第23話 嫌な予感
「こ、これは?!」
鑑定スキルを使用し、木箱を凝視していたマークさんは、驚きとともに商業ギルドへ走って行った。
……何か、とんでもない厄介ごとに巻き込まれた気がする。
「……なあ康太、俺、いや~な予感がするんだが……」
「奇遇だな、俺もだ……」
日向さんと新城さんは、そわそわしている。
どうしたらいいのか、分からないってところか?
そして、ほんの5分ほどで、マークさんが若い女性と年配の男性を連れて戻ってきた。
若い女性は、商業ギルドに入った時、チラッと見た、受付譲だった女性だと思う。
年配の男性は、記憶にないな……。
「君たちが、倉庫整理の依頼を受けてくれた冒険者達か?」
「あ、はい、初めまして俺は…」
「ああ、自己紹介はいい。
私は、この商業ギルドナブト支店のギルドマスターをしているジェームズだ。
こっちは受付業務をしているキンバリー」
キンバリーさんは、声を出すことなく頭を下げて挨拶しただけだ。
そして、マークさんがギルドマスターを連れてきた訳を話してくれた。
「西園寺君、君たちが知らせてくれたあの木箱。
実は、私の鑑定スキルでも、生物が入っていることが分かったんだが、その生物が問題だった」
「その生物が、分かったんですか?」
「ああ、あの木箱の中身は、獣人だ。
それも、かなり弱っているみたいですぐに助け出さなくてはならない」
「そ、それなら今すぐに……って、勝手に木箱を開けられないんですね……」
そう、この商業ギルドの倉庫にある木箱は、商業ギルドの物。
俺たちのような冒険者や、一介の職員では勝手に開けることができない。
そんなことを許してしまえば、窃盗行為を許すようなもの。
それに、商業ギルドは小売りはしておらず、木箱単位で売買しているので木箱の中身を確認するのは貼られた紙でおこなっている。
もし、木箱の中身が貼られた紙に記されているものと違う場合は、商業ギルドに責任が行き、困るのだが、その木箱を持ってきた商人とは二度と取引をしないため、取引する商人たちは木箱の中身をよく確認して蓋をしている。
何度も言うが、商業ギルドは木箱単位で取引をする。
納める商人からすれば、大口の取引相手なのだ。
その大口の取引相手を失う行為を、商人がするはずがない。
だからこそ、お互いの信用で木箱の中身を確認することはないのだが……。
「今回、この木箱を持ってきたのは飛び入りの商人だったな?」
「はいギルドマスター、量が量でしかも安かったので飛び付いたのかと……」
「まったく。
とにかく、中を検める。その二つの木箱の蓋を開けなさい」
ギルドマスターの許可もとれ、ギルドマスターの目の前で蓋を開けることに。
マークさんは、腰に手をやり何かをつかんで手を上げると、バールが出てきた。
おそらく、あれはアイテムボックスから取り出したのか?
木箱の上蓋の隙間にバールを入れると、力いっぱい下に押す。
すると、大きな音とともに、打ち付けてあった蓋に隙間が生まれる。
それを繰り返していき、木箱の蓋が開いた。
そして、中身を見ておれたち全員は驚いた。
木箱の下に、貼り紙にあった商品のコーヒー豆と紅茶の茶葉が袋に入った状態で少しだけあり、その上に獣人の幼い女の子がいたのだ。
それも二人も。
さらに、もう一つの木箱からは獣人の女性が出てきた。
三人とも、かなり弱っているようですぐに木箱から救出すると、キンバリーさんに女の子たちが、マークさんに女性が支えられてギルド内へ連れて行かれる。
それを見送ると、ギルドマスターが俺たちに指示を出した。
「君たち、悪いがその木箱二つは蓋をして倉庫前に出しておいてくれ。
それと、倉庫整理が終わったら、ギルド受付へ来てくれ、必ずな」
そう言って、商業ギルドへ戻っていく。
それを見送る俺たち。
「……巻き込まれたな」
「そうね、私たちどうなるのかな?」
「う~ん、多分口止めされて、関わるなで終わりじゃないかな?」
悠太と日向さんと新城さんで、話し合っているが今は倉庫整理が優先だろう?
「話しててもらちが明かないから、倉庫整理終わらせて受付へ行こうぜ」
「……そうね」
俺たちは、蓋を元に戻しアイテムボックスへ仕舞うと、倉庫の入り口側に獣人の女の子たちが入っていた木箱を出しておく。
そして、他の木箱の整理に倉庫内へ戻っていった。
▽ ▽
残りの木箱が少なかったためか、30分かからずに倉庫整理は終わった。
余ったパレットを倉庫の入り口側に出して、扉を閉めれば依頼達成。
「ようやく終わった」
「でも、ギルドマスターが呼んでいるのよね?」
新城さんが、不安な顔で言うが、それは仕方がない。
俺たちは、倉庫整理終了の報告とギルドマスターの呼び出しのため受付へ行く。
倉庫から、商業ギルドへ入ると、すぐに受付へ。
受付には行列などなく、すぐに対応してくれた。
「あの、第六倉庫の整理整頓終わりました」
「あ、はい、倉庫整理の依頼を受けた冒険者の方たちですね?
では………これで、依頼達成です」
受付嬢は、カードに商業ギルドの証明の判を押すと、差し出した俺に返してくれて、受付の隣にある通路を指さす。
「そこの通路を奥に進んで、階段を上がってください。
二階の奥にギルドマスターの部屋があります。
……ギルドマスターが呼んでいますから、お願いします」
……これは、早く行けってことなんだろうな。
俺たちは、受付嬢の指さした通路を進み、階段を上がって二階の奥の部屋を目指した。
「面倒ごとじゃなければ、いいな~」
悠太の嘆きが、廊下に虚しく響く……。
今日はここまで。
次回は、獣人たちの処遇かな……。
第23話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




