八十九話
「あの方ですか」
教会で会った神のような存在を思い出す。
「神の名をみだりに口に出すのはためらわれるがその方は生と死を司っておられる。何か思い当たることはないか」
教会で体験した不思議な現象を説明する。
「なるほどな。人が輪廻から外れるのは大罪であり本来なら討伐対象だが使命を授かっているのならまた話が変わってくる」
「その話だと師匠は人じゃなくなっているのですよね。何の種族になっているのでしょうか」
「恐らくというのはあるのだがな。死ぬことが許されず血を取り込み血を与えて眷属を増やすか」
「ウィリアム様その特徴は吸血鬼と呼ばれる種に酷似しております」
「吸血衝動とかはないんですがね」
「神が直接呪ったのだ。吸血鬼共の始祖とも言えるかもしれんな」
「眷属から遠く外れた下級吸血鬼であれば衝動があるでしょう。始祖に近い者はそのような衝動とは無縁だと聞いております」
「その口ぶりだと悪魔よ。そなたは吸血鬼を知っているように聞こえるのだが」
「魔界にいたころ幾人かとお会いしたことがあります。その者達は能力が高くいずれも私より上位の上級貴族でした」
「種族が違っていてもウィリアムさんはウィリアムさんだよ」
ミーシャが嬉しいことを言ってくれる。
「そうですね。私は私です」
「人に仇なさないのならそれでいい。とはいえ監視は必要だろうな。現世に留まろう」
「ラファエルさんこれからよろしくお願いしますね」
「よろしく頼む」
「それではミーシャの召喚に移りましょうか」
触媒を再配置して準備を整える。
「ここから魔力を流せばいいんだよね」
「ええ。思いっきり流してください」
ミーシャが召喚陣に魔力を流し込んでいく。
召喚陣がまばゆく光ったと思ったら召喚陣の中心に狐の子供が立っていた。
「わぁ。可愛い狐の子です」
ミリアーヌが不用心に近づいていく。
「キシャァァ」
狐の子供は警戒して威嚇してくる。
「ミリアーヌさんいきなり近づいたらダメだよ」
ミーシャは目線をあわせ優しく呼ぶ。
子狐は少しずつミーシャに近づき飛びついた。
「あはは。いい子だね。怖いことなんて何もないからね」
子狐はミーシャの顔をペロペロ舐めている。
「僅かに神力を感じるな。普通の狐ではないようだがまたずいぶん可愛いものが召喚されたな」
「神力があるのですね。私達の部族で祭られている天狐の子供かもしれません」
ひとしきり舐めて満足したのかミーシャから離れると存在が溶け再構築され変わった衣装を着た小さな女の子が現れる。
「お姉ちゃんよろしくね」
それだけ言うと子狐の姿に戻った。




