第7話 転移部屋のエルフ
懸命にスキルを選んでいた悠太が、俺に質問してきた。
「康太、ちょっと聞きたいんだけど『スキル』にレベルってあるのか?」
「あるよ、スキルレベル」
「でも、ここに表示されているスキルは、レベルが表示されてないけど?」
俺が、悠太のタブレットをのぞき込むと表示されているスキルには、レベルが無かった。
そこで、スキルを長押しすると詳細が表示された。
「おお、説明文が出た」
「スキルの詳細だよ。……ここ、説明文の最後にレベルが表示されているだろ?」
「……こんなところに、って、レベル1かよ」
「当然だろ?俺たちは初心者だし、スキルは使い慣れていないものだ。
こっちで何か習っていたわけでもないし、習っていたとしても、向こうの世界と同じように殺しをやってたわけでもない。
なら、スキルレベルは1ということになるだろう?」
「そんなものなのか……」
悠太は、どこか納得できないようだけど、日向さんと新城さんは頷いて納得しているみたいだ。
俺たち自身のレベルが1なのに、スキルのレベルが高かったら使えないぞ?
今の自身の能力以上の体力や魔力を消費してしまうんだから、向こうで何もできなくなるし、自身のレベルが上がらないと使いこなすこともできない。
体力や魔力を数字で表せれば、魔力が20しかないのに、高レベルの消費魔力200の魔法を使おうとしているのと同じ。
もちろん、スキルレベルが高くても、初心者のスキルは使えるけど、それは、ベテランが初心者のスキルを使うがごとくだ。
初心者のスキルであって初心者のスキルにあらず。
まあともかく、悠太もようやくスキルを決めたようだ。
「これで良し!……後はここを押して、終わりだな」
悠太も表示されている『完了』を押して、黒い箱の冒険者カードに入力する。
そして、黒い箱のふたが開き、これでスキル選びは完了だ。
「ほら康太、俺のスキルも確認してくれ」
そう言って俺に、冒険者カードを見せてくれた。
俺が確認する左右から、日向さんと新城さんものぞき込む。
「悠太は、魔法は『回復魔法』と『風魔法』だけでいいのか?
それに、武器スキルが『弓術』って、矢代が結構かかるぞ?」
「え、そうなのか?無くならない矢とかないのか?」
俺は呆れてしまった。悠太の奴、ゲームと勘違いしてないか?
これから行く世界は本物の異世界、本物の戦いの世界だぞ?
「どうする?今から変えるか?」
「今からでも、変えることできるのか?」
「ああ、まだ冒険者カードに記入されただけだから、今なら変えることできるけど?」
「変え………いや、これで行く!これで何とかしてみせる!」
「おお~、潔いな悠太」
少し投げやりな、それでいて決意した男の顔をしていた。
少し見直したぞ、悠太。
「それじゃあ、冒険者カードを持って次の部屋へ」
「おう!」「「うん」」
俺たち四人は、ワークさんに挨拶をして、入ってきた扉の反対にある奥の扉に入っていく。
ここで、みんなが選んだスキルを紹介しておこう。
日向さんが選んだスキルは…『刀術』『護身術』『受け流し』『魔力制御』
『水魔法』『土魔法』『精神耐性』『鑑定』『気配察知』『抜刀』。
新城さんの選んだスキルは…『槍術』『受け流し』『魔力制御』『風魔法』
『光魔法』『精神耐性』『鑑定』『気配察知』『強運』『身体能力向上』
悠太の選んだスキルは…『弓術』『集中力向上』『狙撃』『魔力制御』
『回復魔法』『風魔法』『精神耐性』『鑑定』『気配察知』『格闘術』
以上の10個を選んでいた。
▽ ▽
スキル選びの部屋から奥の部屋に入ると、二人の冒険者ギルドの職員さんがいる。
ロバートさんとダニエルさんだ。
ロバートさんは小太りで、赤い髪をした優しそうな男性。
ダニエルさんは、この世界ではまず見ることのないエルフの男性なのだ。
耳がとがっていて、イケメンなのはエルフの特徴といえるだろう。
日向さんと新城さんが、ダニエルさんに見惚れていた。
……まあしょうがないんだけど、ちょっとムカつくよな。
「なあ康太、あの人すごいイケメンだな」
「悠太、ダニエルさんはエルフだぞ?」
「何!ではエルフがイケメンというのは、事実だったのか?!」
「ああ、事実だ」
「ということは………フフフ……」
うっわ、俺でもわかるぞ、その笑いの正体。
「悠太、今、女性のエルフを思い浮かべていただろ?」
「正解!男のエルフがあの見た目なんだぞ?女性のエルフはどんだけなんだよ!って考えるのが普通だろ?」
「まあ、この先に行けば会えるけどな」
悠太の眼が光った!
危ない、すごく危ない奴になっているぞ?
「それって、どういうことだ?
この先に行けば会えるっていうのは……」
悠太が、目を光らせたまま俺に迫ってきたとき、エルフのダニエルさんに声をかけられた。
「……君たち、そろそろ私の説明を聞いてくれるかな?
異世界へ行くための、大事な説明なんだけどね?」
日向さんと新城さんも、俺と悠太を睨んでいる。
……俺は悪くないと思うんだけど、ここは謝っておこう。
「ゴメンなさい」「すみませんでした」
「では、これから君たちを異世界の冒険者ギルドへ送ります。
これから先、この部屋から何度も向こうの世界へ行くことになるだろうから、この部屋に来た時はここにあるスキャナーに、自分の冒険者カードを読み込ませて、この足元にある赤い線の内側に入ること。
そうすれば、自動で向こうの世界へ転移されるからね?」
そう説明すると、足元にある赤い線を指さす。
そして、部屋の端にいるロバートさんに目配せをする。
「それじゃあ、全員赤い線の内側へ移動してくれ。
向こうに着いたら、向こうのギルド職員の指示に従ってくれ」
ロバートさんにそう言われ、俺たちは赤い線の内側に入ると、ダニエルさんが呪文を唱えると俺たちは転移された……。
今日はここまで。
次回は、いよいよ異世界へ……。
第7話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




