人間にはつまはじきにされるのに獣達(not擬人化)には好かれる学園脇役主人公もの
カアア!カアカアカア!
カラスが、対決している。
カラスは、割と好戦的な種族だと思う。特に毎度、何度もみるこの対決を見るとそう考えるに裏付けが取れている気がした。
ちなみに、決闘場所は、
俺の頭上である。
「痛い」
カラスの爪の攻撃力を身を持って確かめたくなどなかった。
毎度と言った。学習した俺は、ニット帽の裏地を改造して被っている。素材はジーンズ。だが、発明した人の意向とは逸れ、世代を越え段々強度が下がりつつある(最初のジーンズって確か荷馬車の幌布だったはず…まあ丈夫ってことだ)現代の彼らには荷が重かったようで、着用3日で既に穴だらけだ。
まず、何故彼ら(彼女ら?)は、俺の頭部で争うのか。それが既に意味不明。難解な問題である。
カラスたちの激闘を頭上に、俺は、ふらふらと正面玄関に向かう。ふらふらなのは、カラスの激闘が陣取り合戦に変わり、俺の頭を陣取ろうと相互に止まったり攻撃を避ける為に飛びだったり、つまり、俺の頭は奴らに蹴られ続けられてる訳だ。
せめて、雀程度に身体を変態して欲しい。なんかないのか。例えば、急激に知能と慈愛が生まれて平和に和解とか。
げんなりしながら、下駄箱を開けた。黒いブレザーには、激しい攻防のあと。奴らの羽根が散っている。
こんな、自然界ファー真面目に入らない。
「まあ、ここまで入って来ないのが救いか」
入学して、はじめてこの学園の門を通った時、いきなり奴らが俺の頭上で空中戦をし出したときは、何が起こったのかさっぱりだった。
実は今も、さっぱりである。
辺りを見渡すが、人気はない。…SHR中だ。と、足にさっと何かが触れていった。
「ひっ」
思わず上がる悲鳴。鳥肌がたった。‘これも’いつものことである。ただし、慣れることはない。完全に奇襲だからだ。
足元を見る。何もない。真っ白なズックが眩しい。そうだよ、よく考えたら俺、新1年生じゃん。なんで、こんな戦地に何年もいるような気持ちになるのだろうか。
憂愁に捕らわれた俺の足を、またささっと何かが触れていく。俺はその、茶色の軌跡を追って振り向いた。ちょうど、尻尾が下駄箱の側面に引きずられて消えた所である。
後ろを向いたせいだろうか。チャンスだと思われたのかもしれない。
先程とは比べられないほどの大群が、俺の足元を通り過ぎていった。固まる俺の視界には、此処が沈む船と見えるほどの茶色の鼠。さささささ、と駆けていく。
最後の1匹が、何故か俺の周りを一周して去っていくと、俺は思わずその場に崩れていた。
なんなんだ。お前ら一体何がしたい。あれか、最後のは、「今日も背後を取ってやったぜ!」っつうVサインか!
そろそろ、俺より強い奴に挑戦して貰いたい。なんか強そうな…2‐3の熊枝とか。
あいつ、強そう。気配に。なんか神経過敏そうな所が特に難易度上げてると思う。
俺は、なんとか、腰を上げると、1限目の生物に向かった。
実は、俺。入学式を風邪で欠席、初日を遅刻してからまともにSHRを受けていない。
理由は、ご覧の通り。なんというか、早めに来ても、なんだかんだで(空中戦や陸上奇襲あたり)遅くなるので、いっそ潔く1限に来ている。そろそろ、担任から何か言われないだろうか。心配だ。
授業終わりのベルが鳴る。なんだろう、違和感。別に、入学式やSHRの時間スルーのせいで友人作りに乗り遅れたとかじゃない。自由席で、1人ぽつんと座ってるから違和感とかじゃない。それから、ベルが何故かJ.オッフェンバックの『天国と地獄』序曲なのも別に違和感とかじゃない。急かされている気にはなるし、何故運動会?とか思わないでもないが。
「ねえ、なんか暗くない?」
誰かが言った。ああ、そうか。今日は晴れ。太陽が結構張り切っていた気がするのに、教室が暗いのだ。蛍光灯は点いているので授業には支障なかったが。
「ねえねえねえ!あれ凄くない!?」
「は、なんだあれ!」
にわかに、窓側の生徒が騒ぎ出した。俺も好奇心に駆られて窓に近付く。
「うわあああ!」
悲鳴が上がる。上げた奴が結構ガタイの良い奴で、びっくりした。近くにいた奴も、窓よりそっちに気を取られたらしい。
「蛇?」
「アナコンダ?」
「いや、此処日本だぜ」
蛇が、数10匹。ベタリと窓に張り付いていた。正確には、窓の外に安全対策で付けられている洒落たアンティーク調の柵に絡みついている。
「最近動物よく見るよなー」
「山奥だからなー」
「おい、新庄!しっかりしろ!」
今日は、新しいハプニングである。最後3人目の台詞内容特に。
蛇が苦手だったらしいガタイの良い新庄君は、保健室に引きずられていった。いや、昨日の雀特攻(窓から)事件より多少平和だ。結構多かった羽毛アレルギーの方々被害に比べれば、たった1人しか犠牲者がいない。
「本当にどうなってんだ?この学園」
俺は、首を傾げた。わいわいと盛り上がるクラスメートたちの輪の中から取り残される寂しさを味わいながら。
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20120310
ありがとうございました。