第73話 冒険者ギルドの方針
今回、主人公は出てきません。
〇〇駅前にあるビルの二階、冒険者ギルド〇〇駅支部はここにある。
普通の雑居ビルの二階に看板を出しているのだが、ここ最近は見学と冒険者登録に来る人で、行列ができることもある。
受付担当の私、ナンシーがこっちで受付業務をするようになって、最近特に忙しくなったわ。
その原因は、去年のあるテレビ番組で取り上げられたからだろう。
深夜帯の放送だったにもかかわらず、冒険者登録がそれまでの五倍に増えたの。
また、それと同時に増えたのが登録者たちの苦情ね。
特に多いのが、選んだスキルの変更要請。
地球の冒険者は、本当に軟弱よね……。
私たちの世界では、スキルの変更をお願いするなんて考えられない。
そんなことをするくらいなら、勉強して鍛えなさい!
そうすれば、新しいスキルや魔法を覚えていくというのに……。
「はぁ~」
「どうしたの?ナンシー。ため息なんて、珍しいわね?」
同じ受付業務を担当している、隣の席のバーバラが聞いてきた。
「ここのところ、地球の冒険者たちの苦情が多くてね……。
特にスキル関連と依頼関連で、向こうのギルドでギルマスがお冠らしいのよ」
「あらら~」
ここ最近、登録した冒険者が問題を起こしているのよね……。
コータ君の話では、ゲームと勘違いしている奴らでは?何て言っていたけど、ほんとうにそうかもしれないわ……。
選んだスキルをリセットしたいとか、登録を最初からやり直したいとか、ここのところ特に多いのよね。
登録冒険者が増えてから、一週間が経過しているから、選んだスキルが向こうで合わないと分かった時期だからだろう。
「この間の女子高生たちの悩みも、スキル関連だったの?」
「ええ、スキルを取り忘れたとか言っていたから、コータ君への相談を促しておいたわ」
「……なぜ、コータ君に?」
「それはあの娘たちが、コータ君と同じ高校に通っているから、かな。
私たちギルド職員は、冒険者同士の交流を促さないといけないでしょ?
特に、同じ高校なら交流を持ってほしいじゃない」
「そうね~、冒険者には助け合える知り合いが必要だものね……」
冒険者には、緊急依頼で冒険者全員で戦わないといけないときがくる。
それがいつかは分からないが、冒険者同士でいがみ合っていては、そんないざという時戦えない。
だからこそ、普段から助け合い仲間意識を持っていてほしい。
これは、うちのギルドマスターの言葉だ。
いざという時のために、交流は必要ということね。
そんな考えもあって、同じ高校のコータ君に任せたのよね。
後は、あの時の受付の状況からかな。
あの娘たちが相談を持ち掛けた時、ここの受付に行列ができていたのよね。
向こうのギルドで相談された時は、個室へ移動して話を聞くんだけど、ここは地球の日本の駅前にある雑居ビルの一室。
狭いのよ……。
おかげで、相談室を設けることができなかった。
だから、あの娘たちのギルドカードの情報欄にあった高校を見てコータ君に任せようと思っちゃったことは、内緒にしておこう。
さて、もうすぐ受付の交代時間。
狭い休憩室で、コーヒーを飲みながらの休憩はなぜか落ち着くわね……。
今度の休みには、向こうの友達とこっちの駅前をうろつくのもいいかも。
そういえば、こっちでの知り合いも増えて来たけど、友達が欲しいな……。
▽ ▽
放課後、友達の咲良を連れて駅前の冒険者ギルドへ来ている。
西園寺君に、教えてもらった『スキルチェンジ』を申請するためだ。
「佳奈ちゃん、響子ちゃん、申請終わったよ~」
「どうだった?すんなりオッケー出た?」
「うん、大丈夫みたい。
スキル部屋に移動して置いてって言われたから、行ってくるね?」
そう言って、さくらは更衣室へ行った。
ここのギルドのスキル部屋には、更衣室を通らないといけないためだ。
私と響子は見送るだけ……。
「大丈夫かな?ちゃんと、『精神耐性』スキル、取れるかな……」
心配性の響子は、そわそわしている。
多分、大丈夫だと思う。
受付のナンシーさんが紹介してくれた、西園寺君に聞いたのだから。
桜を待っている間、私は時間をつぶすため掲示板を見ていた。
『西島麗子捜索にご協力いただき、ありがとうございました。
無事生還させることができました。ご協力、本当にありがとうございました』
「この西島さんって人が、行方不明だったんだ……」
「それで、無事生還できた……。
向こうの世界はゲームじゃないって、分かっているつもりなんだけど……」
こういう掲示板を見つけると、改めてリアルなんだなと認識するんだよね。
私たちも、ここに探してくださいなんて、載る時がくるのかな?
そうなったら、誰が……あ、そうか。
「横のつながりか~」
「ん?どうかした?佳奈」
「響子、私たちって地球の冒険者の知り合いって何人いる?」
「……え~と、パーティーメンバーの五人と同じ高校の男子二人……」
「その人数だと、もし私たちの誰かが探してくださいってこの掲示板に貼られても、積極的に探してくれる人は六人ってことになるでしょ?」
「だから、横のつながり!」
響子も気づいたようね。
地球の冒険者になる人が増えたのはここ最近。だから、地球の冒険者同士のつながりって箕臼なんだよね。
こういう行方不明が起これば、どれだけの人が動いてくれるのか……。
だからこそ、今のうちに横のつながりを作ってもらおうとして、受付嬢が画策したのかもね……。
おかげで、同じ高校の男子二人と知り合いになれた。
特に、相談に乗ってもらった西園寺君は、かなりの情報を持っていそうだ……。
これからも頼らせてもらうと同時に、西園寺君の仲間とも知り合いになっておきたい。
「この写真に写っている真ん中の女性が、西島さんなんだろうね~。
嬉しそうに笑ってる……」
響子の見ている写真には、十人ぐらいの男女が笑顔で写っていた。
しかも、その後ろには仕事している人たちも写っているから、捜索隊の人数は相当なものだろう。
私は、掲示板の写真を見ながら、冒険者同士のつながりのことを考えていた……。
今日は、ここまで。
次回は、主人公の話……か?
第73話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




