表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の魔法使い  作者: 小島もりたか
17/18

六月十七日(水) 午後八時三十分

「そういえば、いつこっちに来たの?」


 光は漫画に目を落としたまま、後ろの光のベッドで寛ぐサングウィンに声を掛けた。


「日本に来たのは、六月二日の午前七時頃ですね」

「私が日本に行くって見当はついてたんだ」

「そうですね。昔、桜井様とお会いしていたことは知っていましたので」

「そっかー。それで、ここにいるって分かったのは?」


 光は淡々と漫画のページをめくり続ける。


「六月二日午前八時十七分頃ですね。久しぶりに、はっきりと光様の魔力を感じました」

「あれは予想外だったんだよなぁ……一瞬だったけど私も久しぶりに魔力のコントロールができなくなったんだよねー。お陰でまだ見つかるつもりじゃなかったのに、もう見つかっちゃった」

「……桜井様は一体――ん?」


 窓の外から、カシカシと軽く窓枠を引っ掻く音が聞こえた。

 光が立ちあがり、窓のカーテンを開ける。サングウィンも光の肩に乗り、窓の外を覗く。

 窓の外に一等の小さな白い虎が居た。光と目が合うと、窓を開けて欲しそうに更に窓枠を引っ掻いた。

 光が窓を開けると、白虎は口を開いた。


「今からちょっといいか?」


 その虎の声は晴希のものだった。


「そろそろ呼ばれるかと思った」


 光が言うと、白虎は不機嫌そうに顔を顰めた。


「それで、いいの? 悪いの?」

「いいよ」

「じゃあ屋上に来て」

「分かった」


 言うや否や、白虎は小さい身体とは思えない程の跳躍で、屋上まで数階ある高さを跳んでいった。光も窓に足を掛ける。


「タナトス、留守番お願い」

「承知しました」


 するりと光から影が伸び落ち、膨らんだかと思うと、光と全く同じ姿を成した。


「行ってくる」


 光はもう一人の自分にそう言うと、返事を聞く間もなく、窓から目の前にある木に向かって跳躍した。更に木を足場にして女子寮の屋上に行く。サングウィンも飛んで光の後に続いた。

 屋上には一頭の白い大きな虎と、晴希が居た。光とサングウィンを見て僅かに晴希は目を見開く。


「それ、あんたの使い魔?」

「違うよ。私の子は、お留守番してもらってる」

「じゃあ、誰の?」


 光は悪戯っぽく笑う。


「それはご想像におまかせします」


 晴希は、光が絶対に口を割らないのを確信した。


「流石、筑紫田家嫡男。血が濃いね」

「そんなこと、関係ない。俺は純粋に春斗に幸せになって欲しいだけだ」

「一人に対してそうやって思って行動しちゃうのが、君の家の血筋だよね。お父さんといい、お爺ちゃんといい……」

「煩い、それは関係ねぇだろ」

「私と桜井君の関係に割り込んでこなければ、全然構わないんだけど」

「それは俺の台詞だ。春斗もぽっと出の女に惚れやがって……」


 俺の計画が……と呟く晴希に、光はおどけるように肩を竦めてみせた。


「それで、こんな遅くに何の用でしょうか?」

「確認したいことがあんだよ」

「何?」

「まず一つ、事務的な確認事項」


 僅かに投げやりな言い方で晴希は言う。


「六月十二日にこの辺で時空のワームホールが五カ所開いた。内三カ所は俺達が閉じたが、残り二つが何者かによって隠密魔法ナッカーンを使って閉じられていた。二つともあんたが閉じたのか?」

