第75話 噂の収束と準備
「……なんで、こんな噂が広まっているんだ?」
同じクラスの木原が、大学に裏口入学したという噂が流れていた。
その噂を聞いたのは、同じクラスの男子が話していたのを聞いたからだ。
だが、この話がどうして広まったのかが分からない。
始まりは、ネットの学校の掲示板からだ。
学年ごとに掲示板が分かれていて、三年の掲示板では卒業の話で盛り上がっていた。
その中の話に、木原が推薦をけって自力で大学に合格したとかいう話が出ていた。
その時は、木原が陸上をやめるとかの話は無かったから、俺は何気無しに質問を書いたんだ。
『それって裏口入学とかか?』
だけど、すぐに答えが返ってきた。
木原の成績を考えれば、スポーツ推薦で不自由な大学生活より、自由の効く自力入学にしたんじゃないかって……。
実際、木原は現役合格しているわけだしな……。
それで、裏口入学とかはそこで解消されたはずなのに、いつの間にか木原が裏口入学したことになっていた。
また、スポーツ推薦を薦められる奴が、頭良いわけないとか掲示板で書かれていて、木原の成績が悪いような書き込みまであった。
これは、俺が謝罪するべきなのか?
……どうすれば、この噂は収束するんだ?
▽ ▽
二月も今日で終わりという日に、悠太が笑顔で話しかけてきた。
「康太、木原先輩の噂が収束しそうだ」
「噂って、例の裏口入学?」
「それそれ、どうやら掲示板から広まった噂だったんだよ」
悠太の話では、掲示板に書き込まれた質問が、噂のもとだったそうだ。
しかもその質問も、ちゃんと答えがありその場で終わっていた。
ところが、掲示板を流し読みしていたやつがそれを見つけて、自分の解釈を加えて再び掲示板へ書き込んだせいで、一気に広まったそうだ。
「その解釈が、スポーツ推薦を受ける奴が頭良いわけない、てよ」
「それって、偏見じゃねぇか?」
「ああ、偏見だよな。でもその偏見ヤローは、木原先輩とは別クラスだったらしくて、木原先輩の普段の成績を知らなかったんだよ……」
なるほど、それでスポーツ推薦という言葉で想像してしまったわけか。
同じクラス、もしくは木原先輩の成績を知っていれば、そんな書き込みは無かったんだろうか?
「でもまあ、これで裏口入学の噂も下火になるんだろ?」
「まだ一部でささやかれているらしいけど、噂は噂だよな」
「木原先輩は、気にしているようなのか?」
「全然気にしてなかったな……。
本人が気にしてないのに、俺たちが騒いでもしょうがないか……」
木原先輩ももうすぐ卒業だし、噂に振り回されてもしょうがないってことなんだろう。
さすが、高レベル冒険者、器が大きいねぇ~。
「はい、この話題はおしまい。
来週の今頃は卒業式の準備に駆り出されるんだろ?」
「卒業式の準備は二年生の仕事とか、担任が言っていたからな」
多分、先生が忙しくて準備している暇が無いってことなんだろうな……。
……俺たちは、来年卒業できるのかな……。
「あ、そうだ康太、今年のバレンタインデーはどうだった?」
「バレンタイン?もしかして、チョコもらったかどうか?」
「そうそう」
バレンタイン、すっかり忘れてた……。
忘れているぐらいだから、チョコなんてもらってないんだよね。
うちの高校は、学校に持つて来てはいけないことになっているしな。
「今年はもらってないな。家族からもなかったし……」
「そうか~」
「悠太は、貰ったのか?」
「俺は、家族からだけだったな。……恋人、欲しいな~」
「そうだな……」
お互い、落ち込んでしまった……。
▽ ▽
放課後、生徒が体育館に集められ卒業式の椅子並べが始まる。
集まった生徒は、大体二クラスぐらいの人数で、どうやら担任による選抜されたメンバーのようだ。
「ここに集められた生徒って、男子ばっかりだな」
「力仕事だからじゃないか?それとも、暇しているだろう男子とか?」
「暇している?」
「彼女もいなさそうとか、習い事や勉強をしているわけでもない男子生徒」
「……教師の偏見と思い込みで選抜したわけだ」
こういう時は、そんな感じでよく選ばれるんだよな。
悠太と愚痴を言っていると、教師の一人が俺たち生徒を集合させる。
「これから、卒業式の椅子並べをしていきます。
並べるイスはあれ、各自一つずつ持って、先生方の張っているロープにそって並べてください。いいですね~」
説明する教師の指さした先に、大量のパイプ椅子が畳まれた状態で並べられている。
これを一脚ずつ持って、足元に張ってあるロープにそって並べるのか……。
「では、作業はじめましょう~」
気の抜けた号令とともに、生徒は畳まれた椅子を持ってロープのところまで運び、椅子を広げて並べる。
これの繰り返し。
また、一人一脚では効率が悪いと二脚、三脚持たせて運ばせる理不尽さ。
まあ、身体能力が上がって若干力持ちになっているから俺と悠太は大丈夫だが、他の生徒の中には、かなり疲れているものも出てきた。
椅子を運ぶのはいいが、置き場所と並べる場所の往復が苦痛になっているみたいだ。
そんな人たちが周りにいる中で、俺と悠太は始めた頃と変わらない感じで並べている。
「悠太はともかく、康太も体力あったんだな」
「真也、失礼な奴だな。俺だって体力には自信があるのだよ」
「聞いたか?悠太。本ばかり読んでいる康太が体力自慢してるぞ?」
「まあ、康太の教室での行動しか見てないと、そうだよな」
「もしかして、普段は違うのか?」
「ああ、普段は……「そこ~、口を動かしてないで体動かせ~」」
「「「やばい……」」」
教師の注意で、俺たちは散開。
別れて椅子を運び、並べていく。
そして、約一時間後、ようやく卒業式の準備が整ったのだった。
再び一か所に集められ、労いの言葉とともに解散となった。
今日は、ここまで。
次回は、卒業式……といきたいがつまらないので飛ばします。
第75話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




