第81話 孤児院?
孤児院のため?
キャロルさんの言っていることが、理解できなかった俺はもう一度質問する。
「孤児院、ですか?」
「……ちゃんと説明するわね?
今、この国の王都では孤児が増えて問題になっているの。
孤児たちが増えるには、いくつか理由があるわ。
両親が亡くなったとか、さらわれて連れてこられたとか、捨てられたとかね。
でも、今問題になっているのが売られるってことなのよ」
「売られる?子供を?」
俺たちは理解できなかった。
子供を売る親がどこにいるのかと考えてしまう。
しかし、ここは地球ではない、異世界だ。
俺たちの世界の常識は通用しない。
それでも、親が子供を売るということが信じられなかった。
「……ちょっと、言葉が悪かったわね。
正確には、働きに王都へ出す。これが正しい言い方ね」
「つまり、奉公に出すってことかな」
時代劇なんかをよく見ていたから、俺にはこの言い方の方がしっくりくる。
子供の家から働きに出て、稼ぐってことか。
……それほど、貧しい所があるのか?
「……子供を家から出さないといけないほど、貧しい家があるんですか?」
「ええ、あるわ。
とくに、王都の周りにある町に頼っている村にはね。
村全体が貧しいから、少しでも食料を確保するため、子供を王都に働きに出すの。
でもその送り出す時に、働けない小さい子供もいっしょに連れて行くから、王都の孤児院はすでに満杯なの。
他の町の孤児院を頼るも、すでにどこも満員。
そこで、立ち上がったのがこの家の持ち主である、さる豪商。
個人で孤児院を用意して、子供たちを預かり始めたの」
「へぇ、個人で孤児院を用意してしまうなんて、子供好きなのかな?」
「まるで、あしながおじさんの話ねぇ~」
しかし、この国は何の対策もしてないのかな?
孤児院のことや、貧しい村の対策とか……。
「ところがねぇ、その豪商の人が考える孤児院が……」
キャロルさんは、少し呆れた顔でシスター二人を見る。
シスターたちも、苦笑いだ。
「……何か問題があるんですか?」
そんな三人の態度に、悠太が質問する。
そして、その質問にシスターの二人が答えた。
「その豪商の人が用意した孤児院が、すごいんです」
「その豪商はね、村を一つ丸々孤児院にしちゃったのよ。
名前も孤児院村とかなんとか呼んじゃってね?
で、私たちに子供の面倒と、その村の経営を任せてきたのよ」
……孤児院村?!
さる豪商さん、ぶっ飛びすぎだろ!
しかも、村を一つ丸々任せたってことは……。
「村を丸々任せたってことは、子供たちに自給自足をしろというわけですか?」
「その通りだと思います。
その豪商の人が、どんな考えで村を用意したかは分かりませんが、自給自足をさせろというのはあっていると思います。
もしくは、教えてやれということかも……」
真之介さんの質問に、シスターのソフィアさんは悲しそうに答えた。
集めた孤児の少年少女に、村で自給自足。
年齢によっては、何もできない子供が出てくるようになる。
シスターたちの仕事は、村の経営と子供たちへの指導か……。
「でも、それとシスターが強くなるとはどういう?」
「その村には、十人の孤児院関係者の大人が付きます。
ですが、全員私たちの様なシスターなのです」
「教会からの命令で、子供たちをその村で面倒見るんだけど、村を魔物から守れる人がいないのよ。
今はまだ冒険者なんかを雇って、護衛してもらっているけど毎月子供は増えていく。さらに子供が増えれば食費やいろいろなものにお金が必要になるわ。
でも、豪商からは毎月決まった額しかもらえないのよ」
「さらに、最近では魔物の数が増えているらしくて冒険者を雇う費用も足りなくなっているのよ。
そんな話を、シスターたちから相談されてね?
それならば、シスターたちが戦えるようになればいいんじゃない?と提案したの」
提案って、シスターですよ?キャロルさん。
戦いとは、一番無縁の人達の様な気がするんだが……。
「……それで、鍛えてほしいというのは分かりましたが、何故私たちなんですか?」
もっともな質問を、新城さんがする。
それに答えてくれたのは、キャロルさんだ。
「勿論、君たち以外のパーティーにもお願いしているわ。
孤児院村のシスター全員が、戦えるようになるためにね。
……実はね、地球の冒険者はレベルが上がりやすいことが分かったの。
それも、同じパーティーを組んだ人にもその恩恵があるほどにね。
これはおそらく、地球の人の力と安全を上げるため。
神様が用意していた加護の一つだと思うのよ。
そして、今回はそれを利用して、シスターの戦力を上げる。
……どう?孤児院村の子供たちを助けると思って……ね?」
孤児院村の子供たちの生活を確保するため、シスターの生存率を上げるため。
そして、子供を守るため。
……この家を借りる条件なんだから、断れないの分かっててお願いするのか……。
ズルいな~キャロルさん。
俺の周りのみんなは、しょうがないって顔で頷いている。
これじゃあ、俺一人断れないじゃん。
「分かりました、お引き受けします。
第一、この家を借りる条件なんですから、断れるわけないでしょうに……」
「みんな、ありがとう」
「「よろしくお願いします」」
こうして、俺たちのパーティーにシスターの二人が入り、全員で十一人。
パーティー人数ギリギリだ。
その後、シスターたちの荷物を運び入れ、部屋割りをして昼食とした。
お昼からは、冒険者ギルドで訓練をして、シスターたちの戦い方を教えてもらわないとな。何ができて、何ができないのか……。
今日は、ここまで。
次回は、討伐依頼を中心にレベル上げだ。
第81話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




