第2話 放課後のやり取り
その方法とは、今は内緒だ。
そのうち分かるから、楽しみにしておこうぜ。
「その方法は教えてくれないんだな……」
「まあまあ、今は必要ないからな。
で、服を着替えたら、入ってきた扉の反対側にさらに扉がある。
扉に『入口』と『出口』って書いてあるから分かるだろう」
その『出口』と書かれた扉を出ると、今度は漫画喫茶の様な個室がずらりと並んでいるんだ。
その中で鍵がかかっていない個室へ入ったら、扉を閉めて鍵をかける。
で、中にはパソコンが一台用意されていて、そこで向こうの世界へ行っても生きていけるように『スキル』を選ぶんだよ。
ここで選べるスキルは10個だけ。
ただし、最初から与えられるスキルの『異世界言語』と『アイテムボックス』を除いての10個だから、結構優遇されているのだ。
「10個のスキルか……。
どれを選ぶか迷うな……あ、そうか、それで一日かかるってことなのか」
「どんなスキルにするかは、明日のお楽しみだな」
また考え出したな悠太の奴。
明日の登録時に、パソコンの前で悩めばいいのに……。
「なあ康太、ちなみに参考までに聞くけど、おススメってあるのか?
このスキルはあった方がいいとか」
「そうだな、耐性スキルはあった方がいいな。
特に『精神耐性』は取っておいて損はないぞ」
「その意味は?」
「まず『魔物』の存在だな。
ハッキリ言ってこっちの世界の感覚で向こうに行くと、魔物を見て吐くこともあるからな?気持ち悪すぎて。
特に、大きさが半端ない。3メートル超える蜘蛛とかゴブリンの醜さやオークの醜さ。
そして一番の問題が、死体の存在だな」
「死体?」
「そうだ、向こうの世界は一歩間違えば死が待っている世界だ。
魔物と戦うことも、本物の戦闘だからな。
……マジで精神にくるんだよ。これが……」
そうなのだ、向こうの世界の冒険者ギルドの受付で聞いたことがあるのだが、精神を病んで冒険者をやめた人がいるそうだ。
冒険者にはいろんなクエストが存在する。
その中の一つに、その人の精神を病ませたのが、魔物の討伐クエストだ。
本来は、それが見せ場だろうと思われがちだが、実際は違う。
相手は魔物。それがどんなに小さな相手であろうと、どんなに弱い相手であろうと、倒せば死体になる。
その死体処理で精神をやってしまったんだ。
もちろん、ギルドに持ってくれば有料ながら解体はしてくれるのだが、死体を持って来ることがダメだった。
「いいか?悠太、これだけは肝に銘じておけよ。
向こうの世界はゲームじゃない、死体を運んだり解体したりしないといけないんだ。
だから、俺は『精神耐性』スキルを薦めるんだよ。
いや、必須スキルだな。絶対取った方がいいぞ」
「わ、分かった……」
俺が強く勧めることに少し驚きながらも、悠太は習得することに決めたようだ。
他にも薦めたいスキルはあるが、悠太がどんな冒険をするかで習得するスキルは変わってくる。
それに、向こうの世界で勉強したり習ったりして習得できるスキルも多いのだ。
選べるスキルはすべて、後から習得可能なんだとか。
▽ ▽
「西園寺君、ちょっといいかな?」
今日の学校が終わり、帰って明日に備えようと立ち上がると隣から声をかけられた。
声の主は、隣の席の日向小春だ。
「おう康太、帰ろうぜ~……て、どうしたんだ?」
「いや、日向さんが声をかけてきたんだよ。
それで、何か用?」
「……ちょっと聞きたいんだけど、今朝の『冒険者ギルド』の話って本当のことなの?」
「今朝のって悠太に話していたこと?ホントのことだよ。
駅前のビルに冒険者ギルドが出来ていてさ、登録したら異世界に行けるんだよ」
「異世界って……冗談みたいな話ね」
「冗談のように聞こえるけど、本当のことなんだよね。
もしかして、日向さんも興味あるの?」
「……まあ、そういう異世界物の話、嫌いじゃないのよね。
それで、登録だっけ?私もお願いしていいかな?」
日向さんは、少し恥ずかしそうにお願いしてくる。
その仕草が、ちょっとかわいいと思ってしまった……。
「ハイっ!小春が登録するなら私もするっ!」
と、そこへ日向さんの友達の新城璃子が名乗りを上げてきた。
新城はこれ、勢いで言っているな……。
「ゲームの話なら、私も混ぜてもらうよ!」
「璃子、ゲームじゃなくて冒険者ギルドの話よ?」
「冒険者ギルド?ゲームのギルドじゃないの?」
どうやら勘違いしているようだな。
俺は、早く帰りたいところを我慢して、一から駅前の冒険者ギルドの話を教えてやった。
すると、日向さんより新庄の方が食いついてきた。
「リアルRPG!私、賢者になりたいな~」
「璃子、死ぬかもしれないんだよ?しかも、グロい死体なんて……」
どうやら、日向さんは慎重になったようだけど、新庄はポジティブに考えすぎだろう。
二人のやり取りを見ていたら、悠太が側に寄ってきて小声で話しかけてきた。
「なあ、日向と新城もいっしょに登録するのか?」
「一緒に登録すれば、向こうでパーティーを組めるかもしれないだろ?
冒険者ギルドのクエストは、パーティーを組むとやり易いんだよな。
特に採取系のクエストは……」
「数で助け合う、か?」
「ああ、向こうで助っ人や奴隷を仲間にすることもできるけど、初心者にそんな金ないしな~」
その時、いきなり俺の肩に激痛が走る。
悠太が俺の肩を、思いっきりつかんでいたのだ。
「ちょっと待て康太、今、聞き捨てならないワードが聞こえたんだが?」
「『助っ人』『奴隷』………ッ!」
悠太の奴、奴隷に反応したのか?
って、それよりもいつまで思いっきりつかんでいるんだよ!
「い、痛い……」
「あ、す、すまん康太。
……ところで、向こうでは『奴隷』が買えるのか?」
「ああ、買えるよ。めちゃくちゃ高いけど」
「……ちなみに、いくらぐらいで?」
「こっちの価値で、最低ランクで10万円からで、最高ランクは1億以上だな」
だんだん、悠太が興奮してきているぞ……。
その様子に、日向さんも新城さんも若干引いている。
……気づけ悠太!
今回はここまで。
第2話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。