九十四話
甘美な味が口いっぱいに広がる。
血を吸いだすと共に自分の因子を送り込んでいく。
十分な量の因子を送り込んだ後首から牙をはなす。
ミリアーヌの傷が吸血鬼の因子によりみるみる治っていく。
安心してゆっくり地面に横たえる。
立ち上がった時には全能感に包まれ自身の気配が変わっていくのがわかる。
気配に脅えたハイオーク達はその場で固まるもの逃げ出す者が続出した。
魔王が戦えと命じているがその命令を聞くハイオークは存在しない。
姿を闇に溶かし次の瞬間には魔王の前に姿を現していた。
「なっ。なんなんだお前。魔法は封じてるのにどうやって現れた」
「うるさい。黙れ」
剣を一振りして魔王の腕を斬り飛ばす。
「俺の腕がぁ」
憤怒の形相でこちらを睨み残った腕でこちらを殴りかかってくるがそれも斬り飛ばす。
「クソ。クソがぁぁ。魔王たる俺がこんなところでやられるわけがないんだ」
あまりの出来事に冷静な状況判断ができていないようだ。
無防備に呆けている魔王の首に牙を突き立ていっきに血液を吸い出していく。
魔王はいっきに干からびていき最後には灰になって風に吹き飛ばされていく。
「まずい血だな」
「禍々しい気配だがウィリアムだよな」
油断なく槍を構えたラファエルが問いかけてくる。
「えぇ。ウィリアムですよ。少し血に酔いすぎたようです」
気配を抑え込み笑顔を向ける。
「ウィリアム様は血を吸ったことで吸血鬼として覚醒なされたようですね。魔界であったことのある吸血鬼と似た気配を放っておられました」
「あれ。私どうしたんだっけ」
ミリアーヌが気が付き体を起こす。
「ミリアーヌよかった気が付いたんだね。どこか具合の悪いところない」
ミーシャが心配そうにミリアーヌに語り掛けている。
「ミーシャさん落ち着いて」
ゆっくりミリアーヌの元に歩みより頭をさげる。
「ミリアーヌ緊急事態だったとはいえすみません。貴方を私の眷属にしてしまいました」
「ええっと。そうかミーシャさんを庇ってハイオークに斬られて。師匠は私を助けてくれたんですよね」
「結果的にはそうですが貴方の種族を勝手に変えてしまったのですよ」
「えへへ。私は気にしていませんよ。師匠の眷属になれてうれしいです」
嬉しそうに笑顔を浮かべこちらに微笑んでくる。
「どこか具合の悪い所はありますか」
「なんだかいつもより調子がいいぐらいです」
「そうですか。体調が悪くなったらすぐに言うんですよ」
「わかりました」
皆を先に帰して結界を張り直してから屋敷に戻った。




