七十二話
「私がですか。師匠が教えたほうがよくないですか」
「専門的な部分は私が教えますが他人に教えるのはよい経験になりますから」
「ミリアーヌさんよろしくお願いします」
「それでは魔力を感じるところからですね。手を出してください」
「はい」
ミリアーヌがミーシャの手を取ると循環するように魔力を流す。
「何か暖かいものが体を通り抜けました」
「魔力を感じ取れたようですね。それでは一人でやってみてください」
「むむ。中々難しいことをいいますね」
それからしばらく続けるがうまくいかないようだ。
「師匠。私の教え方が悪かったのでしょうか」
「そういうわけではないと思いますよ。普段身体強化で魔力を循環させずに放出しているのでその癖がついている感じですね」
「ウィリアム様。お食事をお運びしてもよろしいでしょうか」
セバスチャンはタイミングを見計らっていたのだろう。
切りのいいところで声をかけてくる。
「そうですね。癖を治すには時間がかかるでしょうから食事にしましょうか」
うまくできなかったのを気にしているのかミーシャの耳がペタンと倒れている。
本日の夕食は白パンにロールキャベツのようだ。
食事に手を伸ばすとミーシャの耳が徐々に立っていく。
ミーシャは食べるのが大好きなようだ。
「セバスチャンさんこれ美味しいです」
ミリアーヌは上品に切り分けて食べている。
機嫌が直ってよかったと思い食事に手をつける。
肉に野菜のうまみが濃縮され何とも言えない味に仕上がっている。
舌鼓を打ちながら食事を終えミーシャと向かい合う。
「ウィリアムさん修正案があるとのことですが」
「私が魔力が放出されると同時に放出された魔力を送り返しますので体で覚えてください」
「わかりました」
手と手をつなぎ魔力を循環させようとするが体外に出ていこうとする魔力を送り返す。
二時間ほどそれを続けていただろうか。
体外に出ていこうとしていた魔力が循環をはじめる。
「コツをつかんだようですね。手を放すので一人でやってみてください」
「はい。やってみますね」
無事に一人でも魔力を循環させられるようになったのを見届ける。
「やりましたね。ミーシャさん」
こちらの事を気にしながらも瞑想を続けていたミリアーヌも我がことのように喜んでいる。
「ありがとうございます。ミリアーヌさんとウィリアムさんおかげです」
「ご褒美ということでケーキでも食べましょうか」
王都で買っておいたケーキを人数分出す。
紅茶はセバスチャンが気を利かせてすぐに手配してくれる。
「王都でも有名なところの奴じゃないですか」
「そうなんですね。楽しみです」
二人が喜んでくれたのを見てまた機会があれば買ってこようと決めたのだった。




