第101話 真之介さんが行く 3
夕食を食べ終えて、水を飲みながら頭の中でエロイことばかり浮かんでいた時、ベッドに座るシスターニーナに声をかけられる。
「真之介様、なぜあんなに寄付をしてくださったのですか?」
「……やっぱり、多すぎたんですね」
金貨100枚は、やはり多すぎたようだ。
もう一人のシスターの態度が変わったところを見ると、非常識な寄付だったな……。
「……多すぎです。あれでは………あれでは、私の身体でお礼をするしか……」
「ちょ、ちょっと待ってください。何故そんなことに……」
「シスターマリィが、金貨100枚のお礼には私の身体を差し出すしかないと。
この教会にいるシスターの中で……その、初めては私しかいないので……」
シスターニーナは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
初めてがシスターニーナだけって、他のシスターは経験があるのか?
……いや、確か図書館で教会のシスターは、未亡人が多いとか書いてある本があったな。成人してすぐにシスターになることは、珍しいとか。
なるほど、それでシスターニーナに人身御供になれと……。
……けどそれって、男は初めての女性好きって思われているってことか?
その辺は、人それぞれだろう……。
「あの、僕が寄付したお金は、思いがけず入ってきたお金なんですよ。
特に使い道があったお金ではなく、あの子たちと知り合って、孤児院のことを聞いて、それならと寄付しようとしたお金なので……」
「……あの、私ではお礼になりませんか?」
「と、とんでもない!すごく嬉しいです。
嬉しいですけど、何かお金でシスターニーナさんを買ったような気がして……」
「……あ、あぅ………」
僕もシスターニーナも顔を赤くして、お互い俯いてしまう。
意識しすぎて、お互い恥ずかしい。
しばらくお互い俯いていたが、シスターニーナが孤児院の現状を話し始めた。
「真之介様、寄付、本当にありがとうございます。
かなり多い寄付ですが、あれだけあれば孤児院の子供たちも、私たちも当分食べていくことができます。
真之介様からの寄付金が無くなる前に、今後のことを考える必要がありますが……」
「あの、孤児院に国からの寄付はないのですか?」
「ありません。この国は、この大陸の中でも珍しく教会の力が国の政策などに反映されない国なんです。
政教分離、といいましたか?
国の政策に、教会は口を出すことはできません。
この国の人々の中には、教会の教えや神や女神を信仰する人はたくさんいます。
ですが、王家や貴族たちは、信仰はしても国教にしたり教えを政策に反映したりはしないのです。
そのため、教会を特別扱いしたりはせず、お金を出すこともありません。
ですから今は、信仰している人たちからの寄付で賄われているのです」
「それは、王家や貴族の信仰している人たちからも?」
「はい、王都などでは寄付だけで教会や孤児院が賄えるのですが、この町のような辺境になると……」
なるほど、そういうお金の動きがあるのか。
王都では、王家や貴族がたくさんいるから多額の寄付が集まりやすい。
そして、その寄付は王都の教会や孤児院を賄うことに使われて、余ったとしても、ここの教会よりもさらに寄付の集まらない教会へと送られてしまう。
その王都でも、寄付だけでは賄えないからソフィアさんとシャーロットさんたちは、レベルを上げて自力で何とかしようと考えていたわけか。
いや、もしかしたら寄付の集まらない教会や孤児院へ志願したのかも……。
それに孤児院を教会が一手に引き受けているのも……。
まてよ、孤児院に国からお金が出ないのは、貴族や王家は孤児院の無縁だからじゃないか?つまり、関わり合いがないから。
だから、お金が出ることもないってわけか?
……もしかして、貴族や王家以外は何もしなくても増えるものと考えているのか?
だとしたら……って!
「あの……私では………ダメ、ですか?」
考えている最中に、布のこすれる音が聞こえたと思ったら、シスターニーナが服を脱いで僕の側に寄ってきた。
本気で、僕に抱かれる気なのか……。
……据え膳食わぬは男の恥、というが……。
こういきなり密着されると、経験のない僕は拒否反応を示してしまう。
しかし……。
「……あまり、私に恥をかかせないで、ください……」
そう言われて僕は、ベッドへと引っぱられて……。
「あ、あの!」
そう言うと、シスターニーナの肩を持って離す。
そして、ベッドにかかっているシーツをシスターニーナにかけてやり顔をそらした。
「やっぱり僕にはできません。
シスターニーナさんは美しいし、こんな機会でもなければ相手にもしてもらえないと思います」
「でしたら……」
「そ、それでも、寄付のお礼にとかで、体を差し出すのは間違いだと思うから!」
シスターニーナがどんな状況か分からないが、僕のつかんでいた右腕をさらにしっかりと握ったかと思うと、しばらくして放してくれた。
そして、床の軋みでベッドを降りたことが分かり、布のこすれる音で服を着たことが分かる。
そして、ドアの前まで行くと、こちらを振り返った。
「……真之介様?カッコつけすぎると、チャンスを逃しますよ?
私をモノにすることなんて……二度とないかもしれないのに………」
そう言って、ドアを開けて出ていく。
ただ、ドアを閉める時言った言葉が、しばらく脳裏を離れなかった。
「意気地なし……」と……。
その日、僕はベッドで一晩中悶えていた。
カッコつけすぎた後悔と、経験できなかった後悔と、自分の意気地の無さに……。
相原真之介41歳。人生最大のチャンスを逃す……。
今日は、ここまで。
次回は、康太たちの新学年かな?
第101話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




