第6話 スキルにチート無し
じっと、タブレットを見つめて『スキル』を選ぶ三人。
その集中力たるや、この前の期末試験の時のようだ。
ふと、日向さんが俺に視線を向ける。
「ねぇ西園寺君、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「俺にできることならいいけど?」
「あのね、西園寺君の選んだスキルを見せてもらうことって、出来るかな?」
「俺のスキルを?」
そう聞いた俺に、空いている手をワタワタと動かしながら焦る日向さん。
「無理にとは言わないから、安心して?
スキルを隠すことは、冒険者として当然だものね……」
「いや、知りたいなら教えるけど?」
「「「いいの?」」」
俺があっさり教えるといった瞬間、三人が俺に向かって驚いた顔を見せた。
……何を驚くことがあるんだ?
「日向さん、冒険者のスキルは、ある程度開示しておくものなんだよ?」
「そうなの?」
「ああ、そうしないと臨時のパーティーを組む時困るだろ?
その他にも、能力指名依頼なんてものもあるわけだし……」
「能力指名依頼……。この能力、スキルを持っている人への限定依頼ってことかな?」
「そうそう。だからこれから仲間になるみんなに、俺のスキルを隠す必要はないわけだ……」
俺は、自分の冒険者カードを取り出し裏面を見せた。
実は、冒険者カードの裏面は、任意で表示する『ステータス面』になっている。
だから、そこにスキルだけを表示させることができるのだ。
「はい、これが俺の習得スキルだ」
「えっと……」
日向さんが受け取り、俺のスキルを見る。
その横から、新城さんと悠太がのぞき込む形で見ている。
「西園寺君のスキルは、『槍術』『棒術』『投擲』『魔力制御』『回復魔法』
『解体魔法』『精神耐性』『気配察知』『鑑定』『薬草知識』『錬金術』の11種類ね。
……あれ?一つ多い?」
三人とも、どういうことか聞きたそうに俺を見ているな。
「その中の一つは、向こうで手に入れたスキルだよ。
向こうで勉強や訓練なんかをすると、スキルが手に入るんだ」
「そうなのか……」
三人は、俺のスキルを確認して、自分のスキル選びに戻った。
実際、向こうで誰かに師事したり、訓練や勉強で手に入るスキルは多い。
それは、こっちの世界でも同じ。
ただ、こっちの世界のようにそうとうな勉強や訓練は必要ないけどね。
俺が向こうの世界で手に入れたのは、『錬金術』のスキル。
依頼の中に『ポーション作りのお手伝い』というのがあって、受けてみたんだよね。
めちゃくちゃ大変だったけど、依頼料はよかったし『錬金術』のスキルは手に入ったしで結構おいしかった依頼だ。
ただ、作れるポーションは初級の物だけだったけど……。
おそらく、もっと錬金術に関する勉強をすれば、作れるものも上がっていくんだろう。
その依頼者が言っていたが、錬金術で最終的に作れるのは『ホムンクルス』だそうだ。
作れれば、いい助手になるそうだが……。
それにしても悠太の奴、さっきから何を探しているんだ?
目が血走っているみたいだが……。
「悠太、さっきから何を探しているんだ?」
「いや、見つからないんだよ、時空魔法のスキルが……」
「……もしかして、チートスキルを探しているのか?
残念だが、そこに表示されているスキルは初心者スキルだけだ。チートはないぞ」
俺の説明に悠太が驚いている。
当然だろうが、悠太。チートスキルなんて、取ってどうするつもりだったんだ?
最初から最強をしてどうするんだよ。
面倒ごとに巻き込まれるだけだぞ?
それに、体力でも魔力でもレベル1の奴ができるわけないだろう。
実は、向こうの世界にはレベルがある。
レベルの上限は分からないが、俺たち地球人が向こうの世界へ行くと、レベル1からスタートとなる。
となれば、体力や魔力をはじめとした身体能力はどんなものか……。
魔法を使うにも、剣を振るうにも、初心者と変わらないのだ。
ではどうすればレベルが上がるのか、それは魔物を倒したり、力仕事をしたり、魔法を使ったりを繰り返すことで、体に空気中の魔力を取り込みレベルが上がっていく。
そう考えれば、向こうの世界の子供は、年齢=レベルなのだとか。
俺たち地球人が、こんなにスキルをもらうわけも分かるというものだろう。
「……そうか、チートはないのか……」
「……よし、私は選び終わったわ」
「私も、選び終わったよ」
悠太が落ち込んでいる隙に、日向さんと新城さんはスキルを選び終わったようだ。
二人を見て、ようやく悠太も選び始めている。
「スキルを選び終えたら、冒険者カードに転送して」
「えっと……ここを押せばいいのね」
「……ここね」
日向さんと新城さんが、もう一度スキルを確認して『了承』を指でタッチする。
すると、それぞれのタブレットと繋がった黒い箱が動き出した。
ほんの10秒ほどブーッとバイブで動くと、止まって蓋が開く。
そして、そこには裏面にそれぞれのステータスが表示されていた。
「これでどうかな、西園寺君確認してくれる?」
「え、見てもいいのか?」
「あ、私もみたい!見せあいっこしよう、小春ちゃん」
俺は日向さんのスキルと、新庄さんのスキルを見せてもらった。
「……ふんふん、俺のスキルとそう違いはないね。
あえて言えば、習得魔法が違うことかな?」
「そうね、私は『水魔法』と『土魔法』を取ったし、リコは、『風魔法』と『光魔法』を取っているし……」
「そういえば、みんな『精神耐性』ってとってるんだね」
「リコは取らなかったの?」
「取ったよ~、小春ちゃんが最初に取っていたからね」
新城さん、危ないな~。
もし『精神耐性』取っておかないと、向こうの世界で大変なことになるようだぞ?
もしかして、教室での話、聞いてなかったのかな?
……後は、悠太だけだけど……まだ悩んでいるみたいだ……。
今日はここまでだな。
次回は……スキル編終わるといいな。
第6話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。
本文の次回予告は、面白そうなので残すことになりました。