第104話 パーティー名
冒険者同好会の顔合わせから一週間後、ようやくパーティー内での話し合いでパーティー名が決まった。
俺たちのパーティーは、『円卓の冒険者たち』ということになった。
命名は悠太だ。
理由は、俺たちのパーティーには、いろいろな人がいるからということらしい。
確かに女優とそのマネージャーがいる時点で、ものすごい幸運が付いているのかもしれないな。
ただまあ、パーティー名を同好会に報告した時、少し質問されたのは仕方ない事だろう。でも、その質問も、同好会名簿に載せるためなのだとか。
後、パーティーのリーダーは案の定、俺になった。
まあ、パーティーの中で一番最初に冒険者になったのは俺だしな。
これはしょうがないと、諦めた。
こうして、同好会に登録して、さらに一週間が過ぎたある日の教室。
もうすぐゴールデンウィークが始まるという頃、ある騒動が起きた。
それは、先日のテストが返って来た時のこと……。
「……遠藤君、その点数、マジか?!」
「フ・フ・フ、クラス委員長、マジだ!」
「カンニングとかじゃ、ないんだよな?!」
「当たり前だ!これは正真正銘、俺の実力だ!」
俺のクラスの委員長が、悠太の点数にショックを受けている。
確かに、委員長は去年の悠太の成績を知っているからな、にわかには信じられないんだろう。
俺も、信じられないが……。
「し、しかし、小テストとはいえ、満点とは……」
「満点は、クラスで俺一人。カンニングはしていないということですな~」
腰に手を当てて、悠太はふんぞり返って威張っている。
その正面でクラス委員長の野々村が、悠太の答案をじっくりと見ながらいまだに、疑っている。
「く、く、く。信じられん……」
「……いい加減、信じてくれよ委員長~」
いくら疑っても、点数が変わるわけではないのに、委員長は諦めが悪いな……。
「ね、西園寺君。遠藤君の答案、間違いないの?」
「悠太の周りの席の奴で、満点はいないし、悠太だけがあっている問題もあったし、あの点数に間違いはないはずだよ日向さん」
俺の隣の席の日向さんが、教室の後ろで騒いでいる悠太と委員長の会話を聞いて質問してきた。
確かに、悠太の満点は間違いないようだ。
「遠藤の奴、テスト勉強をしたのか?」
「葵ちゃん。葵ちゃんはどうだった?」
「ん?私は、いつも通りだったよ。いつも通りの九十点。小春は?」
「私もいつも通りだよ。ほら………九十六点」
いつも通りで九十点以上、すごいな……。
お互いが報告し合っていると、ふと視線を感じる。
いつの間にか、日向さんと竹原さんの視線が俺に向いている。
「あ~、俺は冒険者効果でこの点数だ」
そう言って、テストを見せる。
新学年始まって最初のテストだ。先生としては、今のそれぞれの実力を測り、大学などの進学や今後の授業の内容に反映させたかったのだろう。
だが、あまり役には立たなかったように思える。
「西園寺君も、九十点取ったんだ」
「チッ、私と一緒の点数とは……。
でも、その冒険者効果ってなんだよ」
舌打ちするなよ、竹原さん……。
「冒険者効果っていうのは、異世界へ行ってある程度レベルを上げると、体に影響が出るんだよ。
しかもその影響は、地球に帰ってきてもある程度残る。
それが、冒険者効果だ」
異世界で、レベルを上げる。
それは、自身の身体能力を上げることになる。また、このレベル上げは、筋肉などに現れにくいため、外観が著しく変わることが少ない。
勿論、真之介さんの歯並びが治るとか、さやかさんの小じわが減るとか、そういう身体外観が変わることはあるが、筋肉が盛り上がるとか、胸が極端に大きくなるとか、そういう激しい変化はない。
言うなれば、地球人が、スーパー地球人になる、といった具合かな。
数字では表せないが、知能もレベルが上がることで上がっているらしい。
悠太の場合は、レベルが上がることで、記憶力が上がり勉強したことを覚えていた。そんなところだろう。
教室の後ろでは、今も委員長が、悠太を疑っている。
いい加減、信じてやればいいのに……。
「ところで、さっきから携帯で何見てんだ?」
「ん?ああ、冒険者同好会の掲示板だよ」
「……そういえば、分からないことは掲示板で聞けとかなんとか言ってたな……」
「それで、どんな質問が書いてあるの?」
俺は、見ていた携帯を日向さんと竹原さんの目の前に持っていく。
「……何これ」
「これ、質問じゃないだろう……」
二人が驚きあきれたのも無理はない。
その掲示板に書き込まれていたのは、ほとんどが『レベル上げを手伝ってください』というお願いだったからだ。
冒険者の依頼や、習得したスキルなどの質問ではなく、とにかくレベルを上げたいという要望ばかりだった。
酷いものになれば、高レベルの冒険者のパーティーに入れてほしいというものや、効率よくレベル上げができる方法を教えて、なんてものもあった。
「みんな、ゲーム感覚なんだろうね……」
「あ、リコちゃん。テストどうだった?」
「いつも通りの九十二点だった」
「やっぱりリコも、九十点台だったか」
ここに自分の席に戻ってきた、新城さんが加わった。
さっきまで、前の授業で提出となったノートを、職員室まで運ぶ手伝いをしていたのだ。こういう先生のお手伝いって、日直がやらないといけないんだよな。
で、今日の日直が、新城さんだってわけだ。
「それで、ゲーム感覚ってどういう意味なの?リコちゃん」
「うん、もしかしてだけど。
ここに書き込んでいる人たちは、レベルが上がればゲームと同じように新しい魔法や武技を覚えれると、勘違いしているんじゃないかなって思ってね」
……そう、俺も新城さんと同じ意見だ。
おそらく知らないのだろう、レベルを上げても、新しい魔法は覚えれないことに。
ちゃんと、魔法の勉強をしないと、新しい魔法が使えないことに。
そして、レベルを上げても新しい魔法が使えないと、冒険者ギルドにクレームをするのだろうか?
……どうすればいいんだろう。
今日は、ここまで。
次回は、ゴールデンウィークの異世界修行。
第104話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




