第25話 地球の日本へ帰って来た
「おかえりなさい」
扉を開けると、そこにいたのは俺たちがこっちの世界に来て、最初にあった人物。
狐人族のドロシーさんだった。
昨日会った時と変わらず、モフモフなシッポをしていて、狐耳が可愛い。
日向さんと新城さんの目が、キラリと輝いたと思ったらドロシーさんは一歩、後ずさってしまう。
俺は、日向さんと新城さんの肩を軽く叩いて正気に戻し、ドロシーさんに挨拶をかわす。
「こんにちは、ドロシーさん。
冒険者ギルドのお仕事、ご苦労様です」
「ありがとう」
そう言うと、ニコリと笑顔になった。
そのドロシーさんの笑顔に、今度は悠太が心にきたようだ。
顔を赤くして、フラフラとドロシーさんに近づくところを、俺が止めるはめに。
「みんなは、地球に帰るのね?」
ギルドカードを、ドロシーさんに見せると確認してくる。
俺たちは全員頷くと、ドロシーさんは俺たちの装備している鎧を指さしてくる。
「地球に帰るなら、壁の注意事項を読んで確認してね?」
「壁の注意事項ですか?」
日向さんが聞き返して、みんなでドロシーさんの指さす右の壁の貼り紙へ視線を移す。
そこには、大きな紙に大きな字で注意事項が書いてあった。
俺もこんな貼り紙があるなんて、気づかなかったな。
夏休みの頃も、何かあればドロシーさん自ら注意してくれていたし……。
『地球へ帰還するときの注意事項。
・武器や鎧などの防具は外して、アイテムボックスへ。
日本には銃刀法があります。武器を許可なく所持すると捕まりますよ?
それに、魔物のいない日本には防具は必要ありません。
必ず、自身のアイテムボックスに仕舞って、こちらに来た時の服で帰りましょう。
・ポーションなどの薬やお金などの貴重品も、アイテムボックスへ。
もし、アイテムボックスに入りきらない場合は、整理整頓しましょう。
地球へ、こちらの世界のものを持ち込むには特殊なやり方が必要です。
そのやり方が分からないときは、諦めてアイテムボックスへ仕舞いましょう。
・最後にもう一度確認して、自分のギルドカードを持って『送還陣』の上へ乗ってください。
地球では、こちらのスキルは使用できません。
アイテムボックスに入れたままですと、冒険者ギルドを出ることができず、こちらに帰ってくることになります』
……なるほど、分かりやすいけどどうしてこんな貼り紙が?
「この貼り紙は、私以外のギルド職員がいた時のためにね?
ここは、私一人で担当しているわけではないから担当する人が違えば対応も違うからね」
「そうなんですね……」
俺は、そう返事をしながら防具を外し、鎧をアイテムボックスへ仕舞う。
また、腰のポーチに入っているポーション類も、ポーチごとアイテムボックスへ。
悠太も日向さんも新城さんも、防御を外してアイテムボックスへ。
そして、俺たちはこっちへ来た時と同じ服姿となった。
ドロシーさんは、それを確認すると再び笑顔になった。
「それじゃあ、ギルドカードを手に持って魔法陣の上に立ってください」
「は~い」
ドロシーさんの言い付け通り、ギルドカードを手に持つと魔法陣の上に立つ。
すると、ドロシーさんがブツブツと呪文を唱えると、俺たちの視界が一瞬で変わった。
目の前のドロシーさんはいなくなり、代わりにロバートさんと知らない女性がいた。
ロバートさんは小太りの普通のおじさんだ。
……この冒険者ギルドにおいて、安心する人なんだよな。
後は、エルフのダニエルさんではなく、俺も知らない女性が一緒にいた。
「わっ、いきなり現れた……?」
「ステラ君、ここに現れたってことは、向こうから帰ってきた人たちだよ?」
「あ、そうですねロバート先輩」
先輩?ということは、このステラって女性は、冒険者ギルドの職員なのか。
多分、新人教育ってところかな?
