんだな」


「……え?」


「この石、魔法が使える人間が触れたら、その人が使うのに一番適した属性に合った色に光るようになってるんだ。全く光らないから、やっぱり貴女の言葉は嘘じゃないんだろう」


「属性、ですか……」



 また新しい単語が出てきた。



「あー、詳しいことはまた今度話す。うちの生徒にも生まれつき魔法の使えないのが居るんだが、その子は他で恐ろしいほどの才能があってな。それで評価されて特別に入ったんだ」


「でも、私は才能も何も……」


「貴女の場合、現にレイドボスを倒した実績があるから多分大丈夫だ。……ところで、あれって魔法じゃないのか?」


「……全く、分かりません」


「……そうか」


「あの、魔法の知識も皆無なんですけど……」


「あぁ、それなら俺が放課後にでも補習してやるから心配要らない」


「ありがとう、ございます……」



 なんて至れり尽くせりなのだろう。レイドボス? を倒しただけで。



「ああ、そういや、入学の意志を確かめていなかったな。すっかり編入してもらう気で話をしてしまった」


「これほど嬉しい事はございません。可能ならば是非!!」



 身を乗り出して即答してしまった。それを見た彼は、少し顔を緩ませた。



「なら、校長に話を通じておく。お名前は?」


「神谷晴華……ハルカです」


「分かった。貴女の事情を一番知っているであろう俺が担任になれば、色々と都合が良いだろう。それでどうだ?」


「お願いします!」


「分かった。俺のことは、クレンと呼んでくれ」


「分かりました、クレン先生。これからお世話になります」


「……あぁ。よろしくな」



 私がお辞儀をすると、クレン先生は少し顔をしかめた。



「……そうだ。その、日本……ではあまり馴染みがないのかもしれんが、この世界で冒険者はあまり敬語を使わない。上下関係が外部から分かると、都合が悪いからな」


「え、そうなんですか?」


「そこは『そうなの?』だ。俺の生徒も、俺のことを敬称略で呼ぶしな……他の教師に対しては知らんが」


「そう、なん……ダ」


「まぁ徐々に慣れればいい」



 それじゃあ手続きに行ってくるな、と言って、()()()は応接室を後にした。


 ☆



「なーんか……初めてのことばっかり」



 クレンが部屋を出て、気が緩んだのか。無意識のうちに呟きながら、一つため息を漏らす。



「そういや……クラスメート(あいつら)は、元気にしてるかなぁ」



 ソファで伸びをしながら。なぜか心の中で思うのではなく、口に出てしまう。


 大変なことになってしまったものだ。でも、あそこで龍に出会わなければ、それで倒していなければ、私は今ごろ浮浪人だったか死んでいたか。それを考えればラッキーだったのだろう。


 そういえば、龍を倒した時……あれを貫いていた光は、まるで……


 ……神様の……体が纏っている燐光に……



 そうだ、神様!!



 絶対忘れてはならなかったのに!



 私が元の世界に帰らないと、神様は……



「ハルカ」


「えっ……あ、はぃ……じゃなくてうん」



 急に呼ばれて変な返答をしてしまう。



「書類の手続きは出来た。校長にもうまい具合に話しておいた。まあ、あんまり納得した様子じゃなかったがな。この後ギルドカードの登録をするから、一緒に来てくれ」


「ギルド……?」



 また新しい言葉だ。



「この世界の身分証明書みたいなもんだ。学生証も兼ねてるし、卒業した後も使える。冒険者への依頼斡旋とか管理とか研修とか、そんなのを受け持ってるのが冒険者ギルドっていう施設で、そこから発行されてるカードなんだが、うちの学校の事務室でも作れる。ちなみにこんな感じだ」



 そう言って、クレンがポケットから小さな薄い板のようなものを取り出す。紙ではない。アルミに似た、曇った銀色の素材だ。綺麗な装飾が施された、名刺サイズの……これが、ギルドカードなのだろう。


