第53話 電話の続きと女優のノリ
今日の朝、悠太からかかってきた電話に出ると、駅前の冒険者ギルドがテレビで紹介されていたとか……。
「それで、リポーターの子とか中に入ったのか?」
『ああ、受付の美女三人に驚いていたぜ。
大篠ユミカが小声で、芸能界にもこんな美人いないよ、とか呟いている声がマイクに拾われていたよ』
だろうな……。
ワークさんがこの前、帰って来た時にこぼしていたけど、ナンパ目的で登録しようとしている人が何人かいるそうだ。
後は、駅ビルの外に待ち伏せしていた人もいたそうだが、受付の彼女たちが帰る家は日本じゃなく、異世界に在るため駅ビルの前で待っていても出てくることはないんだそうだ。
そんなこと話していいのか聞くと、コータ君は信用できるって言ってくれたんだよね。
……何か、うれしかったな~。
「ナンパ目的のヤローが、増えそうだな……」
『だいじょうぶじゃないか?ギルド側だって対策しているだろ?』
「……だといいけどな」
『まあ、後は冒険者ギルドの登録方法とか、更衣室とか紹介していたな。
ああ、それと、えーこちゃんと大篠ユミカが登録していたぞ』
「え?冒険者にか?」
『ああ、だけど、受付での登録だけだから、スキルを選ぶとかまでは行ってないみたいだけどな』
「そうなのか……。
それなら、もしかすると休みが取れたら、異世界へってこともあるかもな」
『だとしたら、うれしいけどな~』
そんな他愛もない話をして、正月の初詣の約束をして電話は切れた。
悠太と二人で初詣か……。
▽ ▽
昼食を食べ終えて、ネットの掲示板で悠太の言っていたテレビの取材の件を調べると、大騒ぎになっていた。
どうやら、掲示板の住民たちは、リポーターのえーこちゃんのファンが多いらしく喜んでいるようだ。
さらに、受付嬢三人の容姿がありえないほどの美人で、さっそく登録に行って確かめたとか、ギルドに行列ができていたとか、報告が相次いだ。
さらにさらに、苦情も相次いでいるようで、スキルにチートがないとか、ステ振りがどうとか、クソゲーとか言っている勘違いヤローまで出る始末。
「クソゲーって、ゲームじゃないんだから……」
これは、年明けに行くことは無理かな……。
新学期が始まる七日の月曜までに、もう一度二泊三日で行きたかったんだがな。
今度行ったときは、ポーションを作って儲けたいんだよね。
せっかくの錬金スキルと知識なんだから……。
……あれ?
この掲示板の書き込み……。
―――――――――――――――
477:名無しの冒険者さん
駅前の冒険者ギルドの扉に貼り紙があったぞ
〈画像〉
478:名無しの冒険者さん
年末年始のお知らせか!
冒険者ギルは年中無休じゃないのな
479:名無しの冒険者さん
まあ当然だな
……てことは、向こう行ってる連中は帰ってこれないのか?
480:名無しの冒険者さん
貼り紙には、休みは二日だけのようだし
大丈夫だろ?死ぬことはないって……タブン……
481:名無しの冒険者さん
怖えよ、タブンて何だよ……
―――――――――――――――
冒険者ギルドに、年末年始の休みがあるとは、知らなかったな。
でも、今のうちだけだろうな、こんな休みは。
年明けの異世界へ行くこと、ラインでみんなに相談してみるか……。
▽ ▽
「はぁ……」
えーちゃんから、お見舞いもらったけど、私はまだ検査入院中だ。
マネージャーからは、ドラマの降板が決まったとかで一月いっぱいの休みをもらったんだよね。
今まで、長期休暇なんて取れなかったから、私としては嬉しいんだけど、この検査入院から解放されない限り気持ちは晴れない。
ロケバスの事故で、たいしたことなかったんだけど、ドラマはダメだった。
撮影時間が限られているとかで降板。
いろんな人に、迷惑かけちゃったかな……。
「ん~、空いた時間、どうしようかな~」
「ユミカちゃんの好きにしていいんだよ?」
私が、病院のベッドの上で考えていると、この個室のドアが開いてマネージャーの木下さんが入ってきた。
相変わらず、動きやすい踵の低い靴を履いてフットワーク軽そうだ。
もとがいいんだから、おしゃれしてもと思うけどマネージャーはしっかり化粧をすることはないようだ。
「一月、まるまるはどう使っていいのか分かんないよ?」
「ユミカちゃんの、好きなことをすればいいんだけど?」
「ん~」
全然思いつかない……。
……あ、そういえば冒険者ギルドで登録してたね、確か。
ストレス解消に、やってみようかな……。
「ね、木下さん。
えーちゃんの番組で登録した冒険者ってどうかな?
ストレス発散になるって、受付のお姉さんが教えてくれたんだけど」
「冒険者って、駅ビル紹介の仕事でしたね。
ストレス発散できるかどうかは別にして、胡散臭くないの?」
「そう?あんな美人の受付さんが真面目に説明してくれたよ?
だから、大丈夫でしょ」
マネージャーは、今一つ信じてないな~。
この世の中には、化学じゃ解明できないものが一つや二つあるんだよ?
駅ビルの冒険者もその一つだよ。
「木下さんも、冒険者やらない?」
「私が?」
フフ、驚いてる驚いてる。
女優の私が、冒険者になろうって言うんだから、マネージャーも付き合いなさいってね?
「それは……」
「決まり~、じゃあ退院後、あの駅ビルへ」
こうして、新人女優、大篠ユミカと木下マネージャーは異世界へ行くことになった。
今日は、ここまで。
大篠ユミカと木下マネージャーが、どう康太たちと絡むかは、そのうちに。
第53話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




