第98話 土下座
「「「申し訳ありませんでしたー!!」」」
冒険者ギルドナブト支部のギルドマスター室にて、四人の地球人の男女が土下座して謝っている。
謝っているのは、勿論、大輔たちだ。
俺はその付き添いで、今この部屋にいる。
本当なら、ゴールデンウィークまでこっちに来ることはなかったのだが、春休みの今のうちに大輔たちを訓練してもらおうと、誘ったのだ。
すると、大輔たちもすでに戦える高木さんと一条さんのことを聞いていたのだろう、二つ返事で了承してくれた。
で、こっちに来る前に駅前の冒険者ギルドの受付で、ブラックリストに入っていることが発覚。
何とか解除を願い出るも、ギルドマスターの許可が必要ということで、こっちに来てこうして土下座しているというわけだ。
「あんたらねぇ、いくら地球からの冒険者だからってね……」
今も俺の目の前では、ギルドマスターによる説教が続いている。
大輔たちは、土下座後の正座で叱られていた。
まあ、依頼を受けておきながら、依頼解除も依頼失敗の報告もなく、地球に帰って放置してしまったのだ、ギルド側とすれば多大な迷惑行為である。
怒られて当然なのだ。
いや、怒られるだけで済めばいいが、これで罰金となればすぐにでも奴隷落ちになるかもしれない……。
まあ、ギルドマスターの説教を聞いている限り、罰金というより天引きが近いか。
当分の間、依頼で受け取る報酬の半分を天引きすると言われている。
……まあ、これで済んでよかったのだろう。
本人たちは、落ち込んでいるが、本当なら違約金で即借金奴隷落ちもありえたのだ。
「……いいね?!今後、二度と迷惑行為は禁止だよ!!」
「「「は、はい!」」」
「……返事だけは、いいんだよね。返事だけは……」
ギルドマスターがブツブツ言っているけど、その後ろで、立ち上がろうと苦労している大輔たちがいる。
さて、大輔たちを連れて、今度はスキルが使えるように訓練だな……。
▽ ▽
ギルドマスター室から何とか這い出てきた大輔たちは、足の痺れがとれるまで蹲っている。その側に俺がいるから、説明役になるのか。
今回の異世界に来るにあたり、高木さんと一条さんは誘っていない。
昨日の今日では、一緒に冒険者とはいかないだろう。
パーティーも解散していることだし……。
そこで、大輔たちのスキルを使えるようにするため、訓練を行うことにして、大輔たちを誘ったのだ。
スキルが使えていれば、今日の結果はなかったであろう。
「大丈夫か?大輔」
「……まだ、無理みたいだ……」
もう少し、ここで待つか。
▽ ▽
大輔たちの足の痺れが治り、ギルド受付で訓練を申し込むまで時間がかかったが、今日中に訓練は大丈夫なようだ。
後、大輔たちのブラックリストはまだ解除されていないが、一応保留扱いにしてくれることになった。
まあ、ブラックリストに入ったままだと、訓練受けられないからな。
保留扱いにしてくれたのは、ギルドマスターの恩情だろう。
地球の冒険者にだけ優しい感じがするけど、ギルドマスター自身が優しいからこういう扱いにしてくれたのだと思いたい。
「それじゃあ大輔、みんなも、地下の訓練場にいくぞ?」
「ああ、分かった……」
「「「……」」」
意気消沈、ってところか。
だけど、それぐらいの迷惑を冒険者ギルドにかけてしまったってことなんだから、ゲームとは違う現実を分かってほしい……。
▽ ▽
冒険者ギルド地下訓練場の一角で、一心不乱に剣を振るい、教官に教えを乞う大輔がいる。何かを忘れるように、剣を振るっている。
また、その横では、佐々木竜也が長い棒を振り回していた。
あれは、棒術というスキルだろう。
さらに、弓の練習をしている神田さんと内村さん。
どちらも弓道をしているだけあって、弓の扱い離れたものだ。ただ、弓術と弓道は違うからな。
その辺りに戸惑っているみたいだ。
後、大輔たち四人とも魔法スキルは治癒魔法以外取っていなかった。
そして、『魔力制御』『治癒魔法』『魔力付与』この三つのスキルを取っていた。
戦闘で、魔力を付与して武器で敵を倒す。
おそらく魔法剣士や魔法弓士を目指したのではないか……。
確か、高木さんも一条さんも、魔法のスキルは武器攻撃の補助みたいな取り方していたな。
……おそらく、大輔たちがゲーム的に考えてこういうスキル取りになったのだろう。
せっかく魔法が使える異世界に来たのに、魔法を楽しまないとは……。
▽ ▽
さて、もうすぐ訓練も終わる時間だ。
時刻は、午後五時二十七分。
今日は、このまま地球に帰って、次に備えるべきだな。
次は、ゴールデンウィークの十連休で、レベル上げと依頼を頑張ってもらわないとな。
大輔たちが、心から冒険者を楽しめるのは、いつになるんだろうな……。
今日は、ここまで。
次回は、春休みに受ける依頼とは……。
第98話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




