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第9話 ひとまず身の上を知ってもらおう

「身柄?」


「はい……詳しくはまた後ほど、この先生にお話しようかと思います。ここは少し、人が多いので……」


「人が多ければ話せない、と?」



 私が医務室で会った先生を指差すと、彼は軽く目を丸める。俺なの?! と言わんばかりに。


 校長先生が、少し怪しむような目を私に向けてきた。


 まあそうなるよなぁ……ある程度は説明すべきか。



「はい。……いや、別に悪事を働いたとか、不正をしたとか、そういうものではありません。ただ、本当のことをお話ししようとすればとても奇想天外と言いますか……」



 一つ一つ、言葉を選びながら。これでもクラスではコミュ力がある方だったのだ。ある程度落ち着いたら、言葉は何とか出てきた。



「……かなり特殊な事情で、自分でもよく分からないような事情でここにおりますので……今のところ私を一番よく見ているであろう彼なら、何となくでも分かっていただけるかと思いまして……」


「ほう……何だかよく分からんが」



 校長先生が眉を寄せて言ったが、その顔にもう警戒の影はなかった。



「そうか。……俺が貴女から聞いた内容をここの校長とかに伝えるのは、問題ないか?」


「語弊が無いように伝えてくださるのなら、私も有難いです」


「分かった」


「ただ、先程も奇想天外と言いましたが、それは難しいかもしれません。嘘を言おうが何をしようが先生にお任せいたします」


「いや、それは任せてくれ。俺とて、何十年も生徒に魔法の知識や面白さを()()()きたというプライドがある。上手く伝えるのには自信があるつもりだ」



 自信満々に言う。


 若い男教師……と思っていたが、キャリアはかなりあるらしい。意外だ。何歳なのだろう?


 尖った耳が特徴的で、それを見ると、あぁ、やっぱりここは現実世界では無いんだと実感させられる。


 ただ、彼にキャリアはあっても、流石に異世界とかそういう話をされて信じる人は居ないだろうし、さらにそれをきちんと伝えるなんて出来るのだろうか?


 不安がまだ消えない、けれど……



「分かりました。では、後ほど一切をお話ししますので、その内容の扱いは一切お任せします」


「……あぁ」



 ここに居る彼に、全て委ねよう。



「では、応接室にご案内しましょうか?」



 パフォーマンスをしていた女性が私に言ってくれた。



「いや、必要ない。どうせすぐ隣だからな」



 隣の先生が代わりに答える。



「では、失礼いたします」



 校長室を出ると、再びあの絢爛たる装飾が私の目を射る。



「……ふう」


「気詰まりな校長室からの気詰まりな応接室で悪いが……まあ気楽にしてくれ」



 そう言って、彼はすぐ隣の部屋のドアを開けた。中はやはり豪華だ。


 この先生は結構気さくな感じがする。校長室や応接室……よりもこの中世ヨーロッパの宮殿のような装飾が一番慣れていなくて気詰まりなのだが、彼と話すだけならまぁマシだろう。


 手振りで案内され、先生と対面する形でフカフカのソファに座る。体が今まで座ったどのソファよりも沈み込み、ソファが良質なのか私が重いのか分からない。



「それで、早速本題なのだが……と言っても、何から質問すべきかも分からんから、貴女から言ってもらえると助かる」


「分かりました。では……あの、最後まで聞いてくださいね?」



 今度は私が、彼にとっての――私にとってもだが――非現実を、爆速で語る番だ。



「私は、この世界の住人ではございません」


「……は? どういう……」


「……最後まで聞いてくださいってば」


「……あぁ、すまない。続けてくれ」



 頷き、一つ、大きく息を吸う。



「私は、魔法の存在しない世界で生まれました。伝説やおとぎ話や小説に魔法が出てくることはあっても、それは想像に過ぎないというのが共通認識でした。その世界……地球、とも言いますが、その中の一つの小さな国、日本が、私の出身です」


「えっ……。あぁ、それで『日本語』というのが、そこの言語という訳か?」


「そう、ですね……」



 それにしても、何でこの世界の人たちとまともに意思疎通出来ているのだろうか。……まぁ、後で分かるかな。


 それから、私の知っている全てを話した。さっき約束したばかりだから、何も隠さなかったし、嘘は言わないことにした。


 学校のこと、神様のこと、結界のこと。数ある世界の存在。自分が結界を触ってしまって、気づけば龍が目の前にいて、いつの間にか倒していたという経緯。



「……だから、私は元々、この世界に存在しないはずの人間なんです。親も居なければ何の拠り所もない。住所不定無職の状態で、ここに一体いつまで居なければいけないか分かりません。だから――」


「どこかに所属したい、と?」


「……! はい、そういうことです! 別に、高い身分とかそういうのは要らないから……人権さえあれば」


「ならこの学校に編入するというのはどうだ?」


「……えっ!」



 突然の申し出に、私は目を丸くする。


 もし万が一出来たら良いなぁぐらいに思っていたことを、まさか先生の方から言ってくれるとは。


 案外……思った以上にまともで、しかも話の早い人なのかも。

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