第59話 本物の迫力
「うふふ~♪」
俺の妹の凜が、冒険者ギルドカードを見ながら上機嫌だ。
スキルを決め、異世界へ転移し、武器や防具を装備して今、支度金を受け取ったところで、この部屋から一歩外へ出れば、ここが異世界なんだと分かるだろう。
なにせ、そこのドアの向こうは本物の小説や漫画にある冒険者ギルドなのだから……。
だが、機嫌がいいのは妹の凜だけではなかった。
「ムフフ♪」
「……免許書を、初めてもらった時のようですね♪」
そう、女優の大篠ユミカさんやそのマネージャーの木下成美さんも、同じように上機嫌だった。
分からないでもないけど……。
「えっと、聞いてます?」
俺が、ギルドカードを見ながら上機嫌の三人に聞くと、凜が返事をする。
「聞いてる、聞いてる。聞いてるよお兄ちゃん」
絶対聞いてないだろ?!
まったく、三人ともに同じようなスキルを選びやがって……。
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【名前】 西園寺 凜
【年齢】 14歳
【種族】 人族
【職業】 地球の冒険者 / 中学二年生
【レベル】 1
【スキル】 異世界言語 アイテムボックス 鑑定
射撃術Lv1 集中力向上 狙撃Lv1 護身術Lv1
魔力制御 光魔法
精神耐性 気配察知 身体能力向上
【称号】
【所持金】
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【名前】 大篠 ユミカ
【年齢】 23歳
【種族】 人族
【職業】 地球の冒険者 / 女優
【レベル】 1
【スキル】 異世界言語 アイテムボックス 鑑定
射撃術Lv1 集中力向上 狙撃Lv1 護身術Lv1
魔力制御 回復魔法
精神耐性 気配察知 身体能力向上
【称号】
【所持金】
――――――――――――――
【名前】 木下 成美
【年齢】 25歳
【種族】 人族
【職業】 地球の冒険者 / マネージャー(会社員)
【レベル】 1
【スキル】 異世界言語 アイテムボックス 鑑定
射撃術Lv1 集中力向上 狙撃Lv1
魔力制御 光魔法 回復魔法
精神耐性 気配察知 身体能力向上
【称号】
【所持金】
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武器を選ぶ際、三人とも魔導銃を品定めしていると思ったら、案の定、面白そうなスキルを選んでいたよ。
射撃術って、初めて知ったけど、選べるスキルにあったんだな……。
「この扉を抜ければ、冒険者ギルドに入ります。
三人には、まずギルドでの訓練をしてもらいます」
「訓練?」
「西園寺君、訓練ってどんなことをするの?」
「ギルドの地下には、訓練場があるんです。
そこで、スキルを一通り教官から習います。
勿論、これには理由があって、今のままでは、スキルを使えないからです」
「「「えっ?」」」
俺は、三人にアイテムボックスを使ってみてくれとお願いする。
すると、三人とも支給されたお金の袋を、アイテムボックスに仕舞えなかった。
これは、俺たちがここに来るまで、アイテムボックスを使っていないからどう使っていいのか知らないためだ。
もう一度、今度は俺がアイテムボックスを使用する様子を見せてから、それぞれアイテムボックスを使用するようにお願いすると、今度は三人とも、アイテムボックスにお金を仕舞うことができた。
「……不思議な感覚」
「これは、見て習うということですか……」
「スキルが表示されているものなら、見て習う、もしくは教えてもらい実践することで使えるようになります。
ただ、スキル欄に表示がない場合は、一から勉強する必要がありますよ」
マネージャーの木下さんは、腕を組んで考えだした。
俺の妹の凜と大篠さんは、アイテムボックスからお金の入った袋を出し入れしている。
「とにかく、スキル欄にあるスキルは一通り習ってもらいますね」
「「「は~い」」」
さて、訓練の後はどうするかな……。
▽ ▽
ナブトの町の西門から入ってくる馬車の列。
その中央に、領主デイビッド・クリフォード子爵の乗った豪華な馬車が走っている。目指す先は、冒険者ギルドである。
ガラガラと音をたてて馬車は車道を走っている。
このナブトの町では、東西南北の門から伸びる通りは中央広場の外周を通り、すべて繋がっているだけではなく、馬車や馬などが走る車道と人などが歩く歩道に別れていた。
このような道は商業ギルドからの進言で作ったものだったが、使ってみれば馬車の進行がスムーズになるということで、今では、領内の町の道が同じような作りになっている。
それはともかく、領主の乗った馬車は、止まることなく冒険者ギルドの前まで走り切った。
そして、ギルド正面入り口で止まり、領主とその娘、執事とメイドが馬車から降りてギルドに早足で入っていった……。
▽ ▽
エマさんの担当受付で、訓練場での訓練の申し込みをしていると、俺の後ろから男の声が聞こえる。
何か焦っているような感じだったので、誰だろうと振り返ると、そこにいたのは豪華で高そうな服を着た、一目で貴族と分かる男性だった。
しかも、その男はカイゼル髭を蓄えていて、その髪のと目の色が赤く目立つ男性だった。
……もしかして、お偉いさんかな?とその男性の周りを見ると、その男性と同じ髪の色をした美しい女性がいた。
さらに、見た目執事の人とメイドさんが控えている。
あ、これは厄介ごとだと直感する。
「すまんが、今すぐギルドマスターに繋いでもらえるか?!」
「は、はい!」
返事をしたのは、エマさんの隣の受付にいたベテラン受付嬢のカレンさんだ。
人族で、既婚者の女性だが、カレンさんは今までしていた書類仕事をそのままに、受付内にある階段を上がっていく。
俺のいるカウンターの隣に肘をつき、大きくため息を吐く。
その後ろで、その貴族を気遣うように心配そうな顔をする美少女。
さらに、微動だにしない執事とメイド。
俺は、どうしたらいいのか分からず、エマさんの顔を見ると、苦笑いをしている。
どうやら、今は動かない方がいいようだ……。
俺以外を喫茶スペースへ移動させておいてよかった。
……長い長い時間に思えた緊張の時間は、カレンさんが階段を降りて来て解ける。
「クリフォード様、すぐにお会いになるとのことです」
「おお、そうか」
そう嬉しそうに言うと、美少女と執事にメイドを連れて階段を上がっていった。
……姿が見えなくなると、ギルド全体がため息を吐いたように空気が緩む。
「……あの、エマさん?」
「今の人がこの町を含む、この辺りの領主、デイビッド・クリフォード子爵様よ。あれでも、貴族社会では弱小貴族の一人なのよ?」
……この時の俺の気持ちは、信じられないの一言だ。
何せ、相手のことをよく知らないのにもかかわらず、あんなに緊張したのは初めてだ。日本だったら、何もしてないのに警察官に職質された感じか?
……本物の貴族って、小説や漫画に描かれる貴族と違うんだな。
あ~、緊張した~。
今日は、ここまで。
次回は、ギルドマスターの部屋から……。
第59話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




