第11話 武器と失恋
悠太に続いて、日向さんと新城さんも武器を選び終えて帰って来た。
日向さんが持っているのは、刀だ。
名刀とは違うが、そこそこの切れ味のものだろう。
鞘が赤くなっており、持ち手の柄の所が白くなっていて縁起がいい様に見える。
新城さんは、槍を選んだはずなのだが、手に持っているのは薙刀に近いものだろう。
持ち手の部分は青く、刃は、薙刀のような形状をしているが少し違う。
「新城さん、その槍は薙刀か?」
「ううん、これはグレイプという槍だよ。
薙刀よりも少し幅が広くて、重量があるんだよ」
グレイプの種類の中には、薙刀に似たものもあるらしいから、見間違えてもしょうがないか。
新城さんの槍を見ていると、悠太が俺の武器について聞いてくる。
「それで、康太は今、どんな武器を使っているんだ?」
「俺?俺は今これを使ってる」
そう言って、アイテムボックスから俺の槍を取り出す。
新城さんの槍と、同じぐらいの長さの槍が登場した。
「……なんだその槍、斧みたいな刃がついているじゃねぇか!」
「ハルバートっていう槍だよ。
切ったり、突いたり、結構いろいろと使えるんだぜ」
「へぇ~、その槍は見なかったよ?
どこで、手に入れたものなの?」
「この冒険者ギルドを出た町中にある鍛冶屋で、作ってもらったんだよ。
結構な値段したけど、それに見合う働きをしてくれてる」
悠太たちが、俺の槍を眺めているとシンシアさんが、注意してくれる。
「ところで康太君、君は防具を装備しなくていいの?」
「あ……」
俺は、急いで槍をアイテムボックスにしまうと、更衣室へ駈け込んだ。
みんなのことを案内することばかり考えてて、すっかり忘れるところだった。
このまま、防具無しなんて、死に行くようなものだ……。
▽ ▽
防具を装備し、更衣室から出てくると、悠太がニヤニヤしながら待っていた。
日向さんと新城さんは、温かい目で見ている。
シンシアさんとシャーリーさんは、苦笑いだった。
俺は、恥ずかしくて赤くなった顔をごまかすため、次の部屋に行くことを提案する。
「さて、次の部屋で最後だ。
その先は、冒険者ギルドナブト支店のロビーへと続いている。
そこで、依頼を受けずに、まずは町を見てまわるぞ」
「依頼は受けなくていいのか?」
「受けても、どこに行けばいいのかとか、分からないだろ?」
日向さんと新城さんは俺の意見に、頷いて賛同する。
シンシアさんとシャーリーさんは、少しアドバイスをしてくれた。
「ギルドの受付で、町の地図をもらえるからそれをもらって町を見てまわったら?」
「私は、見てまわる前に宿を探すことをお勧めするわよ」
「そうね、宿をとることを忘れてはいけないわね」
シャーリーさんとシンシアさんに、宿をとることを薦められると、悠太たちは困った顔になる。
「宿って言っても、俺たちお金持ってないですよ」
「そういえば、両替してなかったわね……」
「私、ロッカーに貴重品、置いてきた~」
「みんな、次の部屋に行けばそれは解決されるって」
俺が次の部屋に行けばいいと言うと、悠太たちは不思議な顔をする。
実は、次の最後の部屋は、支給金部屋なのだ。
この世界での最初のお金を支給して、貨幣価値を教えてくれるのだ。
そう言うと、悠太隊は安心したようだ。
「それじゃあ、シンシアさんシャーリーさん、お世話になりました~」
「シャーリーさん、また会えますか?」
悠太の奴、シャーリーさんとまた会いたいようだな。
でも、やんわりと断られたようだ。
まあ当然だろう、このギルドに勤めている職員は結構な数がいる。
しかも、エルフ好きな悠太だから、この先の冒険者ギルドにいる受付嬢を見れば、シャーリーさんのことなんかすぐに忘れてしまう気がするね。
そう、冒険者ギルドナブト支店の受付嬢の一人は、キャロルさんというエルフなのだ。
年齢は非公開だが、独身なのは間違いない。
しかも、決まった彼氏もいないとのこと。
「ねぇ西園寺君、遠藤君、大丈夫なの?
シャーリーさんにフラれて、落ち込んでいるみたいなんだけど……」
受付嬢のことを考えていたら、日向さんが側に来て、悠太のことを心配していた。
これは、仲間としての心配か?友達としての心配か?
「ああ、それなら心配いらないよ。
この先に行けば、すぐに元気になるからさ。悠太は単純なんだよ」
「そうなの?ならいいけど、こんなことで戦力が減るのは避けたいからね」
どうやら、仲間としての心配だったようだ。
落ち込んだままの悠太が、俺たちのもとに帰って来た。
「お帰り、勇者よ」
「康太~、シャーリーさん、彼氏がいるんだってよ~。
もうすぐ結婚するかもって……」
まあ、あれだけの美人でスタイルがよければ、そうだよな。
とりあえず、傷心の悠太と一緒に次の部屋へと入っていく。
後から、シンシアさんやシャーリーさんに手を振っている日向さんと新城さんが入ってきた。
次の部屋は、六畳ぐらいの洋室で真ん中に机があり、奥には金庫が設置されている。
入ってきた扉の正面に、別の扉があり、その先が冒険者ギルドナブト支店のロビーへと続いている。
「ようこそ、冒険者ギルドナブト支店両替部屋へ」
「こんにちは、リンダさん」
この部屋にいる女性は、人族のリンダさん、ナブト支店の職員だ。
リンダさんは、ギルド内にある財政部門の職員さんで、俺が最初に来た時も、ここでこっちの世界のお金を支給してもらった。
「こんにちは、あんたは初めてここに来た冒険者じゃないんだね?
それじゃあ、後ろの三人がそうなのかい?」
「はい、この三人に説明と支給をお願いします」
「はいよ」
そう返事をすると、三人の前の机の上に袋に入ったお金を置く。
中身は、金貨1枚と銀貨10枚だ。
「それじゃ、三人とも中身を確認してよ」
「はい………えっと、はい、金貨1枚に銀貨10枚あります」
「俺も、同じだった」
「私も同じだよ」
三人とも、袋の中身を確認して受け取った。
今日は、ここまで。
次回こそは、町へ……行けるといいな。
第11話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




