その3
短くなりました。その3です。ここまで読んでいただけると次も読んで下さいとしか申し上げることが出来ません。よろしくお願いいたします。
3
最悪だ・・食事は出るが、どうやら大の為の穴が今、目の前で掘られている。
トイレぐらいは作ってくれよと叫んだ記憶はある。
だがせめて、せめて岩場の陰に穴掘ってくれよ。
ここじゃ明日から50人もの屈強な男どもに俺の奮闘を見せつけねばならん・・・
こんな世界に来てまで夜中にコソコソ起きては踏ん張らねばならないとは・・
それに、小だって檻の外に向かってやるのか。
子供で良かった。元の年齢のままだったら恥ずかしさのあまりこの縄で首を・・・
ちなみに縄を切った時点で死刑だそうだ。
そんなことを考えた初日の夜に兄貴は来た。
家族3人で面会に来たものの、通されたのはナズ1人だった。
「すまん。まさかここまで大事になるとは思ってなかった。」
思い詰めたであろう兄貴の顔には悲壮感が漂う。
「いいよ。俺も兄貴の立場なら相談してた。
お告げとやらが重なったみたいで、ちょっと間が悪すぎたみたいだ。」
街灯のない夜だが、星の明かりがこんなにも明るいことに少し驚きながら空を眺める。
「ヤン、お前、随分と大人になったな。爺さんと話してるみたいな気分になるぞ。」
それを聞いた俺は疲れた息を吐きながらこう答える。
「俺、50才以前の記憶が戻ったんだよ。
子供の顔、名前は分からないが2人。
それに昔生活していた環境。
死んだ記憶は無いが、いつの間にかこの体に入って来た。
以前の記憶や気持ちもあるぞ。だからナズは兄貴だ。
大事な家族だ。
ミコだったか・・俺が奴隷になっても家族には手を出さないと言ってくれたので安心しているよ。」
ナズは驚いた顔をこちらに向ける。
「50年近くも生きていたのか?先々代のミコ様でも40超えて皆から驚かれているのに。」
しわくちゃだと思っていたばあさんが、まさかの40代とは・・・後々びっくりすることとなる。
「大体、皆、大きな病気しなければ80まで生きる時代だったからな。。」
「80・・・」
ナズはポカーンと口を開けたままだ。
ちなみに、今の記憶が入るまで、ヤン(俺)は数を知らない。
ナズは生活の為に必死で覚えたそうだ。
「また来る。今度は肉持ってくるからな。」
ナズは後ろ手に手を振る。その手に向かって
「鶏の肉がいい。蒸して塩でも振ってくれ。」
見た目にそぐわない言葉遣い・・子供らしさはどこにもない。
海に面していない村での塩は貴重である。
今はそんな冗談を投げるのが精一杯であった。
翌日、日が昇るころに50人の屈強な兵士達は到着した。
「坊主のホラの所為で俺たちはここにいるんだよ。
かぁちゃんは畑仕事忙しくなるのに徴収されて機嫌悪いぃんだ。
ぜ~んぶ、坊主の所為だからな。
奴隷になったらクソでも投げてやるから覚悟しやがれ!」
兵隊の1人、オクトルが喚いては唾を吐きかける。
筋骨隆々、髪の毛も無いのでさらに怖く見える。
隣の村からやって来た彼は、ひと月ほど前結婚したばかりで
もう尻に敷かれているともっぱらの評判だ。
20になったばかりだというのに髪の毛が無い。
お陰で皆、16,7で皆、結婚するのだが彼は20超えるころにようやく伴侶を手に入れた。
お陰で怒り心頭。しかしそんなことをヤンは知らない。
おまけにこちらも推定約50才。併せて60才の老人だ。
却って飄々としている。
はた目から見ると、強面のおっさんが子供をいじめているようにも見える。
「動物園のゴリラじゃあるまいし、もうちょっと品のある兵士はいないのかね。」
小さい体ながら、強気に応酬するも、相手には半分も理解されていない様子だ。
ただ、お互いにウエルカムでも無さそうだ。
そんな2人の間に割り込む優男。
おいおい、兵隊の中に吟遊詩人でもいるのかい?といった風に見た目も言葉遣いも軽やかだ。
彼の貫頭衣には色鮮やかな着色がされている。
「は~い、はい。おしま~い。怖い顔しても穴は掘れないよ~。
この子に大人の事情伝えても可哀想じゃないかい?」
こちらに微笑みかける。
兄貴も微笑むことはあるが、ここまで爽やかではない。
その後、4交代制でボーリング工事が始まった。
これはあの吟遊詩人の監督で行われているようだ。
彼の名前はダイコウ。
祭殿などの修復工事は彼の監督で行われることが多いと後に知る。
複数の女性から毎日のように恨み言が届く遊び人でもある。
ありがとうございます。
誤字、構成の不手際、謹んでお受けいたします。
書き上げる事24時間。もう1話お付き合いください・・・