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金色の魔法使い  作者: 小島もりたか
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六月十九日(金) 午後一時十五分

「ただいま戻りました!」


 ヤンシーは意気揚々と所属している組織のボスである、ロンの私室の扉を潜った。後ろからのんびりとチャンタイも続く。チャンタイは片手に日本のコンビニで袋売りしてもらった本気キチ――を解凍したもの――を持っている。


「お疲れ様」


 仕事机に向かっていたボスが、ゆっくりと視線を二人に向け微笑む。ボスはまだ四十かそこらの年齢だが真っ白な髪と醸し出す雰囲気のせいか還暦を過ぎているように見える。


「あら? チャンタイは何を食べてるの?」

「すいません……日本で買ってきたフライドチキンです」

「数あんまりないから、いくら伯父さんでもあげないよ」


 ヤンシーはボスに失礼な態度をとるチャンタイを睨むが、チャンタイは気にせずそのまま本気キチを食べ続ける。ボスはボスでチャンタイの扱いにも慣れたもので、

「そりゃ残念」

と言っただけで終わる。


「ピアスの件は特に問題はなかった?」

「ありませんでした!」

「魔法使いに邪魔されたりとかもなかった?」

「はい!」


 ボスはそこまで訊くと、更に笑みを深くして頷いた。


「それはよかった。どれどれ、じゃあ二人の成果を見せて貰おうかな」

「はい!」


 そう言ってヤンシーとチャンタイはそれぞれピアスをボスの机に置く。


「どれどれ」


 ボスはピアスを手に取る。ピアスのメインの部分である、紺色の石の光がボスの掌を照らす。手にとってピアスを見つめること数秒、ボスは苦笑いをした。


「……これはやられたね」

「どういうことです?」


 遠まわしに自分に任務に失敗したことを告げられ、ヤンシーの額に冷たい汗が浮かぶ。


「これはただの魔法石だね」

「あ……」


 言われて納得したヤンシーに、隣からチャンタイが首を傾げながらふてぶてしく問い掛ける。


「魔法石ってなんだっけ?」


 思わず溜息が出てしまった。もう既にこの説明は三回程しているはずだ。


「魔法石ってのは、魔力が溜まってる石のことな」

「これは青いから水に属した魔力が溜まってるね。きっと川でできたんだろう」


 さり気なく追加で説明をしてくれるボスにヤンシーは感謝と尊敬をする。


「二人には申し訳ないけど、外れだったね。クラウド・ミルアーに高値で売ろうと思ったのに……世の中そう上手くは行かないね」

「女神の雫ではなかったんですね……すいません」


 成功したと思っていた任務が実は失敗だったと知って、少なからずヤンシーは落ち込む。それこそ、今回の件で流石にもう組織から切られる可能性も考えていた。極度のストレスで倒れそうになるのを抑えながら、ボスが口を開くのを待つ。

 ボスは頭を掻きながら、ヤンシーにピアスを渡した。


「無駄足させてしまってごめんね。替わりにこれを売ってきてもらって今晩は豪華な店にでも行ってきておいで」

「え?」


 思ってもなかった言葉に、ヤンシーは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。慌てて失礼なことを口にしたと謝罪し、口を抑える。隣ではチャンタイが目を輝かせていた。


「え? いいの?」

「あぁ、好きなとこ行っておいで。ただし、売ったお金をヤンシーと二等分した金額内でね」


 以前チャンタイに好きな物を食べさせ失敗した経験から、ボスはチャンタイにしっかりと釘を刺す。チャンタイは僅かに顔を顰めた。


「あの、ボス……」

「何、ヤンシー?」


 ボスは優しくヤンシーに振り向く。


「いいんですか?」

「いいよ。好きな物食べといで」

「そうじゃなくて、俺、このままここにいていいんですか?」


 ボスは噴き出し、そして苦笑いをした。


「特に今回のことは気にすることないよ。私の調べ不足だ」

「でも、でも……」


 今までに溜まっていた不安が溢れ出して止まらなくなっていた。自分はもう組織に必要とされない人間かもしれない、必要でなければもうここにはいられなくなってしまうかもしれない。そう思ってしまうと不安で堪らなかった。

 自分の居場所はここしかない。

 気がつくと涙が溢れ出していた。


「……すいません」


 ボスが机越しにヤンシーの肩を叩く。


「今夜一緒にご飯でも行こうか」


 ボスの優しい笑みが目に焼きついた。

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