そんなことを考えていると、ロバートさんとステラさんが俺たちに近づく。
「みなさん、お帰りなさい。
ギルドカードは手に持っていますか?
……大丈夫みたいですね。
ああ、この女性は、新人のギルド職員のステラ君です。
これから、顔を合わせることもあるかもしれませんがよろしくお願いしますね」
「新しく冒険者ギルドの職員となったステラです。
これから、異世界の地球を担当しますがよろしくお願いします!」
「「こちらこそ、よろしくお願いします!」」
「よろしく~」「よろしくね?」
どうやら予想通りだったようだ。
それにしても、異世界の地球か……。向こうの世界の人から見れば、そうなるよな。
俺たちは、挨拶を済ませると、そのまま部屋を出てスキルを決めた部屋へ。
部屋に入ると、受付の席にいたワークさんがあいさつしてくれた。
「お帰りなさい、向こうの世界はどうでした?楽しめましたか?」
「ワークさん、ええ、楽しめたと思います」
「私は、楽しめたというより夢の中って感じかな?」
「俺は、いろんなものを見て、感動したな!」
「主に美人ばかりだろ?」
「康太、それはお前も同じだろうが!」
「私は、いろんな出来事を体験して地球も異世界も同じように感じたかな~」
「……みなさん、異世界を楽しんだようでなによりです。
それで、今日はもう帰るのですか?」
俺たちの話を、微笑みながら聞き、別れを惜しんでいるようだ。
もう会えないってわけでもないのに……。
「今日は、着替えて帰りますけど、また来ますよ。
俺たちは、冒険者になったんですからね!」
俺のセリフに、悠太たちが合意して頷いている。
それを見て、ワークさんはさらに笑顔になった。
……なんだか、ここのギルドマスターのような感じだな。
その後、俺たちはワークさんのいる部屋を出ると、更衣室へ。
ここに来た時の自分の服に着替えるためだ。
男女別々の更衣室に入り、自分のロッカーを探すとギルドカードをロッカーの扉にかざす。
すると、ロッカーの扉の鍵が開くのだ。
「このギルドカードって、便利だよな~」
「こっちの世界と向こうの世界とでは、大きさが変わるけどな」
「何で変わるんだ?」
そういえば、何故だろう?
今まで気にせず使っていたけど、改めて指摘されると分からないな。
地球でのギルドカードの大きさは、はがきサイズだ。
向こうの異世界では、免許書サイズになる。
「たぶん、機能が違うからじゃないか?
こっちだと、ロッカーの番号や鍵、他にもいろいろとあるけど、向こうだと身分証明や依頼の有無の証明ぐらいにしか使わないからかな?」
「……不思議なカードだよな~」
服を着替え終えた悠太は、ギルドカードを手に不思議そうに眺めている。
そして、俺が着替え終えると、一緒に更衣室を出る。
もちろん、入ってきた扉ではなく反対側の扉からだ。
更衣室の扉を出ると、受付へと繋がっており、そこには仕事中の受付嬢三人と受付でギルド登録している人が六人いた。
何やら、いろいろと説明を受けている。
日向さんと新城さんは、まだ出てきてないので、俺たちは左側にある掲示板を見て時間をつぶしておく。
「……この掲示板って、よく見たらいろんな紙が貼ってあるんだな」
「ああ、この掲示板は主に宣伝に使われるからな。
ネットの掲示板のアドレスとか、向こうの世界に出したお店の宣伝だな。
それに、探し物でも使われているぞ」
俺が一つの貼り紙を指さし、悠太に見せる。
「『西島麗子を探しています』って写真付きか?何これ……」
「向こうの世界で行方不明になった人だろうな。
おそらく、あの町を出た人でこういう探し人で貼られる人がいるらしい」
そう、向こうの世界は広いのだ。
あの町は始まりの町、本当の冒険はあの町を出てから始まるのだ。
すべてが自己責任の世界……。
俺たちが、あの町を離れるとき、帰ってこられるかな……。
今日は、ここまで。
今回は長くなったな……。
第25話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




