争いごとは避けて押し通る。
ファンタジーでもありません。歴史もの?でもないかな~。
読んでもらって楽しんで頂ければ幸いです。1日で書いたので誤字、脱字は目を閉じてね。
ちなみに初めて書いたので、修正出来る部分あれば教えてください。
1
「おーい! こっちこっち。早くしろよ。ヤン。」
3つ年上の兄ナズの人をからかったような叫び声が遠くから聞こえる。
生い茂る葉っぱと藪に囲まれた中、僕は声だけを頼りに進んでいく。
太陽は空高く昇っていて、明るさは充分足りてはいるが
木々に囲まれている現状、目の前と足元に注意するのが精一杯。
何とかナズの姿を見つけようと、目の前の葉っぱやツタを
小さな子供の手で振り払って前に進んでいた。
暑い季節は過ぎたものの、今は実りの季節。
当然緑の力を子供の手で掻き分けるのは困難だ。
ナズはこんな所、どうやってあんなにも早く進めるのか。
って、この背中の大きな籠が憎らしい。
ナズは凄い。村のみんなが知らないキノコの自生地を知っている。
今はその貴重なキノコを求めて山の中を散策中だ。
背中には大きな籠を背負わされている。
ただでさえ小さい体なのに、キノコを見つけられない役立たずはせめて
荷物持ち位はしないといけないらしい。
そう、言い聞かせられてきた。
息を切らせてナズの所に着いたころには籠半分に入る程のキノコが並べられている。
そんなキノコ採りだが、ナズは自分と母であるイノリにしか知らせてないし、
父タカトには、見せてもいなければ食べさせもしていない。
ナズは前にこう言っていた。
「こんなに美味いもの、偉い人に見つかったら全部持っていかれる。
親父に食わせたら、兵役の時に何喋るか分からない。
独り占めできるうちは絶対喋るなよ!喋ったらもう食えなくなるからな。」
意味が分からなかったが、ナズの言ってることはいつも正しい。
それに、美味しいものを食べ続けることが出来るのであればそれに越したことはない。
その季節も覚えているだけで3回ぐらいかな?
キノコは季節もので30回も寝るころには取れる季節が終わっている。
もう一度暑い季節を超えるころにならないと、その時期は来ない。
ちょうど親父が兵役なのでその間は家族三人で仲良くキノコを食べることが出来た。
いつもはお粥、毎日子供の日課である水汲み、山菜取りで採れた葉っぱ。
(これも僕が採ってきた葉っぱの半分以上は食べられないそうだ。)
それに近くの川で捕れた魚がいつもの食事だ。
米や肉は村の誰もが祭りごとの時にしか口にはしない。・・事になっている。
偉い人しか食べてはいけないのだ。
米は田んぼで作った全ての米が偉い人に持っていかれる。
肉は、こっそり村のみんなで少しづつ分け合って食べる。
そんな肉に乏しい村でも、イノシシが出たときは村中に悲鳴が響く。
熊が出れば誰かが犠牲になる。
村の男たちが兵役に出ている間に熊が出ると、どこかの一家が皆殺しに合うこともある。
捕まえて食料に変えるのは稀なことだ。
だが、ナズはそんな恐ろしいイノシシでさえ罠に掛けて仕留めることができる。
竹を4、5本大きくしならせて、縄で輪っか作って・・・???