 そういや、友人が読んでいたラノベにもあった、気がする。



『ギルドカード (リヒトスタイン支部発行)

 氏名:クレン・ウラノス

 年齢:280歳

 種族:エルフ

 職業:剣士〈A〉

 適性:火属性

 職業スキル:【魔撃=10】、【剣の舞=7】、【炎剣=10】

 未取得スキル数:2』



 カードの隅には、見る角度によって様々な色に輝く小さな金属が貼り付けられていた。


 何なのだろう、と質問しようとしたら、それより先にクレンが教えてくれるようで、ちょうどその場所を指差していた。



「ギルドカードを作ったら、まずこれに自分の血を落とす。そしたら自分の体とこのカードの間に血盟が結ばれて、自分の今の状態とカードの内容が連動するようになるんだ」


「便利……」


「スキルって言うのは(わざ)とも言えて、戦いを重ねると新しいのを習得していく。で、熟練度が上がるほど『=』の後の数字が最大で10まで上がる。血盟を結んでおけば、その度に自動的にカードの『職業スキル』欄が更新されるって訳だ。『未取得スキル数』がゼロになって熟練度が全部のスキルで10になるまでな」


「あれ、クレンのはまだ変わるんだ……」


「まあ、まだ俺も成長途上って訳だな。ランクもまだAだ」



 ランクはSが最も高く、それ以下はA、B、Cと続いてFまであるという。


 Sランクを取ったら二つ名を持つことができ、強い冒険者として有名になれるそうだ。


 だがそれより、私の目は別のところに吸い寄せられる。



「いやちょっと待って、280歳ってどういうことですか?!」


長寿種族(エルフ)だからな。普通でいう28歳だ。250歳で教師になったから、もう30年はこの学校で教えてるな」



 さらっと言うので唖然としてしまう。開いた口が塞がらないとはこの事だ。



「……日本とやらには、エルフも居ないんだな。まあこの世界でも少数派だが」


「……」


「……さて。そうだ、この『職業』っていうのは、俺で言えば教師とかそういう仕事ではなくて、冒険者として戦う時に何の武器を使うのが向いているか、というものだと認識したらいい。カードを作る前の習慣とか遺伝とかに依存するな。習慣なら、例えばずっと魔法の勉強をしてたら魔導師だし、俺みたいな剣術バカは剣士だし。遺伝なら、親が治癒師をしてれば子も回復魔法が専門の魔導師、つまり親と同じ治癒師になる。まあ、突然変異もあるがな」


「……じゃあ私はどうなるんだろう……?」


「そうだな……」



 私は魔法を全く使えないし、剣術も、体育の授業で剣道をしてちょっと褒められたくらいか。


 親も当然現実世界の人だし。



「まあ作る前にあれこれ考えても仕方ない。職業なんて色々あるからな。ひとまず作ってみよう。ここに新品のカードがあるから、この針で指先を刺すなり何なりして血を落とすんだ」


「えっ、今、ここで?」


「あぁ、ここでだ」



 事務室に行って作るのかと思っていた。


 少し緊張しながら、言われるままに、微かに震える指を刺して、恐る恐る、私の血を……。


 新品のギルドカードは、私の紅い血のしずくを乗せた途端、光を帯びた。


 心なしか、私の体も同じ光を纏った、気がした。


 光は、血を包み込む。ギルドカードが紅い小さな珠を飲み込むように見えた。


 続いて、文字が浮かび上がる。



『ギルドカード (リヒトスタイン支部発行)

 氏名:ハルカ・カミタニ

 年齢:16歳

 種族:ヒューマン

 職業:巫女〈F〉

 適性:なし

 職業スキル:【神の光=2】

 未取得スキル数:7』



 この瞬間、私は晴れて、正式にこの世界の住人となれたのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界に来てから、トントン拍子で話が進みますね。 こういうテンポの良い世界観や設定の説明は読者としては、 スムーズに話が進むので、有り難いです。 というかクレンさんって280歳なのか、流石…
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