第48話 読書の日
異世界で迎える冬休み、7日目。
今日で、二泊三日の異世界滞在が終わる最終日、俺と悠太は部屋を引き払って宿屋のロビーのソファで寛いでいる。
後は、日向さんたち女性陣を待って合流し、今日をどう過ごして地球に帰るか相談するためだ。
「……康太、異世界でも雨って降るんだな……」
「何言ってんだ?当たり前だろう……」
そう、今、外は雨が降っている。
悠太はこっちに来て初めての雨だが、俺は何度か経験済みだ。
こっちの冒険者は、こんな雨の日は基本、外には出ないため受注した依頼がない場合は屋内で過ごしている。
もしくは、酒場やギルドの喫茶店なんかで時間を過ごすようだ。
で、俺たちは、今日で日本へ帰るため、宿を引き払い、まずは図書館で時間をつぶす予定だ。
ただ、日向さんたち女性陣はどうするか、まだ決まっていない。
昨日の夕食時に、聞こうと思ったのだが、祝勝会なるものになったため聞きそびれてしまった。
「なあ康太、こっちの世界の人達は、雨の中の移動ってどうしているんだ?」
「どうって、傘をさして移動か、魔法で雨を避けての移動か、そもそも移動しないかかな。
それに、この世界の人は、少しの雨だと濡れても気にしないからな……」
そんな会話をしていると、宿の二階から日向さんたちが下りてきた。
「お待たせ。それで、この後はどうするの?」
「俺と康太は、図書館へ行く予定だけど、日向さんたちは?」
日向さんたちは、四人で少し話し合うと…。
「それなら、私たちも図書館へ行くわ。
もっと読みたい本があったし……」
「オッケ~、それじゃあ、宿の精算をしていきますか~」
悠太が軽く返事をして、俺を見る。
さらに、日向さんたちも俺を見てくる。
……これはあれか?俺に払っておいてくれってことなのか?
「……今回だけだぞ?」
そう言うと、俺は、日向さんから部屋のカードキーを受け取り、宿代の精算をする。
通常、宿代は前払いで払うのだが、追加料金を支払う場合がある。
今回は、昨日の夕食を豪華にしたため、追加を支払うことになったのだ。
追加料金の銀貨二枚を支払い、カードキーを返却し宿を出る。
「またのご利用をお待ちしております~」
宿を出るとき、俺の後ろから声がかかるが、この時の俺は気にもしていなかった。
なぜなら、予定外の出費のおかげである……。
▽ ▽
小雨の降る中、俺たちは傘を差さずに図書館へ歩いて行く。
「ねえ、傘を差さなくて大丈夫かな?」
「冒険者ギルドから、図書館はすぐそこだから大丈夫よ」
新城さんの心配を竹原さんが一蹴する。
この町にある図書館は、中央広場へ向かって右手に見えてくる。
入場料は無料の、異世界モノの常識の入場料を取らない図書館だった。
実はこの図書館、冒険者ギルドが中心となって建てられたものなのだ。
そのため、中にある本も地球の印刷技術を使って一冊づつ増やしていったそうだ。
ただし、魔法関連の本だけは、そのままであるため、魔法関連の本を読むときは受付でお金を払うことになっている。
地球から取り寄せた本も並んでいるが、すべて『言語翻訳』されているわけではないので、こちらの世界の人では読めない本も多々ある。
では、そんな読めない本を読むときはどうするのか?
それは、受付で『言語翻訳』の魔法が付与されたメガネを借りて読むのだそうだ。
「それじゃあ、そのメガネをかければ『英語』も『日本語』も『ドイツ語』も苦も無く読み放題ってことか?」
「ああ、読み放題だ。
といっても、俺たちには関係ない話だがな?」
「……あ、そうか、俺たちには『言語翻訳』のスキルがあったな!」
「そういえば、こっちの言葉とか文字を理解できていたわね……」
そう、この『翻訳メガネ』と言えるメガネは、あくまでもこっちの世界の人ようなのだ。地球から来た俺たちには、スキルで最初からあるため、言葉で苦労することはない。
「お、図書館が見えてきたぞ……」
▽ ▽
外観は、大型のレンタルDVD屋のような建物で、二階建てになっている立派なものだ。
入り口は、木と鉄が使われていてこれまた立派なドアを開けると、中に六畳ぐらいの部屋がありその部屋に受付がある。
また、この部屋を通らないと、一般の客は外に出ることができないようになっているので、セキュリティーは万全だろう。
悠太は、受付のあるこの部屋をキョロキョロと眺めているが、俺たちは、その行為を止めることはしない。
なぜなら、図書館に初めて入るときは、みんなやってしまう行為だそうだ。
「「いらっしゃいませ、ナブト図書館へようこそ」」
受付の女性二人が、俺たちに最初の挨拶をしてくれた。
ここで、魔法関連の本を読むときは、名前を記入してお金を払うことになっている。
また、お金を払わなくても、どんな本を読みたいかで口頭で案内もしてくれる。
「えっと、私たちは魔法関連の本を読みたいんだけど?」
「では、こちらに読まれる方のお名前をご記入ください。
それと、魔法関連の本は銀貨五枚の料金がかかりますがよろしいでしょうか?」
そう言われ、日向さんたちは受付のカウンターで名前を記入し、料金を支払う。
俺と悠太は、魔法関連の本は読まないのでお金は無しだ。
「あ、俺たちは薬草関連の本を読むので」
「はい、分かりました。
薬草関連は、入って左側の本棚にまとめてありますので」
「はい、ありがとうございます」
「………っと、ではこれが全員分の料金です」
「はい、えっと四人分で合計銀貨二十枚、………確かに。
では、ごゆっくりどうぞ」
俺たちに、本の置いてある場所を教えてくれると、料金を支払う日向さんたちの応対へ戻っていく。
そして、金額を確認し、二人で頭を下げた。
こうして、俺たちは、ようやく図書館の中へ入っていく……。
今日は、ここまで。
次回は、図書館の中の様子を……。
第48話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