分からないが10回寝た後に1回ぐらいは森の中で竹の先にイノシシやタヌキがぶら下がってる。
ブラブラぶら下がって動けなくなったのを見て、竹を切り落とす。
ナズについていくのは、2人で運搬する方が効率がいいからだ。
タヌキは1人で持てるが、イノシシはナズ1人で運ぶのも大変なようで。いつもついていく。
1人よりも、2人の方が危険も察知しやすい。
ナズについていくのは少し誇らしい。村中が兄弟の持ち帰る肉を楽しみにしている。
いつもの通り道には竹槍をあちこち置いていて、
気配を察知すると直ぐに山菜採りの手を止めて竹槍を構える準備が出来ている。
僕も槍を持つが、構えるだけで精一杯だ。
目をつぶっていると終わってることが多い。
ナズでも動く相手を仕留めるよりも追っ払う事が殆どだ。
流石に動く獣は危険すぎる。ナズがやられると、僕も死ぬ。
それを理解しているナズは構えて、目を離さずにじっと構える。
目で相手を威嚇する。
そのうちに獣は去っていく。
攻撃してきても竹槍が一度でも掠ると相手も怯んで後ずさる。
僅かな時間だが、永遠とも思える緊張が過ぎるとお互いに危険を回避する。
さらには、兄弟だけが知る避難の為の穴倉も用意されている。
大きな熊や複数の獣がいる場合は察知も早い。
全力で避難できるようになっている。
少しづつだが、森の中での兄弟のテリトリーは広がりつつあった。
森の奥に入って行けるのは村ではナズと、ナズと一緒の僕ぐらい。
熊や狼、いつ襲ってくるか分からない。道も獣道でおっかない。
殆どの村の大人は森の浅い所で山菜を賄う。
それに、一家の大黒柱をなくすリスクは大きい。
ナズに肉の調達を教え込んだドウオクはすでにこの世にいない。
村に熊が出た際に、熊を森の中まで引きつけ、そのまま帰っては来なかった。
そんな恐ろしいところに入って行けるナズは村人の誇りだ。
貴重な肉を運んでくれるのだから・・・
家族で肉を全部食べればいいじゃないかと言った事がある。
だけど一家で肉を独り占めすると、偉い人に告げ口されて、
みんなが悲しい思いをするからダメだそうだ。
季節は寒くなってきた。寒いと言うより痛い。
藁の寝床にイノシシの毛皮では、熟睡していても隙間風で起こされる嫌な時期だ。
それでも村の中で大きなイノシシの毛皮に包まれて眠ることの出来る家族は
村長除いてはここだけだと思う。
毛皮は村の貴重な売り物として殆ど全部持っていかれる。
「今日はちょっと遠出するからな。母ちゃんにも言ってきた。」
ナズはこんなにも寒い中、肉の補充に出かける気満々だ。親父はどうした?
いつもながら兵役と言っては村のあちこちフラフラしてばかり・・。で、僕の出番??
ちょっと嫌だ。絶対寒いし、何より雪が積もる山の中を進むのはキツイ。
うつむき加減に兄を見つめていると、ナズは笑ってこう切り出す。
「今は危ない熊も寝る季節だ。ウサギやタヌキも取りやすいぞ。
新鮮な肉は食いたくないのか?干し肉も飽きたろう。
山の中で捌けば新鮮な肉を食べ放題だぞ。」
騙された・・・足の感覚が無くなっても雪が積もった山の中を、にやけたナズと少しづつ進んでいく。
何気に羽織っている継ぎはぎだらけの犬の毛皮が重い。
去年死んだチロの毛皮が半分入っている。
表面は濡れているので水を纏っているのと同じだ。
が、重いがこれがないと僅かのの合間に凍え死ぬ。
「・・・もうちょっと進んだら穴倉だ。そこに着いたら火を焚いてやるからな。」
僕の頭の中が分かるのか?いつも僕に優しい声が届く。
いいように使われてはいるけどね。。
もう手足を動かしている感覚も無くなった頃、穴倉はあった。
穴倉の中は入るたびに湿っぽくてかび臭い。
入口が狭い割に、中は広い。
中に入るときは足から落ちていく感じだ。
元々ここは天井が丸みを帯びて掘られていて
誰かが掘ったんだなと感じさせる。
自然にこんなに綺麗な穴は空かない。
壁は岩より硬い。初めて入った時は天敵の居ない空間として
大量のタヌキが住み着いていた。
何匹かはナズと捕まえたが、人間の匂いの残る今はネズミがチョロチョロする位。
最近までは臭いが抜けなくて
出来れば遠慮したい穴倉の一つだった。
ナズと共にこの穴倉の中で今日は寝るのかな?
