第29話 スキルと受けた依頼
冒険者ギルドの掲示板の前で、今日から明後日までの三日間でできる依頼を探す俺たち。真剣に吟味するも、今の俺たちができる依頼は、ナブトの町中のものが主だ。
「……こんなに依頼書があるのに、私たちのできることって決まっているわね」
「そうね~、スキルのことを考えても、偏るわね……」
竹原さんと日向さんが、ボヤいている。
でも、しょうがないのだ。
強くなりたいなら、訓練か図書館に………待てよ?
「なあ、パーティーを分けないか?」
「西園寺君、パーティーを分けるって?」
俺の提案に、日向さんが質問する。
「ちょっと思いついたんだが、依頼を受ける人と訓練する人に分けないか、とな」
「依頼は分かるけど、訓練って?」
今度は竹原さんが質問してきた。
「俺たちが選んだスキルで、今も使えないスキルがあるだろ?
例えば『魔法』とか。
魔法は地球じゃ習えない、だからどうすれば使えるか分からない、だから使えないんだよ。
そのため、この世界に来てもすぐに使えるわけじゃないから、誰かに教えてもらう必要があるんだ」
「そういえば、こっちに来て魔法のこと忘れていたけど、どう使えばいいのか分からなかったわ……」
「私も~、こっちに来れば自然と分かるものだと思ってた……」
市原さんと新城さんが、自分のとった魔法スキルのことを思い出したようだ。
他のみんなも、魔法の使い方について考え始める。
「で、そんな人たち、特に地球からの冒険者のために、冒険者ギルドでは訓練指導っていうのをしているんだよ。
教えるのは、ギルド職員か信頼できる冒険者が責任をもってやってくれる」
俺の説明に、みんな頷いて理解してくれたようだ。
「それで、依頼を受ける人と訓練を受ける人に分けたいというわけね?」
「ああ、今回は二泊三日。
レベルなり経験を積むには、効率よくしようと思ってな」
そして、俺たちは掲示板前で話し合い、俺と悠太が依頼を、日向さんと新城さん、竹原さんと市原さんの四人が訓練ということに決まった。
「それじゃあ、私たちは受付で訓練の申請をしてくるわ」
「俺たちは、二人でできる依頼を探すよ」
そう言うと、日向さんたちは受付へ向かった。
俺が日向さんたちを見送ると、すぐに隣にいる悠太に声をかける。
「さて、女性たちはいなくなった。
どうだ?例の依頼を受けるか?」
「……例の依頼か」
そう言って俺たちの視線は、例の依頼書『ギルド公認の奴隷商の清掃依頼』に向く。
日向さんたちは、反対していたが俺は心の中では賛成していた。
悠太と向き合い、お互いの心の声を確認し頷き、依頼書を剥がした。
▽ ▽
今回の依頼書を持っていった受付は、エルフのキャロルさんの所ではなく、隣の猫人族のエマさんのところだ。
なぜなら、キャロルさんの所には、日向さんたちが打ち合わせをしているからだ。
なるべくばれないように、依頼を受けなければならない……。
それなら、仕事の早いエマさんが適任だろう。
依頼書を持ち、ギルドカードを用意してエマさんの列に並ぶ。
今日は、午後という時間帯にもかかわらず、ギルド内の冒険者の数が多い。
そのため、受付カウンターには冒険者たちの列ができていた。
列に並んでいる時、暇だったのだろう、悠太が話しかけてきた。
「なあ康太、さっき魔法が使えないって言ってたよな?」
「ん?ああ、そうだろ?スキルにある風魔法とか水魔法とか使えないだろ?」
「確かに、使えないけど、アイテムボックスは使えるよな?
アイテムボックスも、空間魔法の一種だろ?」
……確かに、俺たちのスキル『アイテムボックス』も魔法の一つだったな。
「確かに、アイテムボックスは空間魔法の一種だけど、使い方は分かるだろ?
俺が目の前で使っていたから、それで学んだことになったんだと思う」
「……簡単に使えるようになるんだな」
実は、スキル表示されていて使えない場合は、目の前で使われたり、教えてもらうだけで使えるようになる。
見て覚えるということができるのだが、スキル表示されていないスキルを覚える場合は大変なのだ。
勉強するように、もしくは何度も何度も反復して覚えることになる。
俺の『錬金術』スキルがそれだ。
ポーション作りを何度も何度も手伝って、ようやく覚えたものだ。
「次の方、どうぞ~」
受付嬢のエマさんに呼ばれ、依頼の受理をお願いする。
ギルドカードと依頼書を一緒に提示した。
「コータ君、この依頼を受けるの?」
エマさんのネコ目がじっと俺を見つめる。
どうも、何か疑っているというか、エッチなのはダメと訴えているような目だ。
「ええ、清掃なら俺たちでもできそうなので……」
「そうっス」
悠太、そうっスはないだろ……。
ほら、エマさんがますます俺たちを交互にジロジロと見ている……。
「……まあ、いいでしょう。これも経験だよ。
……でも、現実を知っても落ち込まないで、コータ君には私が付いているんだから、ね?」
「あらエマ、コータ君には私が付いているのよ?勝手に取らないでよね~」
なぜ、こんなに俺はからかわれるんだろうか?
……もしかして、夏休みのあの件が原因かな……。
「……なあ、康太。
受付嬢のこの態度について、今度じっくり聞きたいんだが?」
……悠太が怒っている。
依頼を受けることができたのに、なぜ!
今日は、ここまで。
次回は、奴隷商の話。
第29話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




