第32話 ある日の思い出 その2
冒険者ギルド業務のお手伝い、二日目。
今日は、依頼受付の裏方業務から始まった。
この町のいろいろな人が、冒険者に頼みに来る依頼申請を一手に引き受け、依頼書に起こして依頼掲示板へと貼っていく業務だ。
依頼申請はいろいろな種類があったが、この時期は討伐依頼がほとんど。
町中の依頼もあるにはあるが、新人冒険者でも討伐依頼を受けてしまうため、残ってしまうことが多々あった。
そんな依頼の処理は、実は冒険者ギルドが変わってやっている。
いや、誤解があるな。
冒険者ギルド専属の冒険者が、ギルドからの依頼でやっている、これが正しい。
▽ ▽
「へぇ~、冒険者ギルドには、そんな冒険者もいるのか……」
「実はな、この専属冒険者の中に、キャロルさんたち受付嬢も入っているんだよ」
「!!マジか?!キャロルさんたちも戦ったりできるのか?!」
「ああ、かなりの強さだぞ」
「……戦っているところ、見たことあるのか?」
「まあな……」
それを知るのは、昼からの出来事があったからなんだけどな……。
▽ ▽
俺も、専属冒険者のお手伝いで、町中をあっちへこっちへと走っていた。
特に、俺の『アイテムボックス』スキルが重宝したのだ。
荷物運搬の依頼は、俺と女性職員のコンビで働かされたな……。
荷物は俺のアイテムボックスの中に、女性職員は道案内にとあちこち走って届けていた。
そして、午前中のギルドの手伝いが終わり昼食を済ませてギルドに戻ってくると、受付にいたキャロルさんに呼ばれた。
「コータ君、君の『アイテムボックス』どれだけの容量があるの?
余裕があるなら、これから手伝ってほしい依頼があるんだけど……」
美人エルフのキャロルさんのお願いポーズ、はっきり言ってスゴイ破壊力だったよ。
抗える人っているのか?て、ぐらいだ。
だから、どんな依頼かも聞かずに、つい了承してしまったんだよな……。
「ええ、構いませんよ。
冒険者ギルドのお手伝いが仕事ですから」
「ほんと?ありがとう~。
それじゃあ、運ぶ荷物のところまで案内するからついて来て」
俺はそう言って案内するキャロルさんについて行くと、ギルドの裏手にある広場まで案内された。
そこには、もう1人の受付嬢のエマさんと、何が入っているか分からない高さ1メートル縦横1メートルの木箱10箱があった。
「キャロル?荷物持ちは見つかった?って、彼がそうなの?」
「そうよ、このコータ君の『アイテムボックス』は結構な容量みたいよ?」
すると、エマさんが俺をジロジロと見て観察してきた。
……もしかして、『鑑定』スキルかな?
20秒ほど観察されると、何回か頷かれる。
「……なるほど、彼なら大丈夫そうね。
あなた、魔物の討伐経験は?」
「はい、ゴブリンならあります」
「うん、合格。
それじゃあキャロル、早く支度してきなさい。すぐに出発するわよ」
「分かったわ」
そう言うと、キャロルさんはギルド内へ帰っていった。
支度って、何かの依頼かな?
「キャロルが戻るまでに、コータ君だっけ?
ここにある木箱を、全部収納してくれる?」
「あ、はい、分かりました」
俺はそう返事をすると、木箱を1つ1つ『アイテムボックス』に収納していった。
木箱に手を触れ、【収納】と考えると収納されるのだ。
そうして、すべての木箱を収納し終えて少しすると、キャロルさんが戻ってきた。
その姿は受付嬢から、冒険者へと変わっていた。
▽ ▽
「……なぁ、キャロルさんとエマさんは、冒険者の姿だったんだよな?」
「ああ、受付嬢の制服じゃなくて、革鎧とかブーツとかだったぞ?」
「二人の武器は何だった?」
「確か、エマさんが杖で、キャロルさんが弓だったな……」
「おお!さすがエルフ!」
エマさんの杖は、エマさんよりも長くて丈夫そうだったな。
真っ直ぐな杖で、上部先端が三日月のような形をしていて、赤と白の宝石が付いていたな……。
大きさは、俺の握りこぶしぐらいで。
キャロルさんの弓は、シンプルな普通の弓だった。
狩弓っていうのかな?そんな、どこの武器屋にでもあるような弓だ。
矢筒に入っていた矢も普通の市販のものだったと思う。
でも、装備を見て驚いたのは、エマさんに関して何だよな。
だってエマさん、猫人族の獣人なのに、魔法を主体にして戦うってことなんだぞ?
獣人は魔法が苦手、って小説とか物語の中だけの話だったんだな……。
▽ ▽
冒険者ギルドの用意した小さな馬車に俺たちは乗り、街道を走る。
通常はもっとゆっくりと移動するんだけど、今回は依頼が依頼だけに急ぐってことらしい。
目的地は、町から一日離れたところにある『ポック村』という所。
「この村は、ナブトの食料の半分近くを栽培している大切な村なの。
その村の近くで『オーク』が目撃されたって報告がきたのよね」
「その報告を受けて、ギルドは調査を開始。
すると、村から北側の森の中にオークが集落を作っていたのよ。
被害はまだ出てないけど、ギルドは討伐依頼を出したわ」
「それも、パーティー依頼としてね?
そしてその依頼を受けたのが四つのパーティー。
その四つのパーティーが村に向かい、北の森に入ってオークの村を襲撃、したのはいいけどかなりの抵抗をされているの……」
抵抗ってことは、かなりの戦力ってことか……。
その四つのパーティーの実力にもよるけど……。
「今日で三日目、食料は村で何とかなるけど、ポーション類が村に用意してあるものでは足りなくなってきてね?それで急遽、運搬依頼が入ったのよ。
本当は、大きな馬車に乗せて運ぼうと思ったんだけど、村にいる冒険者っちは急いでいるようなの……」
なるほど、それで『アイテムボックス』のスキルを持っていた俺に話がきたのか。
「本当は、『アイテムボックス』を持っている人を募集する予定だったんだけど、そんな時間が無いってことで、ギルドで把握している人で、今ギルドにいる人といえばギルドの手伝い依頼を受けているコータ君だけだったのよね」
「ゴメンねコータ君、キャロルが理由も話さず連れてきて……。
この子、自分の容姿のことを知っててワザと断れないような頼み方をするのよね~」
キャロルさんとエマさんが、交互に今回の事について説明してくれたんだけど、最後の一言で、キャロルさんのあの頼み方がワザとだったと分かってしまった……。
ショックだ……。
今日は、ここまで。
次回は………。
第32話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




