第72話 相談と新制度
放課後の学校の教室で、俺たちは冒険者がらみの相談を受けていた。
周りには、何人かの生徒は残っていたが、大半が帰ったか部活へ行っているようだ。
いくつか質問されるのだが、目の前の彼女たち二人は、当たり障りのない質問ばかりだ。
おそらく、本題をいつ聞くか迷っているのだろう。
「あ~、そろそろ本題に行かないか?
高橋さんと橋本さんは、本当に相談したいことがあるんだろ?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせ頷く。
そして、俺に向き合い本題を話してくれた……。
「実は、私たちのパーティーの中の一人が『精神耐性』を取り忘れていたのよ。
おかげで、向こうの世界に行って大変なことになってしまったの……」
精神耐性スキルを取り忘れていたのか……。
今では、掲示板やスキル選びのあの部屋に貼り紙して注意喚起しているけど、ほんの半年前までは、何にもしてなかったからな。
おかげで、俺が冒険者になったばかりの頃にも、精神耐性スキルを取り忘れて大変な目に合っている人がいたな……。
「そういえば、俺たちの時は康太が注意してくれたんだっけ?
『精神耐性』スキルは絶対に取れよって」
「ああ、『精神耐性』スキルは、異世界での非常識さを緩和してくれるスキルだからな。はっきり言って、精神耐性スキルが無いと、獣人見ただけで吐く人とかいるからな……」
「うちらの友達も、向こうでギルドを出た途端、気持ち悪くなったって……」
「それは、向こうの空気が合わなかったんでしょうね。
いろんなニオイが漂っているからな……」
美味しそうな匂いから、魔物や動物の解体の血生臭い臭いまで……。
それはもう、いろんなニオイがあるそうだ。
「それで、その子がもう異世界へ行きたくないって言ってて……」
「なるほど、それで相談ってことですか?」
「はい、どうすればいいのか……。
冒険者登録を一からやり直すことができないか、相談したんですけど……」
出来なかった、というわけか。
まあ、理由が理由だからな。
同じクラスの男子が不細工だから、別のクラスにしてほしい、みたいな理由と一緒だからな……。それは受け入れられないだろう。
……まあでも、こんな時のための制度があるんだけどな。
「それなら、『スキルチェンジ』を受付に言えば、出来るはずだ」
「『スキルチェンジ』、ですか?」
そう、スキル選びを異世界に実際行ってから間違えていたことに気付く。
そんな人のための制度が、『スキルチェンジ』制度だ。
「この『スキルチェンジ』は、スキル部屋で選んだスキルの中から、最大二つを必要なスキルに変えることができるっていう制度なんだよ。
この制度を利用すれば、そのスキル選びを間違えた子も『精神耐性』スキルをとることができるはずだ」
「ホントですか?!ありがとうございます!」
「そんな制度があったなんて……」
相談してきた高橋さんも橋本さんも、安堵した表情だ。
これで、安心して異世界へ行くことができるってところだろう。
「なあ康太、そんな制度、いつできたんだ?」
「去年の暮だ。俺、ワークさんとメアド交換しているから冒険者ギルド関連の情報を教えてくれるんだよ」
「な!それ何かズルくないか?」
「何を言っている、情報収集は冒険者のたしなみの一つだ。
それに、冒険者ギルドの掲示板にもお知らせで貼りだしているはずだぞ?」
「マジかよ……」
「知りませんでした……」
「盲点だったわ……」
結構みんな、そういう情報収集って疎いんだよな。
『スキルチェンジ』の制度は、ギルドに寄せられた苦情の中から考えられた制度なんだよ。
選んでは見たものの、合ってないスキルだったとか、使う機会のない無駄スキルだったとか、この程度ならこっちのスキルの方が良かっただの、文句も多かったそうだ。
そこで、スキルを変えることができるようにしようと、ギルドマスターが相談したそうだ。神様に……。
そして、ようやく選んだスキルの中から二つだけを、別のスキルに交換できるようになったそうだ。
ただし、原則一度選んだスキルは変えられない。
これは、転送陣で地球から異世界へ転送する際に、スキルを体に定着させるためだ。そのため、一度覚えたスキルは忘れるのが難しいのだ。
そして、変えられるスキルは二つまで。
これは、スキルを全部変えることを防ぐため。
もし全スキルを変えるとなると、体に浸透したスキルを忘れさせる必要がある。
だが、それが不可能であることは、分かるだろう。
一度覚えてしまったことは、忘れることがなかなかできないものだ。
良いものでも、悪いものでもな……。
それを無理に忘れさせようとすれば、どんな痛みを伴うことになるかは、想像したくないな……。
「とりあえず、高橋さんたちがとる行動は、まず冒険者ギルドの受付に『スキルチェンジ』の申請をすること。
そうすれば、スキル部屋で交換するスキルを選ばせてくれるはずだ。
後は、ギルド職員の言うとおりにすればいいはずだよ」
席を立ちあがり、高橋さんは俺の手を取ると、お礼を言ってくれる。
「ありがとう、本当に、ありがとう!」
「ありがとうございました!」
橋本さんも、その場に立ち上がり頭を下げてお礼を言ってくれた。
本当に困っていたんだな……。
▽ ▽
高橋さんと橋本さんが帰ってから、悠太が話しかけてくる。
「ふと疑問に思ったんだが、変えられるスキルって二つまでだよな?」
「ああ、そうみたいだな」
「それって一度に、ってことなのか?」
「いや、ワークさんに俺もそれを質問したんだが、生涯で、ってことらしい。
だいたい、スキルって向こうでいくらでも覚えることができるんだよ」
「そうみたいだな……」
「新しいスキルは向こうで勉強して覚えればいいし、耐性も付け方があるらしい。さらに、ダンジョン攻略や依頼の報酬の中には、『スキル書』なるスキルを覚えられる本があるそうだ」
スキル書、その本を読むだけで、その本に書かれているスキルや耐性が身につくチートな書物。
ただし、普通に手に入れることはできない。
ダンジョンの宝物としてや、攻略報酬として出現したり、オークションで出品されることもあるとか。
今度向こうに行ったら、何かスキルを覚える勉強をするのもいいかな。
今日は、ここまで。
次回は………。
第72話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




