第16話 道案内の依頼
カレーパン片手に、食べながら中央広場を目指して歩いていると、新城さんが周りをキョロキョロし始めた。
何か探しものかな?
「新城さん、どうした?」
「西園寺君、何か飲み物ってないのかな?のどが渇いちゃって……」
「あ、私も、のどが渇いちゃったわ」
日向さんと新城さんのリクエストを叶えるべく、俺は周りを見渡す。
すると、そこに一台の屋台が目に入った。
「ああ、そこの屋台で、飲み物を売ってるよ。
何か、飲みたいもののリクエストとかある?」
そう俺が聞くと、悠太が真っ先に答えた。
「俺、コーヒーね」
「私は、異世界の果物のジュースを飲んでみたいわ」
「私も小春ちゃんと同じもので」
三人のリクエストを聞き、俺は屋台で飲み物を注文する。
この異世界のコーヒーは、実は珈琲の木が存在するため、結構昔から飲まれていた。
ただ、クリープとか砂糖が高価だったことから、ブラックで飲まれることが多く、大人の飲みのもとして、今でも認知されている。
しかし、この『ナブト』の町では、地球の日本との交易のおかげか、高価ではあるが、クリープも砂糖もついて、飲みやすくなっていた。
それでも、高価であるが故、大人の飲み物から脱却できていない。
「コーヒーは、クリープと砂糖、つけるかい?」
「お願いします、後、そこの『ミコ』のジュースを三つお願いします」
「まいどあり!」
屋台のおじさんに、コーヒーとジュースを注文する。
やはり、この世界のコーヒーは高いな……コップ一杯銀貨1枚って……。
砂糖が高いんだよな……。
それに比べて、『ミコ』のジュースは、コップ一杯銅貨10枚。
この『ミコ』という果物は、マスカットの様な果物でこの世界ではかなりメジャーだ。
それに美味しいし、昔からおやつとして、旅のお供として食べられていた。
また栽培も簡単で、『ミコ』の実が生らないときは、飢饉になると言われるほど生りやすい果物だった。
そのため、領主や村長など、町や村の長は庭に必ず植えているほどだ。
俺は、屋台のおじさんにお金を払うと、急いでカレーパンを食べ終え、両手にコップを持ってみんなのもとへ。
皆のもとへ飲み物を運ぶと、お礼を言われながらそれぞれコップを取っていく。
「あ、美味しい。このジュース、美味しいね?」
「ホントだ、これ美味しい~」
「あちち、……康太、コーヒー甘すぎ……」
贅沢な奴だな悠太。
日向さんと新城さんは、ミコのジュースにご満悦だ。
俺もジュースを飲む。
うん、美味しい。
そして、俺たちは再び、中央広場目指して歩きだす。
▽ ▽
しばらく歩いていると、悠太が周りの様子について言い出す。
「この辺りは、屋台が多いんだな……」
「中央広場に行けば、もっと屋台が出てるぞ?
この辺りで営業している屋台は、ほとんどが飲み物を売っている屋台だよ。
店で売られる食べ物も、歩きながら食べれるものを売っている所ばかりだしな」
そう、この辺りのお店は、食べ歩きできるものが多い。
そのため、そんな食べ物に合う飲み物を売っている屋台がそろっているのだ。
食事を提供するお店は、さっきの商業ギルドの通りを南へ行くとたくさん並んでいる。
が、今は行く必要はないだろう。
「あ、悠太、あの店が美容室だぞ」
「え?外からだと、他の店と区別がつきにくいな……」
この異世界には、ガラスが普及していない。
そのため、店の中をのぞかせる様な大きな窓は存在しないのだ。
それに、いくら日本との交易があるとはいえ、一枚ガラスを取引、とはいかないらしい。
ガラス作りの本や、素材は存在するらしいが、かなり高価になるとキャロルさんが教えてくれたな。
「遠藤君、お店には看板が出ているでしょ?
ほら、あそこに『女性の髪はお任せください ニーナのお店』って」
「……美容室って言わないんだな、異世界では」
この異世界では、看板は分かりやすくが常識なんだろう。
他の店や屋台も、看板を分かりやすく造ってあるし、絵でも表している。
「絵の看板も出ているから、識字率が低いんだね……」
そんなもんなんだな。
……そういえば、冒険者ギルドの依頼掲示板の側に、職員が何人かいたけど、あれって依頼を読んでもらうためにいたのか?
「ねぇ、西園寺君、あの建物は何?」
日向さんが歩いている正面を指さして、質問してきた。
指の先にあったもの、それはオベリスクみたいに見える高い塔だ。
「あれは、今向かっている中央広場の中心に建っている時計塔だよ。
あの時計塔の時計は、日本から取り寄せた時計の本を参考に、こちらで一から作ったものなんだよ。
最初は、時間合わせとか苦労してたらしいけど、今では、このナブトの町になくてはならない塔らしいよ」
立派な石造りの時計塔。
高さも、この町で一番である。
「へぇ~、詳しいんだね、西園寺君」
「まあね、夏休みにこっちに来た時、キャロルさんに案内してもらったからね」
「何!康太、そんな羨ましい夏休みを過ごしていたのか!」
「いや、この町の案内を頼んだだけだぞ?」
「……ほんとか?」
疑り深いな悠太、本当にそれ以上何もない。
日向さんも新城さんも、何故そんな恨みがましい目を向けるの?
「ホントだって。
大体、この町の案内だって、冒険者ギルドに依頼で出したものだからな?」
「「「依頼?」」」
「ああ、そういう依頼も多いんだぜ?
特に地球の冒険者なんかは、異世界のことを知りたいからな。
前にこっちに来たときは、右も左も分からなくてな、町の案内のことを受付で相談したら依頼として出す様に勧められたんだよ。
で、その依頼を受けてくれたのが、受付嬢のキャロルさんだったってわけだ」
軽く説明すると、悠太が顔を近づけてきて、睨む。
顔が近いぞ?
「何でそこに、キャロルさんが出てくるんだよ」
「冒険者ギルドの職員でも、依頼を受けることができるからだよ。
特に、道案内とかよく受けているみたいだぞ?」
「マ、マジか……」
ああ、悠太がショックを受けてる。
こりゃあ、明日にでもギルドに依頼書が出るかも……。
今日は、ここまで。
話って、結構進まないんだな……。
第16話を読んでくれてありがとう。
しかし、ここまで冬休み一日目だからな……。
まだまだ、終わりそうにないな……。
でも、次回もよろしくお願いします。




