第18話 お約束の無い入浴
夕食の『煮込みハンバーグ』が美味しくて、お替りしてしまったのだが、それを、料理を運んできてくれた黄色いエプロンの女性二人が、思いのほか喜んでくれた。
それで、お礼ですって渡されたのが、ドリンク一杯サービス券。
この宿にあるドリンクなら、どんなものでも一杯無料ですよ、という券だ。
でも、この宿にあるドリンクで一番高いものって、お酒なんだよね。
俺たち、高校生だから、お酒は飲めないんだよな……。
一応、この異世界では、成人は十五歳となっているが、地球の日本では、十五歳はまだ子供である。
ここは、リコのジュースにしておこう。
▽ ▽
夕食を終え、時刻はまだ午後七時半。
こんな時間だけど、俺たちはお風呂に入ることにした。
さっそく、宿の受付カウンターの所に行き、お風呂の用意をお願いする。
対応してくれたのは受付嬢の女性。
「では、そちらのソファでお待ちください。
お風呂の準備をしてまいります」
そう言うと、受付カウンターから出て浴場へ。
俺たちは、大人しくロビーにあるソファに落ち着いた。
「こっちに来て、お風呂なんて初めて。
異世界のお風呂ってどんなのだろうね~」
新城さんが、想像を始めるんだけれど……。
いくら異世界にあるとはいえ、地球の日本と変わりないお風呂だと思う。
入る人がいるのだから、お風呂を用意してくれるんだし……。
それから、10分ほどで一階奥にある浴場から受付嬢が出てきた。
お風呂の準備が整ったのだろう。
みんなで、入る順番をどうしようかと考えると、受付の女性から、この宿は男女別で別れてますよと教えてもらいみんなで、浴場に行った。
浴場の中は、まるでお風呂屋さんだった。
しかも、浴場の出入り口には、暖簾がかかっている。
「うんうん、暖簾に男か女かが書かれてあるね。
この入り口から、別れるようになっているのね……」
「それじゃ、私たちは『女』の暖簾をくぐっていきましょう」
そう言うと、日向さんと新城さんは、暖簾をくぐって中へ入っていった。
日向さんと新城さんを送り、俺と悠太が『男』の暖簾をくぐってお風呂へ。
暖簾をくぐって、引き戸になっている入り口を開けると、そこは脱衣所なのだが、宿の大きさの問題で、脱衣所の大きさが小さくなるようだ。
でも、脱衣所に用意されている籠の中には、体を拭く大きなバスタオルや体を洗うのに使うタオルとアメニティグッズが入っている。
「へぇ~、康太、康太。
異世界に、アメニティグッズがあったぞ?!」
「……まあ、この宿は地球の冒険者をターゲットにしているから、用意したんだろうね」
「異世界でも、手に入るものなんだな……」
それはたぶん、交易品の中に入っていたのだろう。
アメニティグッズほどの大きさだ。
数があるとしても、そう場所を取るものでもないしな……。
服を脱ぎ、体を洗うタオルを持って浴室へと入ると、そこには木でできた大きなお風呂があった。
しかも、その木は檜同様、いい香りのする綺麗な木のお風呂だ。
「康太、これ檜風呂か?」
「いや、さすがに異世界で檜は手に入らないだろう?
それに、地球との交易品、というわけにもいかないだろうし……。
だから、この風呂は檜に似た異世界の木ってことになるな……」
「この異世界にも、いい匂いの木があるんだな……」
悠太が、木のお風呂の匂いに気を取られているが、さっさと体を洗って入ろうと促す。
それに、夏休みに来た時は、風呂に入りたくなったら日本に帰っていたから、宿のお風呂は初体験だ。
身体を洗い終わると、さっそくお風呂へゆっくり入る……。
「………あ、ああぁあぁぁ~………」
どうしても言ってしまうよな、お風呂に入るとき……。
お風呂のお湯は温泉ではないが、異世界の水を沸かしてお湯にしてお風呂に使っている。
そう考えると、異世界のお風呂に入ったんだなと感動してしまうな……。
ゆっくりお湯につかっていると、ふいに悠太が浴室の中をキョロキョロしだした。
……まあ、考えていることは、手に取るようにわかるけどな。
「悠太、女湯は覗けないぞ?」
「!な、何言ってんだよ、そんなことしねぇよ?!」
「そうか?ならいいんだよ」
悠太、異世界でも覗きは犯罪だ。
町の警備兵に掴まって、牢屋行きだぞ?
さらに、ここは異世界だ。犯罪者は奴隷落ちになる。
軽い犯罪なら、刑期を終えるまで奴隷として過ごせば解放されるが、前科は残る。
そうなると、他の町への出入りが厳しいらしい。
特に、大きな町の出入りは犯罪歴まで調べるからな。
そこで引っかかれば、監視が付いたりする。
……図書館で勉強したことが、役に立ったぜ。
「この異世界にも、法律はあるんだ。気をつけないとな」
「……そ、そうだな」
▽ ▽
ゆっくりお風呂に入り、ロビーに出てくると、ソファに日向さんと新城さんが座ってドリンクを飲んでいた。
もしかして、ゆっくり入りすぎたか?
「待たせてごめん、ゆっくり入りすぎたか?」
「そんなことないよ?
私たちも、さっき出て来たところだし、ね?」
「うんうん」
日向さんに同意を求められ、ストローに口をつけていた新城さんが頷いて同意している。
……さっきのドリンク一杯無料券か。
俺も悠太ものど渇いたし、剣を使ってドリンクをもらおう。
そして、みんなでドリンクを飲み干すと眠気が襲ってくる。
ロビーの時計を見れば、午後十時だ。
俺はみんなを促して、自分たちの部屋へ引き上げる。
日向さんと新城さんは206号室へ。
俺と悠太は210号室だ。
二階に着いたところで、左右に別れ『お休み』のあいさつ。
あとは自分たちの部屋で寝るだけだ。
明日は、依頼を一回経験してから日本に帰るかな……。
今日は、ここまで。
次回、ようやく依頼を受けるか?
第18話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