「桃川の所は閉じたけど、もう一つは違うよ」

「……じゃあ」


 誰が、と晴希が言おうとしたところで、意外な所から声が上がった。


「十二日に桃龍神社付近で発生した時空のワームホールでしたら、私が閉じました」

「は?」

「そっか、十二日にこっちに来てるなら、サングウィンも襲われるか」

「はい……緊急でしたので、いたしかたなく……」


 サングウィンは申し訳なさそうに光に頭を下げた。

 魔力が高い魔法使いの使い魔も、バグに襲われやすい対象に入っている。銀髪の魔法使いの使い魔と一般的な魔法使いならば、その使い魔の方が襲われやすい部類に入った。

 光は晴希を振り返り、一つ笑む。


「これで一つ目は解決?」


 不服そうにだが、晴希は頷いた。


「わかった。じゃあ、二つ目、それなら春斗はあんたがバグ退治したときに居合わせてた?」

「いたよ」

「そっか……」


 晴希は深い溜息をついた。


「ねえ、桜井君の嘔吐の癖って昔から?」

「……そうだな、俺と知りあったころには、もうあったな」

「桜井君に昔何が遭ったか知ってる?」


 光の言葉に、晴希の瞳が小さく揺れる。


「何がって……春斗が小二で転入してきてから今まで、特に何も起きてないと思う。よく知ってるのは中等部からだけど、それ以前の話で特に聞いたことはないし――春斗がどうしたんだ?」

「ううん、何でもない」

「いや、そこまで聴いといて何も言わないのはねぇだろ」

「――嘔吐の癖も、昔なにかあったせいじゃないかなって思っただけ」


 光は話すを一瞬ためらい、悩んだ挙句、結局口にすることにした。


「桜井君、昔私とあったことあるんだけど、忘れてるみたいだから……」


 晴希は心底意外そうに目を見開いた。


「幾つぐらいの時に?」

「五歳」

「どれくらいの期間?」

「三日間ぐらい」

「なら忘れてることの方が多いだろ?」


 光は頑なに首を横に振る。


「昔のままなら、それは有り得ない」

「……昔の春斗ってどんなんだったんだ?」


 光は昔の春斗の姿を思い出して笑んだ。今でもあの時の春斗との会話を全て思い出せる。


「今よりもっと活発だったし……別に目立つことも平気だったよ」

「そうか……」


 心底残念そうに、晴希は肩を落とした。


「……あんたは、何か春斗の秘密を知ってんのか?」

「昔の桜井君を知ってる分、晴希君よりかは知ってるかもね」

「――春斗は、あんたと出会った頃は魔法が使えていた?」


 ボソリと晴希は呟き、どんな反応も逃がすまいと光を強く睨んだ。

 しかし、光の反応は晴希の観察力を持ってしても、分析できなかった。


「基礎魔法ができなくて、隠密魔法ナッカーンができるなんて、はっきり言って異常じゃないか?」


 光は何も晴希に無意識のヒントを与えない。


「そうだね、通常魔法の呪文を噛みまくるなんて、本当に呪いが掛ってるみたい――まあ、本当にただの通常魔法に対する『拒否反応』なんだろうけど」

「でも隠密魔法ナッカーンなんて、そもそも呪文が普通の文献にはどこにも載っていないし、普通の魔法使いだと魔力がすぐ足りなくなる。春斗の魔力指数は二だったんだぞ? どこからそんな魔力がでてきたんだ?」

「そうだね」


 光はただ春斗の言葉に対して頷くだけだ。


「それに、春斗に触れた瞬間、魔力が増幅した――あいつ、人間か?」

「親友に対して酷い言い様だね……」

「待て、真面目に返されると、本当に俺があいつの悪口言ってるみたいじゃねえか」


 光はゆっくりと首を横に振る。


「今度、桜井君に伝えとくね。晴希君が桜井君のこと『人間じゃねえ』って言ってたって」

「おいおい、冗談でもやめろ」


 光の冗談に晴希は本気で焦り始める。


「魔法協会日本支部、期待のホープである晴希君の最大の弱点は桜井君である」

「ブーメラン刺さってるぞ……」

「私は日本支部、期待のホープじゃありませーん」

「上げ足をとるな」


 光は一つ笑うと、真面目な表情で晴希を見た。


「私も桜井君については分からないことだらけなんだ。だから――晴希君も桜井君について分かったことがあったら教えてね!」


 そう言うや否や、光は素早く屋上から降りて自室へ帰っていった。ご丁寧に自室付近には晴希達が入れないように隠密魔法ナッカーンで結界が張ってある。


「やられましたね」


 ずっと晴希に寄り添っていた白虎が呟いた。


「くそ、自分は隠し事しといてそういうか?」


 そう言って地団太を踏む。

 晴希はより光が嫌いになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