第62話 レッドタイガーの討伐
冬休み16日目、一月六日午前十時ごろ、領都の南門から出ると街道の先に空に浮かぶ雲の中から突き出すものが見えてきた。
ここに来るまで、盗賊や魔物に襲われることはなかったが、これから天空ダンジョンの真下までの間には、ダンジョンから降りてきた魔物がいるそうだ。
領都の南門を出る際、門を守る兵士に注意を受けた。
俺は、頭の片隅に止めつつ天空ダンジョンへの街道を冒険者を乗せた馬車は進んでいく。
「康太、ここまで盗賊も魔物も出てこなかったな」
「この人数だからな、盗賊は襲ってこないだろ?魔物は、たまたまじゃないのか?」
「そうかな?動物も見なかったのは、気になったんだが……」
「動物は本能で、危険な場所は避けるからな~。
これだけ冒険者がいる場所は、本能で避けて出てこなかったんじゃないのか?」
「そんなものなのか……でも、ここからは違うんだろ?」
盗賊や魔物が出てこなかったことに、ガッカリしていた悠太は、ここからダンジョンまでの街道に思いをはせてワクワクしているようだ。
「南門の兵士の人が言っていたな。
ここからダンジョンまでには、ダンジョンから出てきた魔物がいるって……」
「どんな魔物が出てくるんだろうな~」
俺は、目の前に見える雲の中から突き出している塔を見ながら答える。
「さあな~、戦える魔物だったらいいよな……」
「戦える魔物……」
俺たちのレベルを考えれば、低層でレベル上げ。
これが最初の課題となるだろう。
この異世界にはれベルシステムが存在する。これは、レベルによって戦える魔物が変わるためだ。
低レベルの頃は、低レベルの魔物にさえ苦戦するが、レベルが上がれば苦戦していた低レベルの魔物も、容易く倒すことができるようになる。
この辺りはゲームと同じだが、若干ゲームと違うのが弱点属性が存在すること。
例えば、ゴブリンにも属性があり耐性も持っているのだ。
そのため、魔法での攻撃には注意が必要なのである。
逆に、高レベルの魔物でも弱点の属性をつくと低レベルでも簡単の倒せてしまえるらしい……。
そんな話をしていると、前を進む馬車が停止しだした。
「ん?何かあったのかな?」
「エマさん、キャロルさん、前の馬車が止まりましたよ?」
日向さんたち女性陣と話し込んでいたエマさんとキャロルさんに、前を進む馬車の停止を知らせると、武器を構えて馬車の外へ出た。
「みんなは、馬車の中から援護をお願い!」
エマさんのお願いに、俺たちは全員『魔導銃』を取り出し構える。
みんなが持つ『魔導銃』はいるいるなタイプに分かれている。
俺や悠太、日向さんに凜が持つ、小銃タイプ。
新城さんや竹原さんが持つ、散弾銃タイプ。
市原さんや木下さんが持つ、拳銃タイプ。
そして、大篠さんが持つ、騎兵銃タイプ。この四つだ。
他にも、狙撃銃タイプやグレネードランチャータイプの魔導銃を持つ冒険者もいるようだ。もちろん、地球の冒険者しかいないのだが……。
「悠太、お前は弓じゃないのか?」
「俺も射撃スキルの熟練度を上げておきたいんだよ」
「弓が使えなくなっても、知らないぞ?」
「それを言うなら康太もだろ?」
「俺は遠距離武器が、これしかないんだよ……」
「しっ!静かに」
俺と悠太の側にいた日向さんに叱られ、黙って周りの気配を探る。
すると、カサカサと草をかき分ける音が聞こえる。
さらに気配を探ると、馬車の列の右側から魔物の気配が分かった。
俺がそっちに注目すると、そのタイミングでエマさんが叫ぶ!
「馬車の右からくるよ!」
エマさんの叫びと同時に、草むらから赤い物体が飛び出し襲いかかってきた。
すぐにエマさんとキャロルさんは、魔物の攻撃を武器で受け流し距離を取る。
エマさんの武器は槍、キャロルさんの武器も槍だ。
姿を現した魔物は、赤い虎、レッドタイガーという魔物だ。
強さは、オークより強くオーガより攻撃力があり、素早く動けるため、今の俺たちには危険な魔物だな。
ただ、エマさんやキャロルさんには対処しやすい魔物だろう。
何せ、レベルが違うからな……。
「レッドタイガーか……。みんな、鑑定スキルは使ってるか?」
「ええ、鑑定スキルは使えば使うほど情報が増えるからね。勿論、使っているよ」
俺の問いに竹原さんが答えて、みんな頷く。
そして、魔導銃をレッドタイガーに向けるのだが、それを察知したのか赤い虎はキャロルさんを襲いだした。
「………ダメ!狙いが付けられない」
「凜ちゃん、狙うんじゃなくて感じるんだよ!赤い虎の魔力を、ね!」
……何かどっかで聞いたことある台詞のように聞こえたが、まあいい。
確かに、魔導銃を使うのなら狙うより的である赤い虎の魔力を感じた方が当たる。
何故なら、魔導銃の『弾道』は、曲がるのだから……。
槍で赤い虎の攻撃を、軽くあしらうように戦うキャロルさん。
エマさんはさらに魔物がいないか警戒しているだけだ。
どうやら、俺たちに撃たせて経験値にしてもらいたいようだ。
そうと分かれば、俺たちは馬車から構える。
そして、引き金を引いた。
「一斉に……撃て!」
――――パパパパパパパパパンッ!
みんなの魔導銃から発射されたすべての弾道が赤い虎に命中!
だが、この攻撃は致命傷にはならない。
何故なら、レベル差があるためだ。赤い虎のレベルは97。
いくら魔導銃で、赤い虎の弱点の属性『氷』を撃たれたとしても致命傷になることはない。そこで、戦っていたキャロルさんの出番である。
俺たちの攻撃で、目標をキャロルさんから馬車にいる俺たちに移した瞬間、キャロルさんの槍の一閃が赤い虎の首を刎ねた。
赤い虎は何が起きたか分からず、絶命したのだ……。
「エマ、周りはどう?」
「向こうの馬車のワークさんも、合図してるけどこのレッドタイガー以外はいないみたいね」
「てことは、このレッドタイガーが、この辺りの魔物を追い払ったってわけか……」
キャロルさんは、赤い虎の死体に近づくと『無限鞄』に収納した。
それを確認して、エマさんが前の馬車に合図を送る。
その合図とともに動き出す馬車。
俺たちの乗る馬車も、前の馬車について行くように動きだし、エマさんとキャロルさんが飛び乗った。
……カッコいいな~。
今日は、ここまで。
次回は、天空ダンジョンの入り口。
第62話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




