第90話 オークション開催! 後編
『さあ皆様、いよいよ冒険者ギルド主催のオークションも、最後の出品奴隷となりました!リストにある名前を見て、待っていた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
エントリーナンバー百十番、パトリシアです!』
ステージ上の司会者がそう叫ぶと、奥から一人の女性がゆっくりと歩きステージの中央で立ち止まる。
その容姿もさることながら、スタイルも目を引くものがあるが、何よりも俺には高貴なオーラみたいなものを感じさせた。
たとえ奴隷に落ちたとしても、気高い心でいよう、みたいな……。
こんな女性がなぜ奴隷なんかに?
『ここにお集まりの皆様は、大半が冒険者の方ですね?
では、ご存知の方のいるのではないでしょうか?
あの南の国で、一年前に起きた『革命』を!
革命政府の発表では、前国王の圧政により国民の命がひっ迫している。
重税、冤罪、貴族主上主義、そして、初夜権。
これらの王族や貴族の横暴を許しておくことは、ひいては国の崩壊につながるとして私たちは立ち上がった、ということでした。
革命のおかげで、今では税も安くなり、貴族主上主義を掲げる貴族もいなくなり、何より権力者の権利を明確化したことで、初夜権なるものも無くなったとか。
……ですが、この発表には真実が隠されています。
冒険者ギルドの調査によれば、国王による圧政は無かったようなのです。
さらに、革命を主導した貴族こそ、国王を亡き者にし国を乗っ取る計画だったとか。
……もっとも、革命の混乱で、その主導した貴族も亡くなりましたが。
さて、今回の奴隷パトリシアは、そんな嵌められた王族の一人であり、元第二王女です。まさに蝶よ花よと育てられた、生粋のお嬢様。
一人では何もできませんが、その辺りはご理解下さって参加をお願いします!
では、金貨100枚よりスタートとさせていただきます!』
『金貨200枚!』『金貨300枚!』
……何というか、最後の最後ですごい人が出てきたな。
元王族の第二王女?
購入するのも大変だが、購入した後も大変って……。
「ね、西園寺君。南の国の革命って、聞いたことある?」
「南で起きた、クーデターだろ?しかも一年前に起きたものだからね……。
さすがに俺も知らなかったよ……」
「だよな、康太が冒険者になったの去年の夏休みだろ?
今から一年前ってことは、去年の春ごろってことだからな……」
「そっか、さすがに知らないよね~」
俺と悠太、そして日向さんが話をしていると、座っている列の奥からさやかさんの注意が飛んでくる。
「あなた達、ステージの上の彼女を見なさい。
手を握りしめて、震えているのよ?
あの女性の今の心を、理解してあげなさい。かわいそうじゃない。
騙されて奴隷にされ、国まで追われて……」
……さやかさんは、悲しそうな顔でステージ上のパトリシアという女性を見つめている。
『金貨740枚!』『金貨750枚!』
競りは、会場の前方に座っている貴族みたいな二人が、戦っているようだ。
お互い、相手を睨みつけて札を上げ、金額を上げていく。
「ね、西園寺君。
金貨750枚って、日本円にしたらいくらぐらいになるの?」
さっきまで、ステージ上を見つめていたさやかさんが、ふと疑問に思ったのか俺に質問してくる。
……この世界の貨幣価値について、説明してなかったかな?
「えっと、金貨750枚は、日本円で7500万円ですよ。
この世界の一番価値が低い銅貨一枚が、約10円ですから……」
「7500万円、へぇ~~」
こういうのって、金額が理解できると今までの感情がどこかにいってしまうな……。
なんだか、一気にかわいそうって気持ちがどこかにいってしまった。
『金貨1000枚だ!!』
出たよ、大台の1億円。
……でも、今回みんなと分けたオークダンジョンの報酬金額を合わせると、参加できるんだけど、俺たちがステージ上の彼女を購入する意味はないんだよな……。
『……金貨1100枚』
『く、くく、くぅ……』
大声で金貨1,000枚を宣言した彼に対して、冷静にその上の金貨1,100枚を提示する。
そして、金貨1,000枚の彼は、もうお金がないのだろう。
ものすごく悔しがっている……。
「悔しがっているな、右の太った貴族の男」
「左の貴族の男は、まだ余裕がありそうだよな……」
「どうするんだ?考えている時間はないようだけど……お」
『金貨1200枚!!』
「出したよ……。でも隣のお付きの男たちが、太った貴族に何か言っているな」
「そして、冷静な左の貴族の男が……」
『金貨1300枚』
「ですよね~。左の貴族の男、まだまだ余裕があるな……」
「右の太った男はもう駄目だな、札を上げようとしてお付きの人達に止められている。しかも力づくで……」
『よろしいですか?』
司会者の男に右の貴族の男は、確認をされる。
それを拒否しようとする太った男に対して、お付きの男たちが頷いて参加拒否を示す。
『金貨1300枚で、こちらの五番の方、落札です!』
―――パチパチパチパチパチパチ!!
少ない人数の会場なのに、盛大な拍手が落札者に送られる。
よく見れば、最後の出品ということで、ギルド職員の方たちも拍手していた。
落札者の男性は、立ち上がりこちらを向いて一礼する。
あの太った男は、ものすごく悔しそうな顔だ。
一礼する男を、これでもかと睨みつけている……。
「あら?ステージ上の彼女に、安堵の表情が……」
「え?」
さやかさんの言葉に、俺たち全員がステージ上の女性を見た。
……確かに、さっきまでと打って変わって笑顔だ。
それも、落札者の男と見つめ合っているような……。
だが、すぐに司会者の男が前に出てきてしゃべる。
『これにて、冒険者ギルド主催のオークションは終了でございます!
皆様、長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました!
次は、どこかのオークション会場でお会いいたしましょう!!』
……終わった、何か最後のは出来レースだったような気がしないでもない。
でも、あれであの女性が幸せになれるのなら、よかったってことかな?
「ふぅ~、終わった終わった」
「何言ってるの遠藤君。まだ終わってないわよ、私たちは……」
「え?」
そう、俺たちには元同級生のことが残っていた。
……奴隷解放をしないと……。
今日は、ここまで。
次回は、奴隷解放かな?
第90話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




