第44話 夕刻の町
戦闘が終わってから、その場にしゃがみこんでいる皆を置いて、俺は倒した『ゴブリン』から『魔石』を回収すると、『ゴブリン』の死体をアイテムボックスに収納し、森へ捨てに行く。
森の中に捨てて、みんなの場所に戻ってくると、落ち着いたのか全員立ちあがって雑談をしていた。
「戦闘があんなに精神的にくるとは思わなかったよ……」
「生き物を切るって、感覚がねぇ~」
「私たちは、突くって感覚だったけど……」
「あんまり、何度もやりたくないな~」
「しかし、弓も結構当たるものなんだな……」
そして、戻ってきた俺に悠太が話しかける。
「エルフたちは、もっとうまく敵を倒すぞ?」
「やっぱり、使い込まないとダメなのかな……」
精神的に落ち着いたのは、耐性スキルのおかげか。
習得させて、正解だったな。
「さて、そろそろ帰ろうぜ~。
日もすっかり傾いて、夕方だぞ~」
そう、ゴブリンとの戦闘のおかげで、辺りはすっかり夕日に照らされている。
町の東門は小さいながらも見えているのに、こんなところで戦闘とはな。
みんなで夕日を確認し、町へ急いで帰っていった。
▽ ▽
東門にいる兵士に、ギルドカードを提示すると、すんなり通してくれる。
本当に信用あるよな、冒険者ギルドのカードは。
兵士に軽く挨拶し、東門を通り抜けると、夕方の町が俺たちを迎え入れてくれる。
あちこちで帰宅を急ぐ人たち、酒場などの店では中から騒がしい声が、外からでもわかるほど聞こえる。
食事処は、家族連れが多く、パン屋や八百屋などは最後の追い込みか安売りを始めていた。パン屋が安売りって、と思ったが明日、硬くなったパンを売るわけにはいかないか、と思い直した。
東門から冒険者ギルドへの続く道でこれだけの様子が分かるのだ、この町は生きているんだなと実感してしまう光景だな……。
「こういう光景見ると、改めて現実感があるよな……」
「何を今さら……」
俺の隣を歩く悠太が、ふと漏らした感想。
地球から来た俺たちは、ある意味ゲーム感覚が抜けないんだろうな。
で、生活感のある光景で、ハッとさせられる。
そんな風に考えながら、俺たちは冒険者ギルドへ歩いて向かった。
▽ ▽
冒険者ギルドに入ると、今日の依頼の報告か、冒険者たちが受付に大挙して並んでいた。とてもじゃないが、あの列に並ぶ勇気はないので喫茶店で時間をつぶすことにしようと思ったが、喫茶店も満員だった……。
「喫茶店も、満員か……」
「それなら、比較的人の少ない依頼掲示板の所で時間をつぶそうぜ」
「そうね……」
みんな頷き、俺たちは依頼掲示板の前へ。
ここは人が少ないとはいえ、誰もいないわけではない。
これから朝にかけての依頼を受けようという冒険者が、貼られている依頼書を見ているのだ。
実は、冒険者ギルドの依頼掲示板には、朝貼り出される依頼書と夕方貼り出される依頼書が存在する。
朝貼り出されるものは、大半が初心者向けだ。
そして、夕方貼り出されるものは、腕に自信があったり、ギルドからの信頼が厚いものに向けての物が多い。
なぜなら、夕方からの依頼は危険が伴うものが大半だからである。
「こういう依頼が受けられる冒険者って、かっこいいよな~」
「確かにな。
こういう依頼は、ギルドから信頼されているほど実力があるってことだからな……」
「……でも、こういう依頼って女性は受けないわよね?」
日向さんが、俺と悠太の会話に参加してきた。
夜の危険な依頼に関して、女性が受けるかどうかか。
「それが、受ける場合もあるって話だよ」
「そうなの?」
「特に………ほら、この依頼なんかは、女性冒険者が受けることが多い」
俺は、一枚の貼り出されている依頼書を指さした。
「えっと、『〇〇〇店の給仕募集』?
これって、夜のお店の店員募集ってことでしょ?」
「ところが、仕事内容を見るとそうじゃないんだよ。
……ほら、ここを読んでみて」
そう言って、俺は依頼書の下に書かれている依頼内容を指し示す。
それにつられて、みんなの視線が依頼内容を凝視した。
「えっと、『〇〇〇店の売り上げがここ二日で急上昇している。客の入りも多いが、大半が男性客がというのが気になる。
常時女性の給仕を募集しているようで、商業ギルドからも調査の要請があった』。
これって、潜入調査の依頼なんだ……」
「そうだよ。そして、ここ」
俺は依頼内用の最後を指し示す。
「『特に奴隷の有無と扱いを調べてもらいたい』……これが?」
「忘れたの?倉庫整理で見つけただろ?」
「あ!あの獣人の親子?」
「親子かどうかは分からないけど、この店、あの木箱の届け先なんだよね……」
「……それって」
俺たちが受けた、倉庫整理の依頼で見つけた獣人の女性たち。
あれからどうなったか分からないけど、確かにあの木箱にはこの店の名前があった。
きっと、何か大きな事件になっているのかもしれないね……。
でも、俺たちがこの依頼を受けることはできない。
だって、この依頼書の適性ランクはB。
潜入調査ができる冒険者は、自力で何とかできる力が無いとギルドが許可しないんだよね。
これは、キャロルさんに前聞いたことあるから、間違いない。
「……う~、気になる……気になるけど、どうなったか知る方法ってないかな?」
「それなら、受付のエマさんかキャロルさんに聞けば教えてくれることもあるよ。
特に、ギルド職員と仲良くなるとね」
「……もしかして、西園寺君が受付嬢の人と仲良くしているのは……」
日向さん、それは関係ないよ?
でも、いろいろ教えてくれるほど、仲もいいからこの依頼の今後を聞いておこうかな。
今日は、ここまで。
次回は、受付でのやり取りで終わりそう……。
第44話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




