百七十話
クランメンバーはダンジョン二層目まで活動の幅を広げ素材と薬草の採取に精を出している。
冒険者達も徐々にではあるが戻りはじめ街は以前の活気を取り戻しつつある。
王国軍はスタンビードの可能性は低いと判断して撤退していった。
職人たちは連日素材が届けられ忙しそうに加工をしている。
加工された商品は行商人に買われ王国の各地へと売られていく。
定期的に間引きにダンジョンに入る以外はメンバーの修練に付き合いより精鋭化を図り時が過ぎてゆく。
吸血鬼化すれば全体的に能力の向上が見込めるがポンポンと増やす気はないので地道に頑張ってもらうしかない。
「ふぉふぉ。退屈な魔界を飛び出して久々に地上に出てみれば面白い気配に出会えるとはついておるの」
野営地に突然ロープを羽織った爺さんが現れる。
「その気配は人ではないようですが何者ですか」
爺さんに気付いた仲間達は油断なく武器を構えている。
「儂は古代竜の中でも竜王と呼ばれた個体じゃよ」
言われてみればジルトラに近しい気配を放っている。
竜王と名乗るからには相当な実力者であることは間違いない。
「儂は戦うのが好きでの戦いに熱中するあまりうっかりと人間の国を一つ潰してしまってな。神々に怒られそんなに戦うのが好きなら魔界でいくらでも戦えと落とされてしもうた」
うっかりで国を一つ滅ぼす程の力とは尋常ではない。
できることなら戦闘は回避したほうがよさそうだ。
「私ではとてもではないですが貴方の相手は出来そうにありませんね」
「かっかっかっ。懸命な判断じゃの。己の力量をよくわかっておるな」
「立ち話もなんですし座って酒でもいかがですか」
アスカ皇国で仕入れたとっておきのお酒を取り出して進めてみる。
「ほう。竜の扱い方を心得ておるな。これは儂が作った龍泉酒じゃ。飲み比べといこうかの」
酒を互いに注ぎ合い口に運ぶ。
「これはすっきりとした良い酒じゃの。度数があればもっといいが」
さすが竜というべきか度数の高いお酒がお好みらしい。
「そういうことでしたらこういうのもありますよ」
竜神酒を取り出し竜王のコップに注ぐ。
「かっかっかっ。これじゃ。これこそ美酒というに相応しい」
龍泉酒は度数が高いが飲みやすくぐいぐいいけてしまう。
仲間達は危険は去ったとみたのか酒に合うつまみを作ってくれる。
竜王との飲み合いは長時間続き樽に入った酒をいくつか飲み干す程であった。
「よい飲みっぷりであった。もし修行をつけて欲しいならそこのダンジョンの最奥まで来るといい」
それだけ言い残して竜王は去って行った。




