六月三日(水) 午前八時五分
「おはよー」
晴希が教室に入って来たとたん、春斗は今までにない衝撃を味わった。
「晴希、お前……髪どうしたんだ?! グレたのか、とうとうグレちゃったのか?!」
それに対する晴希の反応は非常に冷たかった。
「は?」
「は? ってお前……髪、何してんだよ……いくらうちの校則が緩いからって、それはだめだろ!」
「何言ってんの?」
と、晴希は逆に心配するように春斗の顔を覗きこんだあと、寄って来たクラスメイトの一人に声を掛ける。
「なあ、俺の髪なんか変?」
「んにゃ、何も。いつも通りじゃね?」
「だよな」
その反応に春斗はより混乱する。
――え、僕しか気づいてないの?!
「とりあえず――まあこっち来いよ」
と春斗は晴希に肩を組まれ、強制的に教室を退場させられ、肩を組まれたまま何故か特殊棟の人気がない場所まで連れて行かれた。
「なんだよ急に」
晴希を引き剥がして正面から睨む。
「俺の髪がどう見えるんだ?」
「え? ……白?」
「本当に、本当に白に見えるんだな?」
やや興奮気味にそう訊かれて逆に困惑する。春斗には晴希の髪が全て真っ白になっているようにしか見えなかった。一晩でこれだけ綺麗に脱色するのはとても苦労したはずだ、と教室を連れだされる前までは思っていた。
恐る恐る頷くと、今度は強く肩を掴まれ、右手を見せられた。
「俺の手、なんか気になることあるか?」
「……そういえば、そんな指輪してたっけ?」
「~~っ!」
晴希は喜びとも言い難い、声にならない声を上げながら顔を両手で覆った。
「大丈夫か?」
肩を叩くと手首を捕まえられた。そして酷く真剣な眼差しで言った。
「なあ春斗、魔法使いっていると思うか?」
「――っ」
思わず言葉に詰まった。昨日光という魔法使いに出逢ったばかりだ。
「……なんだよ急に」
「いると思うか?」
強すぎる眼差しに春斗は思わず目を逸らす。
何と答えようか迷って、結局知る前の時の答を返す。
「いないと思う……」
「本当に?」
「本当に……」
「なら目を逸らすなよ」
ぎくりと心臓が跳ね、一拍置いてから視線を合わせる。親に嘘がばれたときの子供の様な仕草だ。
正直に言うと、こんな時の晴希にはできれば関わりたくなかった。大抵面倒なことになるからだ。
「いいか、よく聞け。俺は魔法使いだ。お前にも魔法使いの才能がある、というか、できた。お前も魔法使いになれ」