もう帰るには日が傾き過ぎている。
ナズが手際よく火を起こす。
穴倉の中での焚火は凍てついた体の表面を溶かし、充分に僕の緊張感を溶かしていく。
さらには、穴倉に常備されている木の実や、ナズが持ってきた干し肉を
焚火で炒った後、おなかに入れると、一気に眠気に襲われる。
「明日は日が昇る前に起こすからな。」
何か聞こえた覚えがするけど、睡魔の強さには逆らえず、
頭を地面に叩きつけるように寝たつもりが石の角にでもぶつけたのか・・
・・・目を閉じていても無数の星が瞬いた。
「あいたー!!!何か尖った物あるよ。ここ・・・いった~ぁ・・・!!」
先ずは自分の頭が壊れてないか確認する。うん。血も出てない。
次に自身の手で憎らしい尖った物を触る。
土の中にほとんどの部分が埋まってる。
近くで笑うナズの声・・・ムムム。
悔しくて悔しくて、恨みがましく掘り返す。
指が痛いが、恨みのほうが大きい。固い。こいつは固い。
今度は丁寧に周りの土を掘り返す。
何やら四角い。それに、何故かこんなに軽いのに固い。
叩くと軽い音がする。
箱か?木の箱はお祭りの時に見たことはあるけど、
こんな石のように固くて軽い箱は見たことがない。
ナズもじっと僕の触っている物を見つめて動かない。
怯えてるようにも見える。
あんなに強いナズでも、見たこともない物は怖いのか?
付いている泥を払うと、うっすらと切れ目が見える。
切れ目を手でなぞっていく・・・
・・・あ。
中から固い塊、葉っぱ?それに砂?泥?のような物がこぼれる。
どうやら本当に箱だったみたいだ。
それでもって、中に何か入っていたようで。
葉っぱは軽くて薄いが、ものすごく丈夫だ。
だが曲がる。直ぐに元の平べったい姿に戻る。
固い塊は焚火の光を反射しては僕の瞳と心をキラキラさせる。
それにこの固い塊は少しずっしりしている。
同じ大きさの石より随分と重い。
聞いたことしかないが、これが鉄や銅といった物なのか?
擦るともっともっとキラキラする。
それに伴って僕の胸のドクドクが耳の傍まで届くほどだ。
この塊にも切れ目が見える。引っ張ると開いた。
開いたが1ヵ所引っ付いたままブラブラさせている。
「ヤン!分からないものをいじるな!!何があるか分からないだろうが!!!」
物凄い怖いナズの顔が近づく。
近づいたと思ったら真っ青な顔で離れていく。
僕は笑った。。。。
何故ならこれがジッポだと知ってるから・・・・で、こっちは緑のクリアファイル。
あれ?
あれ?
タバコも吸わない俺が・・・あれれ?タバコ?ジッポ?クリア・・?
頭の中に濁流のように光が流れてくる・・・娘?仕事?スマホは?あれ?
気付くと真っ青な顔をした兄貴が俺を覗き込んでいる。
見慣れたナズの顔だ。
が、見たことも無いナズの顔でもあった。
・・・今、一瞬。・・・ん?えええええええええぇ。
大事な忘れ物を思い出したかのような俺。
だが、娘2人の顔、ちょっと前の世界の記憶が欠片であるが戻ってきたようで。
あれからどうなってここにいる?俺?娘たちはどうなった?
目の前の心配する兄貴の顔でさえ全く入らない。
声は聞こえているのだけど何叫んでいるのか分からない。
どちらかというと寒いはずなのに全身玉のような汗が噴き出している。
どうしてかは分からないが今、俺は「ヤン」としてここに生きている。
現実を受け入れるのにどれだけ時間がたったのか分からない。
ようやく瞳に生気が戻ってきた頃
「帰ろう。体は動くか?」
いつもの兄貴の優しい声。
「うん。」
頭の中はぼんやりしたままだが、どうやら今は昼間らしい。
帰って頭を整理させるのが一番だな。
そう思いながら、いつもより歩調を緩めたナズの背中を追って帰途についた。
俺はこの時代を今、生きている。
読んでいただいて、ありがとうございます。
初めて書くので、1年後に読み返すならば悶絶間違いなしでしょう。。。
続きはボチボチ書きます。羞恥心越えるところから始めます。