第94話 空に浮かぶもの
朝食の後、全員で家を掃除し忘れ物がないかチェックを済ませて家を出る。
借りていた家を外から眺めていると、金貨2枚で借りたにもかかわらず全然使えなかったなと、少し後悔する。
もし宿でこの八日間を過ごせば、一泊平均銀貨2枚だから銀貨16枚。
全員合わせても、銀貨160枚。金貨1枚と銀貨60枚で済んでいたんだよな。
それも、朝夕食に風呂付で……。
……でもまあ、今周りにいる仲間たちを見れば、これで良かったんだと……ん?
みんな何故か、空を見上げているけど……。
「どうしたんだ?何か浮かんで………って!?」
みんなの見ている空を、俺も見上げるとそこには、この世界には在ってはならないものが浮かんでいた……。
ファンタジーな世界に、突如として現れたもの。
それは…。
「悠太、アレ、何に見える?」
「……俺、先月、アレに似たものを映画館で観たぞ?」
「奇遇だね、僕も、先月、アレに似たものが出てくる映画を見たよ」
「な、何で、ファンタジーの世界に、SFの、宇宙戦艦が出てくるかな~……」
「しかも、かなりの大きさみたいだね。
見上げてはっきり見えるってことは、全長100メートルはあるね……」
「……どうするんだろう、これ……」
俺たちが借りていた家の周りも、騒がしく、ほとんどの人が空を見上げて驚いている。中には、飛空艇か?といっている人がいた。
なるほど、この世界には飛空艇があるのか。
まだ、見たことないけど、どこかに存在しているんだろうな……。
て、それよりも、この騒ぎをどうするのか……。
▽ ▽
『みなさん、落ち着いてください!
今見えているあれは、隣の大陸から来た飛空艇であることが分かりました!
こちらを侵略しに来たわけではありません!
ですから、ご安心ください!!』
俺たちがボ~ッと空のアレを眺めていると、冒険者ギルドの職員の女性が、大声で叫びながら町の人達に知らせている。
「……隣の大陸から?」
「この世界には、十二の大陸があるから、そのどこかから来たってことだな」
「へぇ~、十二も大陸があるんだ」
確か、十柱の若い神様が異世界の知識などを取り入れて文明の進化を模索したとかだったっけ?
……あれ?十二の大陸があるのに、十柱の神様……。
それぞれの異世界との繋がりは、一つの大陸に一か所だけ。
そして、一柱の神様は一つの大陸のみを担当する。
……確か、そんな内容だったよな。
……あと二つ大陸が残っているな。
その大陸は、どうなっているんだろうか?
俺がそんなことを考えていると、日向さんが俺の袖を引っ張って声をかけてくれた。
「西園寺君、玄関に鍵をかけて?」
「ん?ああ、そうだった、鍵をかけようと思ったら、みんなが空を見上げていたから……あれ?空に浮いていた宇宙戦艦は?」
日向さんに声をかけられて、再び空を見上げると、そこにはもう例の宇宙戦艦はいなくなっていた。
「あれなら、蜃気楼のように揺らいで、消えていったわよ」
「まさに、まぼろしぃ~だったわね~」
「リコちゃん、古いよ?」
「……ごめん」
日向さんと新城さんのかけあいはおいておくとして、いなくなった宇宙戦艦の話で、今も町は大騒ぎだ。
俺は、玄関に鍵をかけ、門を閉めて冒険者ギルドへ歩き出した。
「それにしても、最後の最後ですごいものが現れたな……」
「ギルドは、飛空艇で誤魔化そうとしているけど……」
「あれはどう見ても、宇宙戦艦だよな……」
冒険者ギルドへの道を歩きながら、俺と悠太と真之介さんは、空に現れた例のアレのことを話し合っていた。
しかし、日向さんたちは別のことを話し合っていたのだが、俺はそのことに気付くことができなかった。
あんなことになるとはと、後で後悔することに……なるのかな?
▽ ▽
冒険者ギルドの到着し、中に入ると、外からは分からなかったがたくさんの人でごった返していた。
どうやら、例の空に浮かんでいたものが本当に飛空艇なのかとか、本当に攻めて来たのではないのかとか、どうやって浮いていたのだとか、問い合わせで受付に群がっているようだ。
俺は、ギルドの入り口から少し離れたところで静観しながら、借家の鍵をどう返そうか悩んでいる。
そこへ、受付の奥から一人の女性が現れるといきなり怒鳴った。
「やっかましいっ!!」
冒険者ギルド中に響き渡った声のおかげか、今までの騒ぎが嘘のように静まり返った。
続けて、女性はこの場にいる全員に聞こえるように大声を出す。
「さっきの飛空艇は心配ない!
女神様のお墨付きだ、侵略しに来たわけではないからね!
安心したら、さっさとギルドから出て行けっ!
ここは、冒険者ギルドだ、飛空艇の問い合わせなら商業ギルドに行きな!」
そう言ってまた奥に引っ込む。
少しの間、みんな唖然としていたが、一人また一人と冒険者ギルドから出ていった。
女神様のお墨付きを出されては、何も言えなくなったのだろう。
それに、飛空艇を手に入れる問い合わせも、確かに冒険者ギルドではなく商業ギルドに問い合わせる方が早いだろう。
みんな混乱していたのが、あの女性の一喝で冷静になれたってことか。
人がいなくなり、ようやく受付に借家の鍵を持っていくことができた。
エマさんのいる受付のカウンターに鍵とギルドカードを置き、手続きを取ってもらう。
「エマさん、さっきの女性って誰ですか?
すごい迫力でしたけど……」
そう質問すると、隣で書類仕事をしていたキャロルさんが吹いた。
「ブフッ!」
「フフフ、コータ君、そのこと、あの女性に言ってはダメよ?」
「はあ、分かりましたけど……」
「あの女性はね、この冒険者ギルドのギルドマスターよ?
名前は、シャーロット・ルイス。現在三十三歳」
「へぇ~、ギルドマスターなのに、若い人なんですね」
「だな、しかも美人だし」
俺の側にいた真之介さんと、悠太が一緒に聞いていて驚いている。
確かに、ギルドマスターといえば年寄りとか、昔S級の冒険者の男とかが定番だからな。美人の女性はめずらしいな。
今日は、ここまで。
次回は、地球での騒動……。
第94話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




